第247話 国王の提案
「魔女が自分で毒を作ったって……どうして?」
俺がそう尋ねると、ミルフィは悲しげな表情を浮かべて語り始める。
「魔女と呼ばれるくらいの魔法使いだから……きっと、普通の人間よりずっと長生きだったはず。だから、横にいる王子と年齢的な衰えに差が出始めてきた――そして、とうとう王子の方は……」
それ以上、ミルフィは語らなかったが……亡くなったってことだろう。
魔女が普通の人間より寿命が長いというのは有名な話だ。噂を耳にしたことがある人物に限っても、やはり百年以上は生きている。
――だから、普通の人間と生きていくというのは無理な話なのだ。
しかし、その言い伝えが本当で、王子がすべてを投げ捨てて魔女とともに生きる道を選んだとしたら……先に死ぬのは間違いなく王子だ。
「魔女は……王子のいない世界に絶望したというわけか……」
その結果、生みだされたのは人並み以上の寿命を持つ自分を殺すための毒薬。長い年月が経ち、もはや雫の一滴さえ残っていないのは救いと言えるか。もしこれが世に出回れば大騒ぎになるだろう。もしかしたら、ここの魔女が後世にこの毒を伝えないため、関係する記録はすべて処分したのかもしれない。
それを証明するかのように部屋の隅には不自然に床が焦げた部分がある。
これは俺の推測だが――魔女は毒を飲む直前にここで記録を燃やしたんじゃないかな。
その後、俺たちは転移魔法陣を通って一度シェンディル王国へと戻ることにした。
王国の謎は解明できたわけだし、あとはこの国の人たちに任せるとしよう。
「なんだか……切ない結果になったわね」
魔女の屋敷を出る直前、ふと足を止めたイルナがボソッと呟く。
「確かに……やりきれないな」
「以前、あなたの持っている鍵に描かれた女神に関する絵本の内容を聞いた時に匹敵するわね……」
女神の鍵の絵本、か。
あれも後味の悪い話だったな。
ただ、まあ、あれに関しては女神の力を手に入れた男の対応にいろいろと問題があったからなぁ。今回はどちらも悪くないってところが一層悲しさを増している気がする。
すると、そこへワグナーさんがやってきた。
「今回は本当にありがとう。君たちのおかげで長年に渡る謎がようやく解明された。国王陛下もお喜びになるだろう」
「いえ、こちらこそ」
俺はワグナーさんと固く握手を交わすと、彼は「報酬も弾んでくれるはずだ」と教えてくれた。
報酬、か。
……ちょっと期待しておこうかな。
こうして、俺たちはあとのことを騎士団の方々に任せて、城内へと戻るのだった。
城内へ戻ってきた俺たちはジェシカたちと合流。
それから、国王へ報告するため王の間へとやってきた。
屋敷の中で発見されたふたつの白骨遺体と、それらが恐らく例の魔女と王子である可能性を話すと、シェンディル国王は目に見えて動揺していた。
「そうか……言い伝えは本当だったのか……」
しばらく俯いていたが、ゆっくりと顔をあげるとこっちへ視線を向ける。その顔つきは晴れやかに映った。
「ふたつの白骨遺体については鑑定魔法を駆使して特定したいと思う。……それから、ひとつ君に提案があるのだが」
国王はそういうと、真っすぐ俺を見つめて、
「この国で――
驚くべき提案をするのだった。
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