第246話 ミルフィが見た光景
俺たちが転移した場所――そこは、悲しい恋物語が残る禁忌書庫であった。
……とはいえ、まだ確証はないため、それを探すために周辺を見て回っていたのだが、その途中、ミルフィの叫び声が聞こえたため、俺とイルナはその場所を目指して駆けだした。
「ミルフィ!」
声のした場所へ到着すると、そこには床に座り込むミルフィの姿が。見たところ、怪我とかもしていないようでひと安心――と思いきや、その表情は何かに怯えているようだった。
一体、彼女は何を見たのか。
真相を確かめるため、俺とイルナの視線もミルフィと同じ方向へ向けられる。
「あっ!」
「えっ!」
まったく同じタイミングで、俺とイルナの声が重なる。
そこにはボロボロになった大きなソファがあり、ふたりの人物が寄り添うように座っている。
――だが、すでにふたりは事切れていた。
しかも、かなり長い時間が経過しているようで白骨化していたのだ。
「こ、この人たちって……」
「……恐らく、さっきワグナーさんが話していた、王子と魔女」
どちらが王子でどちらが魔女なのか……見た目からは判断できない。とりあえず、俺たちはすぐさまこのことをワグナーさんに知らせた。
「お、おぉ……」
白骨化した遺体を目の当たりにしたワグナーさんは言葉を失っていた――が、それは彼だけではない。一緒にこの場へとやってきた兵士たちもまた、一様に驚きと悲しみに満ちた表情を浮かべている。
それほど、さっきの言い伝えというのはシェンディル王国民の間で知れ渡ったものであり、しかも現実の出来事であった(かもしれない)ということに複雑な感情を抱いているようだった。
「やっぱり……ここは言い伝え通りの場所だったみたいね」
「詳しく調べてみないことには……」
この白骨化した遺体の正体――それは、鑑定魔法を駆使すれば発覚するだろう。ちょうど、城へ応援を要請しているから、きっと魔法使いも駆けつけるはず。その人に鑑定してもらうことにしよう。
とはいえ、ここまで言い伝え通りの状況が出来上がっているとなれば、結果はもう見えているようなものだ。
とりあえず、これ以上は触れないようにしようと思い、その場から距離を置こうとした――その時、足に何かが当たる感触が。
「うん? 瓶?」
拾い上げてみると、それは魔法薬が入っていたみたいで、ほんのわずかだが魔力が残っている。すると、
「フォルト! それをすぐに捨てて!」
ミルフィが突然叫び、それに驚いて思わず瓶を手放した。
「ど、どうしたんだ?」
「さっきの瓶だけど……強力な毒薬が入っていたみたい」
「えっ!? 毒!?」
「そこに入っている瓶に毒薬が入っていたのなら……このふたりは何者かに毒殺されたのかしら?」
どうやら、イルナも同じことを思ったようだが――ミルフィの見解は違っていた。
「私は……たぶん、魔女の方が自分で毒薬を作り、それを飲んだんじゃないかしら」
「「えっ?」」
自分で毒を作り、それを飲んだって……さすがにないだろうと思ったが、なぜかミルフィは自信ありげだ。
……ならば、その根拠を聞こうじゃないか。
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