第244話 謎の部屋、再び

 シェンディル王国の地下に広がる空間。

 そこにはある仕掛けが施されていたのだが、なんとか突破することに成功。俺たちは次の部屋へと歩を進めた。


「ここは……」


 部屋に入った瞬間、足が止まる。

 そこはとても狭い部屋だった。

 成人男性が十人いけるかどうかってレベルだ。

 とりあえず、相談した結果――俺とイルナとミルフィ、それからワグナーさんと数人の騎士が先行して入ることに。

 ――で、入ってみた感想だが、


「な、何もない……」


 そりゃそうだ。

 狭い空間ということは、入る前から室内の全貌が丸見えってことだからな。その段階で何もなく、誰かが入ったら異変が起こるだろうと思いきや、かれこれ五分近く見て回っているがなんの変化もない。


「ど、どういうことなんだ? まさかこれでおしまいなのか?」

「或いは……ここにも何か仕掛けがあるのかもしれません」


 混乱気味だったワグナーさんも、俺の言葉を受けてハッとなる。

 しかし……そう言ってみたはいいものの、ハッキリ言ってさっきよりも仕掛けを解き明かすのが難しいぞ、これは。


 何せ、これ以上探しようがないのだ。

 クルッと体を回転させることで、部屋の隅々まで見渡せる狭さときている。


「特別強い魔力も感じられないし……」

「本当にただの狭い空間なのかしら?」


 ミルフィとイルナも半分あきらめているような感じだ。

 ……本当に、この部屋には何もないのだろうか。

 そんなはずはない、と俺は考えている。

 だったら、わざわざあんな仕掛けを作ってまで隠す必要はないし……でも、そうだとしたらどこにどんな仕掛けがあるっていうんだ?

 悩みながら部屋を歩いていると、同じように俯きながら歩いていたミルフィとぶつかってしまう。


「あっ」

「きゃっ」

 

 その衝撃で、ミルフィは持っていた杖を床へと落としてしまった。


「もう、何をやっているのよ」


 呆れたように言いながら、床を転がっていくミルフィの杖を拾うイルナ――と、


「あら?」


 イルナの動きがピタッと止まった。


「どうかしたのか?」

「い、いえ……これを見て」


 そう言って、床を指さすイルナ。別段変わった様子はないように思えたが……目を凝らして見てみると、何やら薄っすらと模様のようなものが。


「これって……転移魔法陣!?」


 ダンジョンでもたまに見かける、別の場所へと瞬間的に移動できる魔法陣――それが、この狭い部屋一面に描かれていた。


「転移魔法陣だと? ということは……ここで魔力を発動させれば、別の場所へ飛ぶということか?」

「その通りです。でも、一体どこへ……」

「試してみればいいんじゃない?」


 軽いノリでイルナは言うけど……まあ、そりゃあ飛んだ先にも魔法陣があるわけだから、戻ってこられないわけじゃない。危険な場所だと分かれば、即時撤退も可能なのだ。


 とはいえ、やはり最終的な判断はワグナーさんに委ねるとしよう。

 ……そうなると、答えは決まっているようなものだけど。


「行こう。転移魔法陣の先へ」


 表情を険しく強張らせたまま、ワグナーさんは前進を選択する。

 内心「そうこなくっちゃ」とガッツポーズを決めていたが、さすがに表に出すわけにもいかないのでグッとこらえる。


 というわけで、部屋に入ったメンツのまま、俺たちは転移魔法陣に魔力を注いでその先へ向かうことにした。


 果たして何が待ち受けているのか。

 期待と不安が入り混じる中、ミルフィが代表して魔力を注いでいく。

 やがて、俺たちの体は魔法陣から浮かび上がった光に包まれていった。

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