第243話 仕掛け

 シェンディル王国にある謎の部屋の地下に広がっていた空間。

 摩訶不思議な形状をした部屋に隠された秘密……それは――


「これは炎魔法使いを現す紋章だ」

「も、紋章? ――あっ」


 ミルフィは思い出したようだ。

 

 魔法使いには、それぞれ属性に合わせた紋章が存在している。魔法兵団や、多少なりとも魔法が使える騎士は自身の属性を仲間に知らせるため各国で異なるデザインのものを使用していると、ドン・ガーネス討伐後に参加した聖騎士から聞いた。


 ――で、この部屋の紋章はシェンディル王国で使用されている炎の紋章とまったく同じデザインをしているのだ。


 俺はそのことを早速ワグナーさんに伝える。


「む? ……言われてみれば、確かに!」


 一気に鼻息が荒くなるワグナーさん。

 だが、


「で、それがこの部屋の謎とどう関係してくるんだ?」


 その通りだ。

 この部屋の形状が炎属性の紋章であることは判明したのだが、じゃあ、それが一体何を示しているのか――そこが重要だ。


 これについても、ひとつ仮説があった。


「実は――こんなのものを発見したんです」


 俺はそれだけ告げると、ワグナーさんや他の仲間たちの部屋の中心へと連れていく。その床には、ある仕掛けが施されていた。


「見てください。ここにくぼみがあるの、分かりますか?」

「何? ――っ!? ほ、本当だ……」


 どうやら、ワグナーさんだけでなく、うちのパーティーの面々もくぼみの存在に気づかなかったらしい。

 無理もない。

 本当に小さなくぼみだからな。

 我ながら、よく気づいたものだと感心するよ。


「きっと、これが大きなヒントになっていると思うんです」

「と、いうと?」

「ここで炎魔法を使え――って意味じゃないでしょうか」


 少々飛躍させた考えとも取れるが……俺としては、割と自信がある推察だった。根拠がないって手を除けば、いい線行っていると思うんだけど。


「ふむ。では、早速試してみるとしよう」


 ワグナーさんは自身の部下に炎属性の魔法使い呼んでくるよう告げたが、


「その必要はありませんよ」


 それを俺が止めた。

 

「どういう意味だ?」

「……炎属性の魔法使いは、自身の魔力を炎に変えることができるからそう呼ばれているのです――が、俺にもそれは可能なんですよ」


 そう言って、俺は龍声剣を抜いて構えると、剣先に小さな炎をともす。


「おおっ! 全属性の魔法を使いこなすという龍声剣か!」


 どうやら、ワグナーさんは龍声剣の噂を知っていたらしい。あちこちで見境なく使っているので、とうとう情報が漏れだしたか?


 まあ、ガーネス・シティでの戦いでも派手に使ったしな。

 噂が広まってもおかしくはない。

 

 ――って、それはひとまず置いてくとして。

 俺は炎が揺らめく剣先をくぼみへと近づけた。

 すると、


 ボオッ!


 という音とともに、力強く火柱が立った。


「わっ!?」


 思わずのけぞり、尻もちをつく。

 まさか、あんなふうになるとは予想もしていなかったのだ。


 しかし……どうやら俺の狙いは当たっていたらしい。

 

「お、おい! あっちにさっきまでなかった扉が出てきたぞ!」


 騎士のひとりが、部屋に起きた異変を察知して叫んだ。

 まさに、次への扉が開かれたってわけか。

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