第203話 歌声

【お知らせ】


 新作を投稿しました!


「引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて小国の離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~」


https://kakuyomu.jp/works/1177354054896085495


 メインテーマは【スローライフ&開拓】!

 のんびりまったりしつつ、トラブルに巻き込まれてしまう主人公の明日はどっちだ!

※カクヨムコン7参加作品です。応援よろしくお願いいたします!<(_ _)>



…………………………………………………………………………………………………






 間に合わなかった。


 マシロへと放たれた絶対服従の鎖。

 解錠レベル四桁を誇るレジェンド級のお宝アイテム――その効果は、精霊女王として覚醒したマシロにどう働くのか。


 ただ、ガーネス自身は効果が発動すると確信している様子。

 もし……このままマシロがガーネスへ服従するような事態となれば、俺たちと敵対することになるのは必至。無効としてはもう戦力らしい戦力はここにある甲冑くらいだろうからな。躍起になるのも頷ける。


 それを阻止しようとしたが――あと一歩のところで失敗。


「!」


 依然として動きのなかったマシロだが、鎖が放たれた時に視線が動いた。しかし、とても避けられそうにない。


 ――と、その時だった。



「~~~~」



 歌が聞こえた。

 体の芯から震えあがるような、そんな歌声だ。


 歌詞は聞き取れないものの、それは間違いなく放たれた鎖への対抗手段であることは間違いなかった。


 マシロの抵抗。

 シアターに囚われ、自由を奪われていた彼女にとって、今までの積もり積もった感情を込めた歌だ。

 きっと、昔のマシロならば歌えなかっただろう。

 俺たちと一緒に旅をして、見たことのない場所でさまざまな冒険をしてきた。この経験が、知らず知らずのうちにガーネスへの反抗心を育て、それが今、本来の姿――精霊女王としての覚醒に導いたのだ。

 そして――


「あっ!」


 俺たちは決定的な瞬間を目撃した。

「バキッ!」という音を立てて、鎖が粉々に弾け飛んだのだ。


「バカな!?」

 

 驚愕するガーネス。

 解錠レベル四桁越えで、尚且つ絶対服従なんて大層な名前のついたアイテムだ。負けるはずがないと思ったのだろう。

 しかし、マシロの気持ちを乗せた歌は、ガーネスの切り札である絶対服従の鎖を打ち破ってみせた。


「す、凄い……」

「解錠レベル四桁のアイテムさえ弾き返す歌唱魔法……」

「これが精霊女王の実力ですの!?」


 イルナ、ミルフィ、ウィローズはこれまでとはまったく違うマシロの力に動揺していた。ジェシカやトーネに至っては、声すら出ないほどの衝撃を受けている。


 ……俺も同じだ。


 まさか、あのマシロが精霊女王で、しかもあれだけの力を秘めていたなんて。


「お、おのれ……」


 一方、切り札を失ったガーネスは歯ぎしりをして悔しがっている。

 絶対服従の鎖――恐らく、あれを手に入れるために相当無茶なことをしてきたのだろう。それまでの余裕溢れる態度と一変し、心の底から怒りが沸き上がってきているような顔つきを見て、それを確信する。


「やったな、マシロ!」


 俺は嬉しくなって、思わずマシロに声をかけた――が、


「…………」

 

 マシロから、特に返事はなかった。

 それどころか……こちらへ視線を移した後、不思議そうに首を傾げている。

 まさか――


「あなた……誰?」


 恐れていたひと言だった。


「ちょ、ちょっと、フォルトのこと忘れちゃったの!?」

「待って! もしかしたら……私たちのことも……」

「? あなたたちは?」


 ミルフィの懸念は現実のものとなった。

 精霊女王として覚醒したマシロは、俺たちのことをすっかり忘れていたのだ。


「そ、そんな……」


 こんな……こんなことってあるかよ。

 全員が打ちひしがれていると、


「歌わなくちゃ……」


 マシロはそう言って、再び歌唱魔法を発動させる。

 だが、響き渡るその歌は――


「ぐっ!?」


 仲間であるはずの俺たちを襲った。

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