第201話 マシロ、覚醒

 圧倒的優位かと思われた戦況は、ガーネスの持つ命の宝玉の効果により逆転してしまった。

 何度倒してもよみがえる甲冑たち。

 魔力によって動くヤツらには疲労という概念がない。

 敵を倒すまで執拗に俺たちを追いかけ回してくる。


 破邪の盾でカバーできる範囲には限界がある。

 長期戦になれば、間違いなくこちらは全滅だ。


 この状況を打開する方法はただひとつ――甲冑たちをアイテムで操っているドン・ガーネス自身を倒すこと。


 だが、そのガーネスも灼熱の聖斧という厄介な武器を装備している。

 精霊との契約によって生みだされた斧から放たれる真っ赤な炎は、手にした者以外を焼き尽くす。ガーネスはその炎を周囲にまき散らし、俺たちを近づけさせないようにしていた。


 ならば、こちらも水魔法で対応しおうとしたのだが、さすがは精霊との契約によって生みだされた炎。簡単には消えない。

 消火にてこずっていると、復活した甲冑たちが襲ってくる――このループを繰り返すため、こちらが体力を消費するばかりでまったく事態は好転しなかった。


「このままではジリ貧ですわ!」

「どうにかして突破口を開かないと!」


 ウィローズとイルナの叫び――それはもっともな意見だが……その突破口ってヤツが思い浮かばない。


「くそっ!」


 ダメだ。

 焦れば焦るほど、考えがまとまらない。

 落ち着けと呪文のように繰り返すが、そんなこちらの想いをあざ笑うように甲冑たちはよみがえる。


 ――その時、


「!?」


 突如、これまでにない強大な魔力の存在を感じ取る。

 ミルフィやジェシカもそれに気づき、出所へと視線を移動させた。

 そこにいたのは――マシロだった。


「マシロ……?」


 ここまで歌い続けていたマシロであったが、それを止めて今は俯いたままピクリとも動かない。


「む? マシロか……」


 この変化に、戦況を静観していたドン・ガーネスも反応を見せる。

 シアターの歌姫として、かつては手元に置いていたマシロの変化――どうやら、ガーネスにはこれについて思い当たる節があるようだ。


「ようやく思い出したようだな」

「思い出す……?」


 どういう意味だ?


「ふん! ただ歌がうまいからという理由だけで、俺がそいつを手元に置いていたと思っていたのか?」

「何っ?」


 シアターの歌姫として、マシロを幽閉に近い状況に置いていた――俺たちはマシロ自身の話からそう解釈していたが、どうやらガーネスがマシロにこだわっていた理由はそれだけではないらしい。


「得意の歌でいつか力を取り戻すと想定していたが……仲間の窮地で覚醒するとは、さすがに計算外だったな」

「か、覚醒……?」


 俺たちの視線はマシロに釘付けとなった。

 何より俺たちの目を引いたのは――マシロの背中から伸びる金色の羽。


「マ、マシロ……」

「…………」


 こちらの呼びかけに、マシロは応答しない。

 なんていうか……羽化したての蝶って感じだ。


 その光景を見たガーネスは、満足そうに頷く。

 そして、


「完全に目覚めたようだな……歌の精霊女王が」

 

 ガーネスはそう口にした。

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