第179話 亡霊のダンジョンとは?
「亡霊のダンジョン――通称ゴースト・ストリート……冒険者をやっているなら、あそこは一見の価値ありだぜ?」
ダスティンさんの語る亡霊のダンジョン。
それに関心を持ったのは俺だけじゃなかったようだ。
「亡霊ですか……一体、何をもってそのような名前がつけられたのでしょう」
一番いい食いつきを見せたのがジェシカだった。
「このダンジョンを探索しているヤツは口を揃えて言うんだよ――幽霊を見たってな」
幽霊を見たから亡霊のダンジョン。
思ったよりもストレートなネーミングだった。
「幽霊……じゃあ、死霊術を使う者がいるとか?」
「噂になるくらいですから、個人の力とは思えません」
「だったら、何か特殊な条件が重なって人の霊魂が見えやすくなる場所――とか?」
「それがもっとも現実的だと思います」
どう現実的なのか、いまひとつ要領を得ない気もするが……しかし、素直に行ってみたいと思えるダンジョンだ。それに、実際足を踏み入れたことのあるベテランのダスティンさんが冒険者として一見の価値ありとまで言わせる……実に魅力的――だとは思うんだけど、
「…………」
今まさに亡霊と化しているイルナを見たら、そこは避けた方がよさそうかな。
その様子にダスティンさんも気づいたようで、苦笑いを浮かべていた。
「ははは……ま、まあ、この世界にはまだまだ面白いダンジョンはたくさんあるからな。いろいろと見て回るのもいいだろう」
「そ、そうですね」
なんだか、気を遣わせちゃったかな?
「それより……どうだ、このダンジョンは?」
気まずくなった空気を振り払うように、ダスティンさんがそう尋ねてきた。
「とてもいい場所で驚いています。草原のダンジョンとよく似ているんですけど、そこともちょっと違っていて」
「おっ? あそこに潜ったことがあるのか。――って、そういえば、おまえたちはあの辺を縄張りにしていた霧の旅団のメンバーだったな」
「えぇ。――そういえば、ダスティンさんはパーティーを組まないんですか?」
「俺はひとりで自由気ままにしている方が性に合っているんだよ」
豪快に笑い飛ばすダスティンさん。
なるほど。
そういう考え方もあるか。
俺は今のパーティーがとても居心地いいから、今さらひとりにはなれないだろうけど、イルナに会っていなかったら、今頃ひとりで冒険者をしていたかもしれないな。
「さて、俺はそろそろお暇するかな」
「いろいろと情報ありがとうございました」
「こっちこそ。塔のダンジョンのあとは砂のダンジョンにも行ってみるよ。――っと、そうだ。最後にこれだけは伝えておこう」
そう言うと、ダスティンさんは東の方角を指さした。
「ここを真っすぐ進めばもっといい景色を拝めるぜ? それに、運が良ければレアなモンスターも出現するって噂だ」
「ありがとうございます。早速行ってみます」
置き土産の情報を教えてくれたダスティンさんはゆっくりと腰を上げる。それから、別れの挨拶を済ませると、大きな手を振りながら立ち去っていった。
「いい人でしたね、ダスティンさん」
「ああ」
あんな気持ちのいい人ばかりなら、いざこざなんて起きないんだろうけどな。
とにかく、ダスティンさんが教えてくれた東の方向へ進んでみよう。
果たして、どんな光景が広がっているのか――って、その前に、未だ固まり続けているイルナをどうにかしないとな。
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