第174話 悪党を追え!

 逃走したバルテルとその協力者であるデクスターを追うため、俺は被害者である冒険者たちに事情を説明した。

 もちろん、ふたりの背後についても言及する。


「ド、ドン・ガーネスだって!?」


 さすがはビッグネームだけあって全員が知っているようだ。そんな大物が相手とあってはさすがに尻込みするかもと思ったが、


「上等じゃねぇか!」

「やってやろうぜ!」

「おう! ヤツのやり口は前々から気に入らなかったんだ!」


 逆に闘争心へ火をつけた結果となった。


「あいつらはまだダンジョン近くに潜伏しているはずです! すぐに戻って周囲を捜索してみましょう!」

「「「「「うおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」


 爽やかな風が吹くダンジョン内に怒号が轟く。

 冒険者たちは武器を手にし、来た道を物凄い勢いで戻っていった。


「フォルト! 無事だったのね!」


 その波が少し穏やかになると、ミルフィたちがやってきてようやく合流できた。


「他の冒険者たちが凄い剣幕で戻っていきますけど、何かあったんですか?」

「詳しく説明している暇はないから、簡潔に言うよ。――敵はダンジョンの入り口近くに潜伏していて、みんなから奪った宝箱をドン・ガーネスのもとへ届けるつもりだ」


 俺の言葉を耳にしたジェシカ、ミルフィ、マシロ、トーネの四人は事態を把握。

 そういったわけで、俺たちも遅れはしたがバルテルとデクスターを追ってダンジョンを後にしたのだった。




 ダンジョンの外では冒険者たちによる大捜索が行われていた。


「いたか!」

「いや、こっちにはいねぇ!」

「ちくしょう! どこに隠れやがった!」


 どうやら居場所をつきとめるのは苦労しているようだ。

 そんな時は――


「マシロ」

「任せてください!」


 マシロの歌唱魔法で位置を割りだす。


「――――」


 透き通るような美しくて優しい歌声が響く。

 その声は探知効果だけでなく、荒んでいた冒険者たちの心さえも落ち着かせていった。


「な、なんて優しい声なんだ……」

「心が洗われていく気分だ……」


 眉間にしわを寄せ、怒鳴り散らしていた冒険者たちの顔は緩まり、ほっこりとした表情を浮かべている。

 そして、


「いました! このダンジョンの裏手に大勢の人が一ヵ所に固まっています」

「そこだ!」

「よっしゃ! 逃げられる前に捕まえるぞぉ!」

「「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


 再び轟く怒号。

 ――しかし、さっきまでとは明らかに質が違った。

 怒りにまかせた遠吠えってわけじゃなく、程よく気合の入った声。きちんと冷静さを残しているような感じだ。

 すると、ひとりの冒険者が俺たちの前で足を止める。


「ありがとう、お嬢ちゃん。おかげで冷静になれた。いい歌声だったよ」

「あっ、えっ、えっと、あ、ありがとうございましゅ!」


 自分の歌声を褒めてくれた冒険者に対し、マシロはオドオドしながらもきちんとお礼が言えた。……最後ちょっと噛んでたけど。


「えへへ……」


 ――でもまあ、本人が嬉しそうだからいいか。


「さあ、みんな! 俺たちも遅れないように突撃しよう!」

「「「「「おお!!」」」」」


 気持ちが引き締まったところで、俺たちもバルテルとデクスターを追い詰めるため、マシロが見つけたヤツらの隠れ家に向けて走りだした。


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