第173話 再来

「無様だな、バルテル。横取り屋の名が泣くぞ」

「うるさいな……それより、とっとと回収してくれよ、デクスター」

「ふん。ガーネス様の望みを叶えられなかったくせに、随分と偉そうな口の利き方をするじゃないか。もう一度落ちながら頭を冷やすか?」

「!? わ、悪かったよ……」


 バルテルを言いくるめた謎の男。

 年齢は四十歳くらいか?

 長い黒髪に鋭い目つき……只者じゃないとすぐに分かった。

 あと気になったのは――「久しぶりだな」という言葉。


 俺……あいつに会ったことがあるのか?

 言われてみればあの気配……どこかで感じたことがある。


「少年、フローレンス家ご令嬢の精神世界では世話になったな」

「えっ? ――あっ!」


 この気配……思い出した!

 フローレンス伯爵の娘であるライサお嬢様の精神世界に住みついていた呪術師だ!

 あの時は今みたいな落ち着きがまったくなく、だいぶ慌てた様子だったから印象がまるで違う。というか、よく思い出したら、あの時はローブを頭までかぶっていたから顔を見ていないんだった。


「君の龍声剣も大変魅力的だが……今回はこの辺でお暇しようか」

「待て! 盗んだ宝箱を返すんだ!」

「宝箱ならすでにダンジョンからほとんど運び終えている。そのうち、我々の仲間がガーネス様のもとへ届けるだろう」


 ということは――まだ宝箱はダンジョン外近くにある!

 この事実を大至急みんなに知らせないと。

 俺は踵を返し、走りだ……そうとしたけど、現在地を把握していなかったのをすっかり忘れていた。


「ふふふ、無駄だ。今からでは間に合わんよ」


 余裕の笑みを浮かべる呪術師デクスター。

 と、その時、



「ワオーン!!!!」



 突如響き渡る遠吠え。


「な、なんだ!?」

「あの遠吠え……テリーか!」

「――その通りよ!」


 テリーの名を口にした途端、近くの茂みから聞き慣れた女の子の声がした――と思った直後、その茂みから巨大な岩石がデクスターとバルテル目がけて飛んできた。


「ぐっ!?」

「やばっ!?」


 狙われたふたりは咄嗟に回避。

 さっきの声にプラスして、あんなデカい岩を放り投げることができるのは――やっぱりあの子しかいない。


「イルナ! 来てくれたのか!」

「当然じゃない!」


 やってきたのはイルナであった。


「ちいっ! よもやこんなに早く見つかるとは!」

 

 向こうからすれば、テリーの存在は想定外だったようだな。

 そのうち、


「こっちの方だ!」

「いたぞ! あそこにバルテルがいる!」

「仲間もいるぞ!」

「全員捕まえろ!」


 怒れる冒険者たちが森へと雪崩れ込んできた。


「バカな! どうしてここが!」

「!? デクスター! さっきの遠吠えだ!」

「くっ……おのれぇ、まさかおまえらにも使い魔がいたとはな。仕方がない。今日のところはこれで退くぞ、バルテル」


 デクスターとバルテルはその場から走り去っていく。

 追いかけようとするイルナだが、俺はそれを止めるように肩へ手を置いた。


「待つんだ、イルナ」

「どうして止めるのよ!」

「ヤツらはまだお宝を全部運びだしていない。ダンジョンの外でまだ出立の準備をしているんだ」

「出立? どこへ行こうと?」

「ドン・ガーネスのところさ」

「!?」


 その名を出すと、イルナの顔色が変わる。

 ドン・ガーネス。

 諸悪の根源。

 これ以上、ヤツの私腹を肥やさないためにも、宝箱の流出阻止を最優先に行動すべきだと俺は判断した。

 ちょうど、戦力がこちらへ向かって走ってきている。

 彼らと協力して、宝箱を奪還するんだ。

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