第158話 名もなきダンジョン

 開封済みの宝箱が山積みされた空間。

 それは異様の一言でしか表現できない。


「あの、マルクスさん……ここは一体……」

「宝箱の墓場――僕はそう呼んでいます」


 宝箱の墓場、か。

 確かに、この光景を言葉で表すなら、それが一番適切かもしれない。


「じゃあ、このダンジョンって……」

「地図にはない、名もなきダンジョンです。あえて呼称を与えるなら――廃棄のダンジョンとでもしましょうか」

「廃棄のダンジョン……」

「そう……ここは開封済みの宝箱だけじゃなく、あらゆるモノが捨てられているのです。言ってみれば、超巨大なゴミ箱ってところでしょうか」


 ゴミ箱って――と思いつつ、注意して辺りを見てみると、折れた剣だったり、穴の開いた鎧だったり……とにかくあらゆる物が捨てられていた。


「なんだか……複雑な気分ね」

「えぇ……捨てられているのは使えない物ばかりだけど……」

「不思議と勿体ないって感情が湧きますね」


 ジェシカの言葉に同感だ。

 なかなか手に入らない物ばかり……中には、へし折れてさえいなければ相当な価値になる剣もある。


「御覧の通り、ここには君たちを満足させる物はないよ」

「……そのようだな」


 突如、聞き慣れない声が会話に入り込む。

 その声の主を知るため、俺たちは一斉に振り返った。

 

「あなたは……」

「名前はエディ。アイテム屋兼冒険者だ」


 現れたのは気を失っていたアメリーの父――エディさんだった。


「アメリーのお父さんですよね!」

「そうだが……なぜアメリーを知っている?」

「父であるあなたが行方不明ということで、とても寂しがっていました。それで、俺たちで捜そうってことになって」

「そうだったのか……俺もすぐに帰ろうと思っていたのだが、道が分からなくてなぁ……そのうち携帯食もなくなって、空腹のあまり倒れてしまったのだ」

「そこを僕が偶然発見して連れてきたってですね」


 なるほど。

 そういう経緯があったのか。


「って、このダンジョンがある場所って――」

「安心していいですよ。君たちはハーシェ村の近くにある、あの小さなダンジョンからここへ来たんですよね?」

「え、えぇ」


 やっぱり、あれってダンジョンだったのか。


「でしたら、ここを真っすぐ進むと出口があります。そこは村の近くにある丘とつながっていますから、すぐに戻れますよ」

「ほ、本当か!?」


 一番大きな反応を示したのはエディさんだった。

 そりゃあ、娘のアメリーをずっと心配していたに決まっているものな。


「あのダンジョンの謎を解き、あわよくばギルドを運営できれば村の財政が潤うと思ったんだが……ここではそれも叶いそうにないな」


 エディさんがダンジョンに潜った理由は、村おこしをしようとしたからだったのか。しかし、ここにあるのは空っぽの宝箱ばかりでモンスターもいない。せっかくの企画もこれでは台無しだ。

 

 項垂れるエディさんに欠ける言葉が見つからない――と、


「そう決めつけるのは早計かもしれませんよ」


 マルクスさんはそう告げて、エディさんの肩を優しく叩いた。

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