第94話 次の目的

 バッシュさんと共にオデル村で一夜を過ごし、翌日の朝には拠点に戻るための帰り支度を始めていた。


「さて、俺はひと足先に戻らせてもらうよ。この後、うちに来客があるんだ」

「来客?」

「騎士団の人間だよ。俺たちと同じように、一部の王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーだけが私腹を肥やしていることを良しとしないヤツらがいるのさ」


 ドン・ガーネスのように、力のある限られた解錠士アンロッカーが権力を牛耳っているのが、この世界の現実だ。

しかし、バッシュさんのように、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーとしての力を持ちつつも、現状を打破し、人々が正当な報酬を払って宝箱の解錠を行えるようにしていこうという運動を起こしている者は日に日に増しているという。



 俺もバッシュさんの考えに賛同している。

 命がけでダンジョンに潜り、苦しみ抜いた末にようやく手に入れた宝箱――でも、解錠するのに法外な値段がかかるとあっては、せっかくのお宝もまさに持ち腐れとなってしまう。


 それ以外にも、解錠を必要とする場面はいくらでもある。

 需要はあるんだから、がめつくならなくたっていいと思うのだが……有力な解錠士たちは、我先にと権力を手にしていく。


「バッシュさん……」

「心配なら無用だ。君はその力で冒険者としての名を高めてくれたらいい。それがやがて俺たちの目的達成のためにもなる」


 今の俺にできること――それは解錠士アンロッカーとしてだけではなく、冒険者として名をあげていく。解錠士アンロッカーだけとしてではなく、冒険者として名前が売れれば……俺たちの思惑にもプラスに働く。


「分かりました」

「頼むぞ。こっちのことは俺に任せてくれたらいい。これからも何か情報が入ったら君に伝える。まあ、直接じゃなく、うちのメイドを介すこともあるだろうが」

「はい! ありがとうございます!」


 俺とバッシュさんはいつかのように、また固く握手を交わした。




 ペドロ村長に別れを告げて、俺たちは拠点へと戻って来た。


王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーのドン・ガーネスか……最初から分かってはいたけど、さらに多くの貴族や商人を巻き込むなんて……どんなヤツなのか、一度その顔を拝んでみたいわね」

「まったくだわ」


 拠点について早々、イルナとミルフィは憤慨していた。

 自らの勢力を拡大するため、シアターに要人たちを招いてよからぬ企みを巡らせるドン・ガーネスのやり方に怒りを感じているようだ。


「フォルトさんが王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーと同等の力を持ちつつ、冒険者としても優れた功績を残せば、ドン・ガーネスのような悪徳解錠士アンロッカーにも対抗できる下地ができる――バッシュさんはそれに期待しているのでしょうね」


 バッシュさんの狙いは、まさに今ジェシカが言った通りのことだろう。


「だとすれば、これからは今以上に冒険を頑張らないとね」

「そうですね!」


 鼻息荒く語るのはイルナとマシロのふたり。

 その横で、静かに頷きながらも強い決意を感じさせる笑みを浮かべるミルフィ。

 

「ああ……頑張らないとな!」


 俺も改めて気合を入れ直す。

 とりあえず、明日にはフローレンス伯爵に報告へ行かないと。

 次の冒険はそれからだ。



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