第64話 隠し扉の向こう側

 リカルドさんたちは途中経過をフローレンス伯爵に報告するため、一旦ダンジョンから離れることとなった。

 また、度重なる戦闘で消耗したエリオットさんたちは、食堂奥にある仮眠室で休憩を取ることに。驚いたことに、ダンジョン内にあるこの塔は、食堂兼宿屋としての機能も果たしていたのだった。

 一方、まだ元気のある俺たちは、塔の裏側へと周り、オーラが噴き出ていた岩壁の下へ来た俺たち。


「隠し部屋の場所を把握できるなんて……前はなかった力よね」

「あぁ……」


 ここへ来て、新たに目覚めた俺の新しい能力。

 イルナの言う通り、ついこの前まではなかった力だ。


 その力で見つけた隠し扉――なんだけど。


「問題はあそこまでどうやって登るかね」


 ミルフィの指摘通り、ろくに足場のない岩壁を登らなくてはいけない。

 それも、かなり高所まで。

俺もそれをずっと考えていたんだよなぁ。

みんなで途方に暮れていると、

 

「その点は心配ない! 俺の使い魔を呼ぼう!」


 俺たちの背後からそう声をかけてきたのは、食堂を切り盛りするバラクさんだった。

 ……って、使い魔?


「バラクさん、使い魔持っていたんですか?」

「冒険者時代に宝箱から卵がドロップしてね。先日孵化したばかりだが、こいつの能力を使えば全員であの隠し部屋へ行けるだろう」


 バラクさんの使い魔か……。

 凄く興味があるな。

 俺としても、今後使い魔を入手したいって希望はあるし、いろいろと話を聞いて飼育の参考とさせてもらおう。


「いでよ!」


 パチン、とバラクさんが指を鳴らすと、突如地面が盛り上がってそこから《何か》が姿を現した。


「こいつが俺の使い魔――ゴーレムだ」



 ゴーレムって、あのゴーレムか!?


 見た者を震え上がらせるその恐ろしい姿。そして、

 

「キュイ♪」


 土で作られた彫刻のごとき筋肉質なボディ――とは対照的な、つぶらな瞳に愛らしい鳴き声。女子陣からは「顔と声は可愛いけど……」という困惑した声が聞こえた。


「あの、バラクさん」

「なんだい?」

「これがあなたのゴーレム?」

「これが俺のゴーレム!」


 なんていうか……思っていたのと違う。

 気を取り直して、

 

「このゴーレムの能力って?」

「これさ」


 バラクさんがゴーレムに目で合図を送る。

 それだけですべてを察した有能なゴーレムは、その巨大な拳を地面に叩きつけた。すると、地面がせり上がり、それはやがて平たく整地されていく。そして、隠し部屋のあるところまで続く即席の道を作り出した。


「すげぇ……」


 これがゴーレムの能力――地の力を操る能力か。


「使い魔って便利なんですね。他にもいるんですか?」

「まあね。基本的には、自分が持っていない属性魔法の能力を有した使い魔を持っておくのがベストだ」


 なるほどね。

 自分の弱みを使い魔でカバーするってことか。

 俺は龍声剣おかげで全属性の魔法が使える。――けど、俺のは攻撃魔法だから、あんなふうに器用なマネはできない。

 そういう意味でも、やっぱり使い魔は欲しいな。


「ごくろうだったね。また頼むよ」

「キュイ♪」


 バラクさんがもう一度指を鳴らすと、ゴーレムは元の土へと姿を戻した。


「俺にできるのはここまでだ。……ここから先は、君たち現役の冒険者たちが進む」

「はい! ありがとうございました!」


 バラクさんに礼を告げて、俺たちはゴーレムの作った土の道を歩いて行く。


 目的の位置まで来ると、イルナが聖女の拳で壁を粉砕。崩れ落ちた岩肌の向こうには、以前見たものと同じタイプの扉――やっぱり、ここは隠し部屋だった。

 

「うし! ここからは俺の仕事だ」


 俺は女神の鍵を使って隠し扉を開ける。モンスターの襲撃にも備えて武器を構えていたが、その心配は杞憂に終わった。

 内装は《黄金神の祝福》をゲットした隠れ部屋と同じ――ある一点を除いて。


「これは……魔法陣?」


 全員の視線は床に集中していた。部屋全体に描かれた巨大な魔法陣。それが突然紫色に発光したかと思うと、全身に浮遊感が生じた。そして、強い閃光が俺たちの視界を塞ぎ、目の前が白一色に塗りつぶされる。

 

 しばらくはその強烈な白が網膜を支配し、まともに周囲を認識できなかったが、時間が経つにつれてハッキリと景色が見えてきた。


「ここは……」


 不思議な空間だった。


「思ったよりも狭い空間ね」

「足元にいろいろ物が散らばっているようだけど……」

「暗くてよく見えませんね」

「あ、わ、私、ランプを持ってきたんで今用意しますね」


 慌てず騒がず、状況を分析して準備を進めていくみんな。すっかり冒険者稼業が板についてきたな。


 マシロの灯したランプの明かりが、辺りの様子を仄かなオレンジ色で照らし出す。


「おおぉ……」


 そこはまさに古代遺跡と呼ぶに相応しいミステリアスな空気を漂わせていた。表現しづらい興奮に、女神の鍵を握る俺の手は震えている。

 ――しかし、


「どこなんだ、ここは……」


 辺りを見回していると、窓を発見する。

 足元に注意をしながらそこへ近づき、外の景色を眺める。

 すると、


「!? これは……」


 窓の外に広がるのはダンジョン内部の様子。

 そう。

 塔から見たダンジョンの外だ。

 つまり、


「ダンジョンの二階にたどり着いたってわけか……」


 そういうことになる。

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