第32話 大掃除
廃宿屋の幽霊騒ぎは地下にあった聖樹(偽)が原因であったことが発覚。
とりあえず、事の顛末を町の自警団へ知らせに行くため――の前に、イルナとジェシカの着替えを調達しなくては。
どちらにせよ、まずはフランさんの屋敷へ行くべきだな。
そう判断した俺は廃宿屋を出る。
すると、そこには十人以上の冒険者たちが待ち構えていた。
どうやら、手柄を横取りするつもりらしい。
「くくく、やはり地下ダンジョンの入口を知っていたようだな」
剣、斧、モーニングスターなどなど、物騒な得物をお持ちのみなさまがニタニタと笑いながら俺を見つめる。
「大人しく俺たちに――」
「あ、すいません、今急いでいるので」
構っている暇はないので、風魔法で吹き飛ばす。
早いところ持ってこないと、ふたりとも風邪を引いちゃうからな。
◇◇◇
地下水道での聖樹違法栽培犯であるガルトンを捕まえた俺たちは、自警団へ身柄を引き渡した。
「お手柄だったな!」
治安維持を担当する自警団の総責任者であるワルドさんは、そう言って俺の両手をがっしりと掴み、「だっはっはっはっ!」と豪快に笑った。
たっぷりと蓄えられた髭に鍛え抜かれた肉体。
……パーティーの女性陣を除けば、マッスルスライムを含め、ここ最近こんなムキムキ体型の人ばかりと会っている気がする。俺はアレか。マッチョを引き寄せる星のもとにでも生まれたのか?
「情けない話しだが、俺たちではなかなかヤツらのアジトを探し出すことができなくてなぁ……フラン婆さんからも口酸っぱく言われていたというのに。だが、さすがは噂に聞く霧の旅団だ。こうも容易くお尋ね者を引っ張ってくるとは」
ワルドさんは上機嫌だった。
なんでも、違法聖樹の栽培場所を特定できず、歯がゆい思いをしてきたらしいので、今回の主犯格逮捕は大変喜ばしいのだという。
ちなみに、俺たちを脅そうとしていた冒険者連中もまとめて捕まった。
数日後には王国騎士団がその身柄を引き取りに来るという。
それから、例の家は幽霊騒動の原因でもあった違法聖樹を根絶したため、晴れて普通の家として俺たちのパーティーが拠点として使用する許可を、現場確認にやってきたフランさんから直々に得ることができたのだった。
◇◇◇
事件解決から一夜明けて。
新しいダンジョンの調査中で長期不在となっているリーダーのリカルドさんたちだが、その帰還がいよいよ明日となった。
俺とイルナはリカルドさんたちが戻ってくるまでに、あの廃宿屋を少しでも綺麗にしておこうと決めた。
つまり――大掃除だ。
新しい家は、位置でいうと町の中心地から少し北にずれた場所にあった。
買い取り屋や宿屋からも近く、それでいて家屋の密集地ではないため、庭も広い。地下室からは聖樹(偽)が排除したおかげで倉庫に活用できそうだ。
理想的な二階建ての一軒家。
「ここならパパたちも文句はないはずよ!」
イルナからも太鼓判を押されたし、気合を入れて掃除をしないとな。
手始めとして家の中にあった家具類を一旦外へ出し、使える物とそうでないものに分けていった。
途中、援軍としてジェシカが合流。
俺たちではどうすることもできない補修工事について、フランさんが信頼できる業者に依頼をしてくれているとのこと。さらに、今回の犯人逮捕の報酬だと、補修費は無料にしてくれるらしい。
「なんだか、悪いな」
「いいんですよ。……フォルトさんにはお世話になっていますから」
「…………」
「あっ、もちろん、イルナさんにも大変お世話になっていますよ?」
「ならいいわ!」
フォローも欠かさないとはさすがだな、ジェシカ。
それから、ジェシカも加わって三人での作業となる。
改装に関しては、リーダーのリカルドさんの意見も聞かなくてはいけないので、本格的に取りかかるのは明日からだな。
それまでは、今の宿屋の部屋をキープしておかないと。
しばらく作業をし、少し休憩にしようとティータイムへ突入。
その際、ジェシカは次にゲットするアイテムとして《使い魔の卵》を狙っていってはどうかと提案を受けた。
使い魔とは、主に運搬だったり戦闘補助だったり、さまざまな場面で冒険者を助ける役目を担う生物とされている。
ただ、その分、レア度はかなり高く、滅多に姿を見せないという。
「使い魔か……ちなみに、霧の旅団にもいるのか?」
「うちにはまだいないわね」
霧の旅団でさえまだ手に入れていないのか。
「相当レアなんだな」
「ですが、龍声剣や破邪の盾など、さまざまな伝説級のアイテムを複数お持ちのフォルトさんならすぐに手に入れられそうですが」
「うーん……どうだろうなぁ」
確かに、冒険者として活動を始めてからの俺は、リカルドさんの言葉を借りると「ヒキがいい」と言える。
「案外、次の宝箱ですんなり出すかもね」
「そう簡単にいくかなぁ」
「でも、その三種の神器以外にも黄金神の祝福や聖樹の根って超激レアアイテムをゲットしているんだから、あり得ない話じゃないと思うわ!」
「そうですね! 一度きりなら偶然といえばますが、もうそんな言葉で片づけていいレベルじゃありませんし!」
興奮する女子ふたり。
しかし、使い魔か……。
狙って得られるわけじゃないけど、やっぱり欲しいな。
まだこの近辺には俺たちが足を踏み入れていないダンジョンもあるし――っと、その前に、リカルドさんたちが不在の間に得た成果も見てもらわないとな。
そんな風にまったり過ごしていると、廃宿屋のドアをドンドンと乱暴に叩く音が。
「な、なんだ!?」
昨日捕まったヤツらの残党が仕返しにでも来たか?
警戒する俺たちだが、
「おい! いないのか!」
慌てているその声は、昨日知り合った自警団の団長ことワルドさんのものだった。
あんなに焦って、一体何があったんだ?
俺がドアを開けようと玄関へ向かって歩きだした時だった。
「霧の旅団がヤバいことになっているんだ!」
その叫びは、俺たち三人に大きな衝撃をもたらした。
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