第28話 狙われるふたり
町の下にあるダンジョンの入口を探す俺とイルナは街の中央広場に来ていた。
いつもは子どもから大人まで詰めかける癒しのスポットとして人気だが、現在は水道工事を行うということで封鎖されており、閑散としていた。
気合を入れて家を出たのはいいが、さすがにノーヒントで探すのは至難の業としか言えなかった。
この町を拠点とする冒険者たちが口を揃えて見つからないということだから、余程発見しづらい場所にあるのだろう。
「さて、どこから探そうか」
「とりあえず、普通に探しても見つからないでしょうね」
「だろうなぁ」
「まあ、ヒントが何もない以上、考えていても仕方がないし、こういう時は行動あるのみよ」
「賛成。いろいろと当たってみるか」
町中を見て回ろうと、歩きだした時だった。
「おい!」
突如、背後から野太い声が聞こえる。
振り返ると、丸太のように太い腕を組んだ大男が立っていた。体格の良いリカルドさんと比べても見劣りしないくらいのたくましさだ。
「おまえら、霧の旅団のメンバーだな?」
「えっ?」
なんだ……?
なんでこいつは俺たちのことを知っているんだ?
「とぼけても無駄だ。すでに調べはついてんだからよ。――しかし、こいつはツイてるぜ。Sランクで、しかもあのフラン婆さんが一目置いているって話だったから、とんでもなくヤバそうなヤツらかと思ったが、てんで弱そうじゃねぇか」
男は手にした大きな棍棒を地面にたたきつけ、威嚇するようにドスンと音を立てた。
弱そうに見えるという点は否定しない。
俺もイルナも、あっちの鍛え上げられた筋肉ボディとは程遠いからな。
筋肉的にはボロ負けだ。
「ああっと……俺たちに何か用か?」
「ズバリ言おう。この街の地下にあるダンジョンの入口へ案内しろ」
「は?」
何を言っているんだ、このおっさんは。
ダンジョンへの入り口はこっちだって捜索中だ。
「隠すと身のためにならないぞ?」
「隠すも何も……俺たちだって探している途中で――」
「誤魔化すな! フラン婆さんから入口を教えてもらったんだろ!」
……なんだか、情報が錯綜しているようだ。
そもそも、場所が分かっていたらこんなところをウロウロしているわけないのに。
男への対応をどうしたものかと悩んでいると、隣にいたイルナが耳打ちをしてくる。
「あの男……私たちを出し抜いてフランさんの依頼を達成しようとしているようね」
「そんなことしてどうするんだよ」
「アピールするんでしょ」
「アピール?」
「あの人に限ってそんなことをするとは思えないけど、気に入られたら自分たちのパーティーが贔屓されると思ってるんじゃないかしら」
「…………」
「? 何? どうしたの?」
「あ、ごめん。その……吐息が耳にあたるとくすぐったくて」
「!? こ、こんな時に何言っているのよ!」
「わ、悪かったって!」
「もう……」
「おぉい! 俺様を無視していちゃついてんじゃねぇよ!」
大男は地団駄を踏んで己の存在を俺たちに示す。
「ともかくだ! 地下のモンスターは俺が叩き潰す! てめぇらは家に帰ってお昼寝でもしてな! どうしても教えないてんなら力ずくで聞くまでよ!」
なんか物騒なことを言い出したぞ。
「どうする? 向こうはヤル気満々みたいよ?」
「うーん……」
俺としては、なんとか穏便に済ませたいところだが……手柄を横取りしようって魂胆があるみたいだし、本当のことを話しても信じてくれそうにないテンションだ。
「いつまでもごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!」
痺れを切らした大男が襲いかかって来た。
俺は剣を構える。
これだけの大男にすごまれ、立ち向かってこられたら――恐らく、ちょっと前だったら逃げ出していただろう。
けど、今は違う。
逃げたりはしない。
――もう二度と。
大男が振り上げた棍棒をかわし、すぐさま龍声剣で反撃。炎系魔法を使うが、狙いを微妙にずらし、大男の尻に着弾するように放った。
「あっっっっちぃ!」
大男は地面をのたうち回って尻についた火を消していた。いかつい見た目と違ってあまり戦闘慣れしていないように思える。
その時、俺は気づいた。
こちらの様子を窺っている複数の影の存在に。
「あいつら……あの男のように、俺たちが地下への入口を知っていると思っているんだ」
さて……どうやってこの場を切り抜けるか――判断を誤るわけにはいかないぞ。
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