第5話 差別のない

 次の日、目覚めるとさっそく盗賊の探索を始めた。足跡や不自然な枝の折れ方をしている木を発見したが、尻尾は掴めなかった。盗賊ではなく、ケンゴたちのものかもしれないからだ。

 ケンゴたちがはたして関係しているのか。

 キートンには、どうも嘘をついているようには見えなかった。同じ戦場を駆けた同志であるという気持ちも働いているのだろうか?


 夕方になるといったん捜索を打ち切り、ケンゴたちのアジトへと向かった。


 小屋は薄汚れ、割れた窓を木の板で修繕されていた。放棄されていた小屋に居座り、勝手に住処にしているといったところだ。


 扉を叩くと、ややあってから、

「山……」

「いや合言葉は聞いていない。開けてくれ」

「ああ、キートンさんですか!」

 扉が開くと、笑顔のケンゴがいた。さあどうぞ、どうぞ! と手招きし、キートンとシャーロットは中に入った。


 テーブルが置かれ、椅子が四脚設置されているが、中には十人くらいの男たちがいた。むさ苦しい空間だった。

 誰も敵対心を持つことなく歓迎してくれた。一人一人自己紹介してくれたが覚えることは難しそうだった。獣人と人間の対比は丁度半分程度だった。昨夜あった連中だけでなく、他の獣人も対等の扱いを受けているようだった。

 仲間。

 その言葉がよく似合った。


 シャーロットが挨拶すると、口笛を吹き手を叩いた。さながら有名演劇女優のような扱いだった。フードを脱いでくれというものがいたが、キートンが咳払いするとケンゴが止めてくれた。

 まさしくお姫様のような扱いに、シャーロットも悪い気はしていなかった。彼女がお姫様のような扱いを受ける資格は、確かにあるが。


 睨まれたりだとか邪険に振舞われたわけではないが、不愛想な男がいた。

 男は獣人族で、一人だけ椅子に座っていた。ケンゴはこの男衆を取り仕切っているみたいだが、この不愛想な男も同様にリーダーを務めているらしかった。ボスが二人いるのだ。

 男の名前はアルといい、体が大きく身長も高そうだった。長い髪の毛を後ろで縛っていた。


 アルを見ていたのを察し、ケンゴがアルに近づいていった。隣につくと肩を抱き寄せ、ケンゴはにっこりと笑った。アルも不愛想な表情を綻ばせた。


「アルと俺がこの中では戦争に参加していました。こいつは俺の戦友なんですよ、キートンさん。命を助けてもらったこともありました」

「そういやあ、救ってやったこともあったけな」

 アルは軽口を叩き、ケンゴは笑った。


 戦友という言葉を聞き、キートンは思い出していた。アルバの父親のセードルフ、ラルサン、騎士団の連中にエンニオ……それに命を落としていった多くの仲間たち――。

 戦友というのは掛けがえのないものだ。


「アルはキートンさんのこと知らねーのか?」

「いや、さっぱりだ。すまねーなキートンさん」

 勇者が魔王を倒したというだけで、名前まで知っているものは少なかった。人々にとって勇者というのは記号でしかない。

「別に謝ることじゃないさ。みなに覚えてもらえるよう、もっと頑張らなかった俺が悪い」

 冗談のつもりだったのだが、ケンゴは笑っていいものかわからない様子で顔をひきつらせていた。


「それでキートンさん、どうしてこんなところへ?」

 とケンゴは言った。

「盗賊とか言っていましたが」

 キートンは説明した。旅をしていることと、フーゴの村が盗賊の被害を受けており討伐を依頼されたことを。

「そんな奴らがこの辺に……! 信じられねー、村人を襲いやがるなんて! なあみんな!」

 オウ! とケンゴに答える声が上がった。


 この場に緊張感が出現した。幾人かは体を固くし、目の色を変えた。

 貧しい村人のことを思い義憤しているか、盗賊を討伐という文言に警戒心を張り詰めたのか。


「俺たちもその盗賊退治に参加させてもらうぜ!」

「まあ待てよ、ケンゴ」

 とアルは言った。

「そいつらには腹が立つ、俺も同じ気持ちだ。だが俺らにそんな余裕あるか?」

「ない!」

 ケンゴはきっぱりと言い切った。

「でもこのまま放っておくのか? 俺らは義賊だ、人々の役に立たなければならないんだ! そうだろアル!」

「……そうだな。そう言うと思っていたが、一応訊いてみただけさ」

 アルはニヤリと笑った。


「被害を受けているのは人間だ。それでも助けるのか?」

 キートンは少々意地悪なこと尋ねた。真意を知りたかった。

「関係ねーさ。そりゃ俺ら獣人は人間から迫害を受けている。だが全員が全員ってわけじゃねー。ケンゴたちみたいに、俺らのことダチと言ってくれる奴もいる。キートンさん、そんなことを言うがあんたも偏見はない性質タチだろ?」

「まあな」

「やっぱりな」

 アルは勝ち誇ったように笑った。

「そうですよキートンさん。俺たちは種族なんて関係せず、こうして義賊として結集しているだけです! ダチ公なんですよ!」

 ケンゴとアルは仲良く肩を組んだ。アルが照れたようにしているのが少し面白かった。二人の仲の良さは演技ではないようだった。


 キートンやシャーロットをもてなすため、宴が始まった。


 アルも言っていたように余裕はないはずなのに、多くの食材を使い酒も振舞ってくれた。義賊のメンバーはみな仲が良く、種族間のいがみ合いは皆無だった。

 素晴らしい。特殊な集団だとはいえ、人々は彼らを見習うべきだった。肩を寄り添い酒を飲んでいる姿を見ていると、これからの新時代に希望が持つことができた。いずれ魔人族もこの輪の中に――

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