第27話 その理由

ウルルンの魔力に魅了されていた僕は、なんとか現世へ舞い戻ることができた。

落ち着け僕、今やるべきことは蘭童殿に弁明すること、決してウルルンすることではない。

そうと決まれば神代晴華に構っている余裕はない。とり急ぎ食堂に入らなくては。


「ユッキー、ホントにご飯食べないの?」

「くどいぞ、僕にはやるべきことがある」

「やるべきこと?」

「蘭童殿に会いこれまでの愚行を謝罪するのだ、さすれば道は開かれん」

「蘭童って空ちゃんのこと?」

「おい、なんで蘭童殿にニックネームがないんだ。後輩差別をするな、可哀想に」

「違う違う、空ちゃん男バスのマネージャーだから知ってるだけであたしとほとんど接点ないもん」

「そんなことは知らん。1度会ったら友達で毎日会ったら兄弟だろ」

「それなんとか島の掟! 人間界には適応されません!」


なんだ人間界って、二足歩行で言葉発したら人間みたいなもんだろ。

っといかん、コイツと話してたらあっという間に昼休みが終わる。早く蘭童殿を捜そう。


「とりあえず次までに蘭童殿のニックネームを考えとけ、採用するかは僕が決める」

「次!? なんで次!? 今はどこいったの!?」

「ああ近い寄るな!」


神代晴華が瞳を潤ませて急接近してきたため、頭部に全力でチョップした。


「いったぁ! 今のけっこう本気だったでしょ!?」

「お前が僕の言いつけを守らないからだ。みだりに男に接近するな、そういう行動が男を勘違いさせるって何度も言ってるだろ?」


神代晴華が人気の理由その1は当然容姿だが、その2はこの崩壊した距離感にある。

スマホで面白い動画があると言えば接近して見たがるし、必要であればボディタッチをノータイムでしてくる。狙ってやっているならまだ救いはあるが、無意識にやってるからまったく手がつけられない。僕が何回説教しても直る気配がないのが証拠だ。


「今のはユッキーが悪いんじゃん、急に次回予告始めるから!」

「僕は用があるって言ってるだろ、何度も言わせるな」

「空ちゃんのことだっけ、そういえばさっき見かけたな」

「なんでそれを早く言わないんだ、どこだ? どこで見た?」

「うわわ、ユッキー近い! 人に注意できる立場じゃないでしょ!」

「僕が接近したところで支障はない。それで、どこで見たんだ?」

「ホントに気持ちの良い棚上げするよねユッキーは」


大きく溜息をついた神代晴華は、「えーっとね」と言葉を紡いだかと思いきや、何かを思い付いたように沈黙した。そしてニコニコしながら僕の方を見る。


「……教えてあげない」

「何? どうしてそんな意地悪をするんだ、困ったときはお互いさまだろ?」

「そうだよね、お互いさま。だからユッキーにはあたしのお願いを聞いてほしくて」

「嫌だ、一方的に僕のお願いを聞け」

「お互いさまなのに!?」

「お互いさま、ただし雪矢さま様様だ」

「どうしよう、意味分かんないや」

「お前のようなポンコツには分からないようになってる、致し方ないな」

「むう、ならあたしだって空ちゃんの場所教えないから」

「別に構わんぞ」


そう言うと、神代晴華は分かりやすく慌て始めた。見ていて飽きない奴ではあるがいかんせん周りへの影響力が強すぎてな。


「なんで? さっきあんなに知りたがってたじゃん!」

「交換条件を呑んでまで聞きたいことじゃないってだけだ、ここにいれば間違いないし」

「なんで!?」

「だってお前、食堂入る前に蘭童殿見かけたんだろ。じゃあ待ってればここに来るじゃないか」

「あっ」

「そういうわけだ。さっさと友達のところ戻れ、なんか心配してるぞ」


少し人口が減った食堂前のスペースに、ずっとこちらの様子を窺っている女子3人がいた。これ以上待たせるわけにはいかないだろう。


「むむ! むむ! むーん!」


何も言い返せないのが悔しかったのか、神代晴華は短く何度も唸り始めた。


「ユッキーのバカ! あたしはちょっとユッキーに愚痴聞いて欲しかっただけなのに!」

「そんなの頼めば聞いてくる友達がいくらでもいるだろ」

「ユッキーがいいの! あたしの悪いところいっぱい言ってくれるし!」

「だってお前、基本ポンコツだしな。言ってやらんと周りが可哀想だ」

「そういうところがいいのに、ミハちゃんばっかりズルい!」

「あいつはウルルン絡みだから聞いてやってるだけだ。お前に負けず劣らずポンコツだし」

「そっかぁ、ウルルン絡みじゃないとユッキー動いてくれないんだったぁ……」

「僕に助けを請いたきゃまずウルルンに好意を持つことだ、勝手に抜け駆けしやがって」

「しょうがないんだよぉ、先輩相手に断り切れなかったんだもん」

「そういうところがポンコツなんだよ、分かったらさっさと行け。しっしっ」

「むう! 今日のところは引き下がるけど絶対愚痴聞いてもらうからね!」


ベーっと舌を出すと、待っていた友人たちと合流し食堂へ入る神代晴華。ゆらゆら揺れるポニーテールを引っ張ってみたかったがまた今度にしよう。


それにしてもまったく、何が愚痴だ。僕の方が言ってやりたいことは山ほどあるってのに。

僕の中でウルルンの恋人最有力候補だったのに、勝手に彼氏を作りやがって。

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