第26話 ハイスペックガール
結局ABの奇行について教えてくれなかった雨竜。どうやらあまり口に出して言いたくないらしい。
そこまで教えたくないなら深追いはしないが、今後このような真似だけは避けて欲しい。雨竜を狙ってる女子たちに僕がライバルだなんて思われたくない、どんな三角関係だよ。
そういうわけで刻は昼休み、僕は賑わいに賑わっている食堂前に来ていた。
我らが学校、
さてどうするか。これだけの人数、既に蘭童殿は食堂で昼食を食べているかもしれない。それならばさっさと中へ入るのが良さそうだが、1つだけ懸念があった。
食堂の外、券売機とは別に人でごった返しになっている空間。売店である。
人気の総菜パンは勿論、おにぎりにデザート、飲み物とコンビニのように物があり、このタイムバーゲンを彷彿させる光景も陽嶺高校の名物となっている。
問題は僕が食堂内を探している間に、蘭童殿が売店で買い物を済ませてしまわないかということである。売店で昼食を買えば食事する場所は自由、そのまま教室に戻られたら完全にアウトだ。
だが今なら例え売店で買い物を済まそうにも会計に時間が掛かる。さっと食堂を見て戻ってこれば問題はなさそうか。
「あっ、ユッキーじゃん! おーいユッキー!」
「げ……」
いざ食堂の扉を開けんとしたタイミングで、後方から陽気でアホっぽい声が聞こえてきた。
ユッキーさん、呼んでますよ? 早く返事してあげてください、僕は関係ないから食堂に入りますね。
「ちょっとちょっと! なんで行っちゃうのユッキー!?」
だがしかし、扉を開けて中に入ろうとした瞬間、左手をがっしり確保されてしまう僕。くそ、一歩遅かったか。
「もう、いつもいつも素っ気ないんだから。まあそれがユッキーなんだけど」
「そうかそうか。なら期待に応えて素っ気なくいこうか、ほなさいなら」
「さいならはまだ早い!」
「いたたた!! んな強く引っ張るなアホ!」
左手を振り払うと、目の前の女は後頭部を摩りながら「ゴメンゴメン」と謝る。まったく誠意を感じられないが、色に目覚めたアホどもならこんな仕草だけでも許してしまうのだろう。
神代晴華、2年Cクラスの女子。栗色のポニーテールを携えた学年一と称される美少女。スポーツ万能で人当たりも良く、男女ともに人気のあるハイスペックガールだ。さらには抜群のプロポーションを誇っており、そういう意味でも男子を釘付けにしていることだろう。カーディガン越しの凹凸が実に凶悪である。
だからこそ僕はこの女と関わりたくない、ちょっと関わっただけで気があると周りに思われたら面倒だ。雨竜の恋人作り以外の仕事は増やしたくないんだよこっちは。
「ユッキーはこれからご飯? 一緒に食べようよ!」
「嫌だ、お前がうるさくてご飯に集中できん」
「ええ、食事はうるさく楽しくするものだよ、だからユッキーもね!」
「も?」
「うん! クラスの女の子3人いるから!」
馬鹿なのコイツ? その空間に僕をぶち込んでどんな話に華咲かせるんだよ、どう考えても僕が不要だ。
この通り何も考えず感覚だけで話をするポンコツだが、僕は1つだけ評価していることがある。
「あれ、そういえばウルルンは? 一緒じゃないの?」
「ウルルン……くく……!」
そう、神代晴華は知り合いをニックネームで呼んでいる。僕の場合はユッキー、ちょっとテーマパークにいるネズミに似ているのが気になるが許容範囲ではある。
しかしながらウルルンはそうはいかない。ニックネームと本人のギャップがありすぎて聞く度に笑ってしまう。ちなみに本人は幾度となく止めるよう打診しているがこのようにまったく聞く耳を持たない。
故にウルルン。青八木さん家のウルルン。ダメだ、何度聞いてもペットの名前にしか聞こえない、何だよウルルンって。
よし決めた、今日は一日中敬意を込めてウルルンと呼ぼう。しょうがないよ、急に敬意を込めたくなったんだから。そりゃウルルンって呼ぶよ。
「どしたのユッキー、すごくにやけてるけど」
「お前のおかげだ、ありがとうウルルン」
「いや、あたしは晴華ですが」
「いいよウルルンで。お前もウルルン、僕もウルルンだ」
「ユッキー大丈夫? 熱でもあるんじゃないの?」
ううん、ウルルンって言いたいだけです。
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