*19話 黎明期の終焉⑥ 救出作戦の顛末と「変わる世界」
代々木第1体育館の駐車場内に発生した中規模メイズ、「代々木中規模メイズ」が引き起こした「魔物の氾濫」と、それに対する1連の救出作戦は、後に「代々木事件」や「オリンピック事件」と呼ばれることになる。
その中でも、最も大規模な作戦であった「第2次救出作戦」は、2か所から大規模な車両部隊が投入され、更に各所で小規模な救出作戦が同時進行するという複合的な作戦であった。その結果として陸路で約8千余人の人々を「魔物の氾濫」領域 ――後に「代々木領域」と呼ばれることになる―― から救出することが出来た。
ただ、その成果に対して、投入された自衛隊の損耗は装備・人員共に激しいものがあった。
当時の日本がその時動員出来た車両装備を惜しげも無く投入した作戦であったが、結果として、96式装輪輸送車・各種指揮偵察車両・16式機動戦闘車・各種トラック、の約3割と、作戦に従事した隊員の2割が犠牲となった。
特に、A部隊・B部隊と分けられ、明治通りや井の頭通りから投入された大規模部隊は大型モンスターの襲撃を呼び寄せる事になり、激しい消耗を強いられることになった。
その結果、「代々木事件」が発生した7月18日の未明から3日後の21日に、日本政府は事実上、陸路による領域内への救出行動を断念せざるを得なくなる。それに伴い、救出活動は、(その前から引き続き行われていた)ヘリコプターによる空挺救出作戦に絞られることになった。
そして事件発生から1週間後、高層ビルの屋上などに逃れることが出来た人々を全て掬い上げた時点で、日本政府は苦渋の
――状況停止宣言――
を出す事になった。後に「7月25日宣言」と呼ばれる事実上の敗北宣言だ。
こうして、実に推定犠牲者7万5千余名を出した未曾有の大惨事は「一区切り」が付けられることになる。ただ、日本は首都東京のど真ん中に「代々木領域」という人外が跋扈する土地を抱えることなり、以後、この「代々木領域」への対応が国政の主たる課題の1つとなる。
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「7月25日宣言」を経た後も、人類とメイズの関係は続いた。
それは、主にメイズから採れる産品の産業利用の開発を柱とした側面と、メイズそのものを討伐する駆除対応を柱とした側面に分けられる。
その内、産業利用に関しては、「代々木事件」の直後、国際世論的にも「危険視」する声が高まった。特にメイズストーンをエネルギー源として活用することへの反対が中心となる運動だ。
理由は簡単で、「代々木事件」が起こる直前、日本政府が発表した「次世代型発電システム」が事件の原因だと注目されたためだ。
この点に関して日本は
――あの当時の起動式はセレモニーであり、実際の発電システムは事件発生時には稼働停止していた――
と少し情けない内部情報を公表し反論を展開した。
しかし、現実には原理的に同じ方式を採用している「チャイナモデル」導入国でも同様の中規模メイズによる「魔物の氾濫」事象が多発したため、疑念が解消されることは無かった。
ただ、この「メイズストーンのエネルギー化問題」に関しては、代々木事件から3年後に中東で発生したイスラエル・イラン・トルコ・アフガニスタン・ロシアを巻き込む「第5次中東戦争」によって有耶無耶のまま、開発が再開されることになった。
戦争による「エネルギー危機」が各国に「背に腹は代えられる」決断を促した結果だ。
また、代々木を皮切りにその後各国で発生した「中規模メイズ」の「魔物の氾濫」が人為的な謀略、又はテロ行為であった可能性について、非公開情報が主に旧西側諸国で共有された、という事情もあったようだ。
特に、2023年頃に各地の「小規模メイズ」から次なる壁面文字列が発見され、その内容がメイズコアを地中に埋める事で人為的にメイズを作り出す方法 ――つまり「播種の法」―― であったことから、そのような策謀説やテロ説が間接的に説明された、という事情もある。
とにかく、一度は忌避された「次世代型発電システム」は2024年に一躍注目を浴びることになった。そして、翌2025年、各国は「メイズに関する国際協約」を作り、それを批准することになった。
「メイズ協約」の内容は多岐に渡るが、理念は「メイズ産品の平和利用」と「スタンピード事象に対する国際協調」だ。その上で、国際的なルール作りが急速に進められることになった。
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一方、メイズの駆除対応に関する開発は、主に対モンスター戦に有効な兵器技術の開発と、日本に於ける[受託業者]のような、俗に「メイズ・ウォーカー」と呼ばれる人々の育成に焦点があてられることになった。
その内、対モンスター戦に有効な兵器技術の開発については、2021年の時点で実用化されていた「MiZ弾」の大口径弾対応や砲身命数延長といった既存技術の洗練化や、無人もしくは歩兵随伴型小型起動兵器との組み合わせ等が進んだ。また、メイズ内という閉塞環境でモンスターという疑似生命体にも有効な神経ガスといった兵器も盛んに研究されることになった。
その他には、重大なブレイクスルーとしてMEO環境下でも通信が可能となる「双極MEO感応通信」が2025年に実用化され、以後、通信速度の高速化が盛んに研究されることになった。
その一方、それらの開発された兵器の試験や運用を担うのは主に各国の軍に常設された「対メイズ部隊」や[
ただ、それでも「中規模メイズ」の壁は厚かった。
それに、丁度2024年を境に、世界各地で小規模メイズの出現頻度が上昇し、また、これ迄「自然発生」は稀だと思われていた「中規模メイズ」も普通に出現するような事態に陥った。
その結果、「小規模メイズ」は何とか処理できる人類も、未だ消滅させられないまま増え続ける「中規模メイズ」と、それが引き起こす「魔物の氾濫」によって、生活領域を侵食される事態となった。
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人類とメイズは、お互いの領域を奪い合う段階に入った。
そして2032年、遂に人類は1つの「中規模メイズ」を消滅させるに至った。それは、日本の東京都赤梅に2018年から存在していた「赤梅中規模メイズ」だった。
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