*13話 第2次救出作戦開始!


2021年7月19日 初台駅北口


 昨日[管理機構]がアラートで呼び掛けた救出作戦の集合場所。そこに集まった[受託業者]は40人前後だった。ちなみに、この中に[DOTユニオン]や[3ユニオン合同]の面々は含まれていない。TM研や脱サラ会、それに月下PTやCMBのいずれも、どちらかと言えば代官山の現場が近かったからだ。


 その代わり、といっては何だが、知り合いのPTとして[東京DD]の「手島PT」の姿が見える。まぁ知り合いという事もあるし、俺と飯田は成長した彼等の実力を良く知っている。なので、「チーム岡本」と「手島PT」は共同で動く事になった。


 今回の救出作戦は都合上「第2次救出作戦」と呼称されるが、作戦自体はシンプルなものだ。初台駅の南口から先が「魔物の氾濫」領域となっているので、その領域の道路沿いに自衛隊が装甲車(96式装輪輸送車のB型)とトラック(1トン半)の車列を走らせ、逃げ遅れている人を収容し、収容しきれなくなると領域外へ出る。これを繰り返すものだ。


 そして[受託業者]の役割は、そんな車列の護衛と、住宅地内へ入り込んでの救助者の捜索だ。自衛隊の車両部隊と協力して行う事になる。


 知り合いといえば、この作戦に自衛隊側で出動してきたのは「メイズ教導隊」の諸橋1尉(「1尉」に出世していた)が率いる小隊だった。


 俺は停車中の車列の方でそんな諸橋1尉を見つけると、声を掛けた。それでしばらく諸橋1尉との会話になるが、驚いたことに、諸橋1尉の小隊は他の小隊と共に昨日の夕方まで「名古屋市栄区」の「魔物の氾濫」現場となったメイズに居たとのこと。それで昨日の17時頃に漸くメイズを消滅させ、その足で東京に戻って来たということだ。


「ブラックですね」

「真っ黒だよ」


 お互いに変な笑いしか出ない状況だった。


 ちなみに今回の作戦、南側の代官山の方も車両部隊は「メイズ教導隊」が受け持っているとのこと。あちらの指揮はあの城崎3佐だということだ。それで、何故名古屋で仕事を終えたばかりの「メイズ教導隊」がこの作戦に加わっているかと言うと、それは早い話、


「銃を使わなくても戦闘できるから、だろうね」


 と諸橋1尉が言う通りの話だった。


 MiZ弾という特殊弾丸が登場するまでの一時期、それまでの切り札「メ弾」に見切りをつけた「メイズ教導隊」は手持ち武器とスキルを使った至近戦闘でモンスターと戦っていた。その時の経験が今回のような住宅密集地に於ける作戦に必要とされた訳だ。


 住宅地の中に分け入って行き、モンスターと遭遇したと思い5.56mmMiZ弾を発射した結果、見間違いで救助対象者を撃ちました、では冗談では済まない事になる。そういう意味では、飛び道具を弓矢やクロスボウしか持たない[受託業者]も任務にうってつけなのだろう。


 ちなみに、「第2次救出作戦」はこの初台周辺と代官山周辺だけではない。寧ろメインとなる大規模行動は別方面で展開される。


「明治通りと六本木通りから入って青山通に抜けるA部隊、井之頭通りから入って玉川通りへ抜けるB部隊がメインだよ。あちらは装甲機動車群による大規模な救助作戦だ。一方、こっちは狭いから私達のような小規模部隊と遠藤さんのような受託業者の出番という訳さ」


 諸橋1尉はそう言うと自分の隊の方を振り返る。そして、


「B部隊が井之頭通りに入ったタイミングでこちらの作戦も開始だ。もうしばらくだと思うから、最後の準備や確認を済ましておこう」


 ということで別れた。


*********************


 諸橋1尉との会話の後、15分ほどで作戦開始が告げられた。ちなみに、初台の作戦本部は駅の北口側だ。そこにタープテントが張られて、通信機材と共に「前進司令部」が出来てい。そこには、自衛隊の他に[管理機構]の面々も、つまり里奈もいる。


 彼等は司令部部隊と共に「緊急派遣班」を形成している。領域内で万が一動けない状況になった場合に救援するためのバックアップ部隊だ。


「コータ……気を付けてね」

(コータ様、15層よりも深い階層相当のモンスターも出るニャン。油断は出来ないニャン)

(吾輩が付いているのだ!)

(コータ様……とにかく気を付けて)

(は、ハム美、吾輩の扱い……)

「わかっているよ、でも里奈の緊急派遣班の方が危ない可能性がある。無理は絶対しないで」

「分かっているわ」

(里奈様は任せるニャン)

(吾輩って……吾輩って……)


 うん、出発前のそれなりにドラマチックな場面なのに、ハム太とハム美の念話が割り込んできて頭の中が「ワチャワチャ」する。それに、何故かハム太が凹んでいる気がするが……まぁ良いか。


「じゃぁ、行ってくるよ」


 俺はそう告げるときびすを返して車列の方へ進む。俺としてはバッチリしめた・・・つもりなのだが……車列の方で俺を待っていた「チーム岡本」の面々は、妙に生暖かい表情を此方へ向けている。なんでだろう?


 ちなみに、手島。何でお前まで調子に乗ってニヤニヤ笑ってんだ! さっさと金返せ!



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