*58話 「双子新地高架下メイズ」⑦ 不安(?)な実力
**五十嵐里奈の視点***********
先行するSAT隊は20人構成だった。それが5人1組の小班に分かれて4班、前と左右を警戒しながら進む。そういうやり方が彼等の標準なのか分からないが、随分と手慣れた感じに見える。
一方[管理機構]の私達は大島班3人+水原班3人+私の7人。全体の後方を警戒しつつ、SAT隊が進む速さに歩調を合わせている。そのため、立ち位置的に
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彼等の装備は、全員が濃紺色のユニフォームを身に着け、頭部はバイザーとフェイスシールド付きのヘルメット、体幹部は防弾性のボディーアーマの上に予備の弾を入れるポケット付きのベスト重ね着する、といった感じのもの。それに加えて、たぶん今回の任務用なのだろう、色合いが他と少し異なる真新しいバックパックを全員が背負っている。そのため、動作は機敏で素早いけれども、全体として、例えば自衛隊のメイズ教導隊と比較すると、ゴテッとしたシルエットに見える。
そんなゴテッとしたシルエットの
もっとも、手足に比べて頭部を含めた体幹部がより厚い防御になっている理由は、彼等が想定している任務が銃火器を使用するテロリストや犯罪者の制圧確保だからだろう。その点に於いて、手足の防御に重点を置いた[
まぁ、飯田金属が提供してくれた[MP-LL-Pro3(官)]は、「対モンスター戦」を念頭に設計された防御装備で、しかも「軽装バージョン」の品だから、用途も防御箇所も異なるのは当然。コータに聞いたところ、開発者の
その結果、体型によるバラつきが少ない手足に絞った防具を作り出すことになったのだという。当時は未だ[受託業者]の受傷データも揃っていなかった頃なので、どの部分を守るのが効果的なのかは手探りの状態だっただろう。そんな状況で「手足を重点的に守る」という選択は結果的に大正解だった。というのも、現在では[受託業者]の受傷箇所は圧倒的に「手足」が多い、ということがデータから明らかになっているからだ。
この傾向は層の浅い深いを問わずに、ほぼ全体的な傾向として現れている。受傷の程度は軽傷で済むパターンもあれば、手足への受傷が原因となって体幹部に更なる致命傷を負い、そのまま帰らぬ人に……、というパターンも存在する。しかし、
なので、私としては、ゴツくて如何にも「特殊部隊」といった感じの
(それはお互い様ニャン)
どうしてよ?
(だって、彼等は銃を使った殺人犯を追っているニャン。だから、彼等から見れば、里奈様達の装備の方が心許なく映るはずニャン)
うん……そう言われれば、そうかもしれない。
(どっちにしても防御力だけを整えて、それで「オッケー、はいお終い」という訳にはいかないニャン。相手がモンスターでも犯罪者でも、向かってくる相手を制するには武力が必要ニャン)
そんな感じの【念話】で、ハム美は「異世界規格」の常識を主張する。常識の土台になる部分に文化的(?)な隔たりを感じるが、言っている事を「基本的に正しい」と感じてしまうから困ったものだ。多分、親の教育のせいだろう。特に、メイズの中という特殊な環境では「身を守る」という行為の約半分は攻撃力で担保されている。
(流石、里奈様は話が分かるニャン。でも、その点で、ハム美は
なるほど、ハム美
というのも、
見る限り、彼等の装備は基本的に銃火器のみ。私は銃火器マニアじゃないから種類までは良く分からないが、スリングで首から提げているマシンガンがメインの武器になるのだろう。でも、そのマシンガンは[太磨霊園]で見かけた自衛隊の「
その他の武装といえば、1班と2班に配属されている盾持ちの2人が黒いマットな質感の中型方形盾を持っている他には、「隊長」さんの班にスコープを付けたライフル銃を持つ隊員が1人居る程度。
盾は[受託業者]が好んで使うようなポリカ盾よりもぶ厚く重そうに見えるため、たぶん防弾性があるのだろう。一方、ライフル銃はスコープが付いているので狙撃用といったところかな。
でも……やっぱり、何処にも近接戦闘用の武器の姿は見られない。ナイフくらいは持っているかもしれないが、マチェットや槍といった
先の[太磨霊園メイズ消滅作戦]に於いて、自衛隊のメイズ教導隊が近接武器を緊急調達した事は私も聞き知っている。それまで自衛隊の切り札とされていた「メ弾」が深い層のモンスターに対して効果が思わしくなかったため、止むを得ない措置だった、という話だ。
そんな自衛隊の「メ弾」を使う小銃よりも、更に頼りなさそうなマシンガンがメイン武器に見える事が、ちょっと心配だったりする。
(……でも、ハム美はちょっと他の事が気になるニャン)
一方、私の内心の心配に応じるハム美は、含みのある内容を【念話】で伝えてくる。他に気になるって、何が? と思う。
(ハム美も「メ弾」は見たから知っているニャン。でも、
てことは、「メ弾」に変わる何かを準備しているって事?
(分からないニャン……っ! 論より証拠ニャン、前方、メイズハウンド3匹ニャン)
何とも丁度良いタイミングで出てくるな……と思いつつ、私はハム美の【念話】を受けて、視線を前方に送る。
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「コンタクト!」
先頭を進む班の誰かが声を上げる。そして、直ぐに、
――パ、パ、パンッ
と3発分が1つに重なった銃声が響く。アッを思った時には間に合わなくて、私はその銃声をまともに聞いてしまったのだが……コータから聞いていた話よりもうるさく感じなかった。
一方、撃たれたメイズハウンドはというと……
「クリア!」
「ライト、クリア!」
「レフト、クリア!」
と、隊員さん達が声を上げるように3匹揃って「
ただ、今の光景を見た結果、私の背後でちょっとした会話が始まる。大島さんと水原さんだ。そういえば、この2人は元自衛隊員で、メイズ内で小銃を使ってモンスターを撃った経験もある。その経験者2人が、
「MP5って9mm弾だろ? いくら1層だからって、普通の9mm1発で行けるか?」
「いや、メ弾化した9mmでも1発は無理ですよ」
「だよな……それに、今のって弱装弾だよな。幾らサプレッサー付きのSDタイプでも、こんなに静かな訳がない」
「う~ん、ほら、例の特殊弾ってやつですかね?」
などと言い合っている。
そんな2人の会話を
すると、この時、少し前の方にいた「隊長」さんが、突然クルっとこちらを振り返り、
「本来機密ですが……[管理機構]の皆さんには公開予定の情報でもありますので――」
と、話し出した。私はちょっと不意を突かれた感じになって、「へ?」という変な言葉を慌てて呑み込む事になった。
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