*44話 人探し
事務所から立ち去る間際に割り込んで来た中年の男 ――丁度、俺達が事務所に来た時に市川さんと言い合っていた人物―― は、「
それで、この谷屋さんが絡んで来た事で、俺達は足止めされ、結果的に
ただ、全部、後から振り返ってみた時の結果論で、この時は知る由もない。
とにかく、事務所を立ち去り際に強引に声を掛けて来た谷屋さんの話は、込み入っていて少し整理して理解しなければならないものだった。そんな谷屋さんの話だが、要約すると、
「連れの女の姿が見えなくなった、恐らく遠藤さんの電話を聞いて一人で双子新地に向かったのだろう、探して連れ戻したいので手伝って欲しい」
というもの。
谷屋さん自身、その連れの女性(
それで俺が「双子新地」という地名と共に粗々と伝言の内容を喋った結果、牧田さんは「単身でビルを抜けだしてその場所に向かったの
しかも驚いた事に、[赤竜・群狼]クランの
その潜伏中の妹(らしい)金元に危険が迫っていると聞いて、牧田さんは潜伏先であるこのビルを単身で飛び出したのだろう。
ただ
「何であの2人がメイズの中に潜伏しているの?」
や、
「そもそも[赤竜・群狼]クランって
とか、
「谷屋さんと牧田さんは、どうしてこのビルの5階に隠れているの?」
といった(当然の)疑問については、
「言うべきでは無いし、君達も知らない方が良い」
との事。その上で谷屋さんは、
「無理を承知で頼むが、牧田を連れ戻す手助けをして欲しい」
と、
ちなみに、この時、俺も岡本さんも、金元と異父姉妹だという牧田を案じる谷屋の事を2人の親類だと思っていた。どうも声の感じや話しぶりから牧田は若い女性のようだし、一方の谷屋は50代半ばの中年男性だ。そのため、谷屋と牧田が「まさか男女の仲だとは」思いもしなかった、という訳だ。
とまぁ、そんな話は置いておいて、この谷屋の申し出に市川さんも渋々ながら、
「オレもこの後事務所を出ないと行けないので、ずっと谷屋さんを見てる訳にはいかないし……ダメだって言っても、どうせ外へ探しに出ちゃうだろうから、だったら遠藤さんと岡本さんが一緒のほうが――」
と言い出した。
その後、岡本さんが「仕方ねぇな」と
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「双子新地高架下メイズ」はつい先月、4月の始めに[受託業者]に解放された新しいメイズだ。たしか今年の2月に発見されたと里奈から聞いている。出現場所は名前の通り、東急鉄道の双子新地駅近くの高架下。場所的に「チーム岡本」のメインの活動場所から離れているので、あまり詳しく調べたことは無い。
ただ、[TM研]の面々(TM研のTは太摩国際大学の意味)にとっては、随分と近場に出来たメイズだということで、
――その内メインの活動場所にしようかな――
と、昨日の「井之頭公園中規模メイズ」での休憩中に春奈ちゃんが話していたのを覚えている。
田中興業の事務所を出た俺達3人はその足で下北沢駅へ向かい、そこから電車で移動した。ただ、直接「双子新地駅」に向かうのではなく、その一つ手前の「双子太摩川駅」で電車を降りることになった。
ちなみに、双子新地と双子太摩川の間には太摩川が流れている。双子新地はここから見ると、川を渡った反対側、という事になる。
「なんでこの場所で?」と思ったが、谷屋さんは余り喋らないタイプのようで、電車を降りた理由は説明してくれなかった。
そんな谷屋さんはホームから出ると駅の西口へ向かい、そこで古びた公衆電話を見つけると、何処かへ電話を掛け始めた。通話自体は随分と小声で話していたが、どうも日本語ではなく外国語……中国語みたいな感じに聞こえる。それで、5分ほど電話をした後、谷屋さんは受話器を置いて、俺達の方を振り返り、
「ありがとう、ここからは私ひとりで大丈夫だ」
と言い出した。
「あれ? なんか話が違うんじゃない?」という事で、俺と岡本さんはそんな感じの反論をしたが、谷屋さんは、
「市川君や田中に余り心配を掛けないように事務所を抜け出るには
とのこと。
「じゃぁ、谷屋さん、あんた一人でその牧田といか言う女を探すのか?」
と言うのは岡本さん。せっかく発揮した
「ああ、そうなる。君達を巻き込むわけにはいかないんだ。だから、ここまでで良い。ありがとう」
と言う。口調は丁寧だが、有無を言わさない語気がある。それに少し面食らった俺と岡本さんは顔を見合わせるようになった。
丁度その時、駅西口のバス停スペースに1台のライトバンが滑りむように乗り付けた。古びた型落ちの白い車体の横には、擦れた赤い文字で[本場中華の珍香軒]とプリントされている。他に「出前承ります 03-6432-〇〇△△」とも書かれていることから、近くの街中華の出前用の車、と言った感じだろう。
遠慮なしにバス停スペースに停車したライトバンの窓が開いて、そこから身を乗り出すように運転席の男が怒鳴る。
「ワンさん! 乗って! 早く!」
それに、谷屋さんは答えるように手を挙げると、
「じゃぁ、直ぐ戻るつもりだが、田中に何か言われたら、勝手に逃げたとでも言っておいてくれ」
そう言い残して、ライトバンの助手席に飛び乗る。それで、ライトバンはフロントタイヤを少しスリップさせて急発進。あっという間に交差点を左折して見えなくなってしまった。
「……なんだよ」
「さぁ……」
残された俺と岡本さんは、「上手く
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