*太磨霊園レイドアタック⑱ 懸念
13層を突破した後は、一旦後続部隊を呼び寄せてから14層へ向かう。14層の構造もここまで来ると13層と大差が有る様には感じない。だから飯田の【直感】スキルを頼りに、下へ降りる階段がありそうな通路を選定して先へ進む。
今日、1月2日の作戦行動では、1層へ補給を受け取りに行く班を準備していない。メ弾の含まれない補給物資の受け取りに人員を回すより、下の階層を目指す事に人員を集中させる、という田丸隊長の判断だった。
更に言えば、今日の行動で15層を踏破しメイズ消滅が出来なければ、「撤退する」というのが田丸隊長の決定だ。泣いても笑っても今日が最終日。そんな決定が事前に通達されたからか、隊員の士気は高い。ただ、士気が高くなっても武器の攻撃力が上がる訳でもなければ、弾薬が増える訳でも、ましてやモンスターが弱くなる訳でもない。
結果として、彼等もまた苛烈な戦いに身を投じることになる。
諸橋班を除く4つの班に[TM研]を加えた約90人の集団は、俺達が先へ進む間、他の通路や脇道からやって来るモンスターが背後を突かないように守りを固める。通路の奥からワラワラと姿を現すモンスターに対して、防衛線を維持することが彼等の役割だ。
メ弾による小銃射撃と至近戦闘を織り交ぜ、時に【TM研】の援護を受けながら防衛線を維持する。ただ、当然被害は蓄積する。モンスターを斃し、ドロップしたポーション類を【TM研】が回収して怪我人の治療に充てる。それだけでは追い付かないのが現状だ。
ただ、14層に入ってから
そんな話を【TM研】から聞いたのは、ちょうど14層から15層へ降りる階段を見つけ出して、全員を呼び寄せに戻った時のこと。
「不思議なんですよね……」とリーダーの春奈ちゃん。
「しかも、至近戦闘の強さが妙に上がった人が何人かいて、僕は助かるけど」と言うのは盾持ちの井田君。
「その人達も理由が分からないって……不可解過ぎる」疑問を呈する秀才風な相川君。
「まぁ、メイズの中だし、変な事が起こってもしょうがないだろ」とは豪快な上田君らしい。
それに対して小夏ちゃんが「思考停止しちゃダメでしょ」などと言っているが……まぁ、俺はその理由を察している。というのも、
(お帰りなさいニャン!)
という念話を送りつつ、メイズの天井付近をフヨフヨと漂う魔法少女ルックスのハムスターが全ての原因だ。多分魔術の[止血術]や[スキル付与]で戦力を下支えしていたのだろう。でも、
(おお、ハム美! 外の里奈様は良いのか?)
そうそう、ハム美は里奈のサポートに回って貰ったんだ。なんでメイズの中に居るのよ?
(補給部隊に同行したけど、受け取り班が来ていなかったニャン)
ああ、なるほど確かに。今日受け取りの人員を1層に送らないという決定は、外に伝わっていないか……。
(それで里奈様が「心配だから見に行こう」と言い出したニャン)
それは……台風の日に用水が心配になってしまうお爺ちゃんのフラグだね。
(意味が分からないニャン……でも、流石にそれは困るので私が代わりに中へ様子を見に行く約束をしたニャン)
なるほど、グッジョブハム美。
様子見のために単身メイズ内に入ったハム美は、そのまま14層に到着。「チート過ぎるだろ」というツッコミは一旦脇に置くとして、そこで戦闘を繰り広げる隊員と【TM研】の姿を発見し、サポートに回った、という事らしい。
(バレないようにサポートするのは加減が難しいニャン。いっそのこと身バレしてもいいニャン?)
(うむ、吾輩もそう思うことがあるのだ……)
いや、その話はまた今度にしよう。
(せめて里奈様には背景を説明するニャン、質問攻めはツライニャン)
(まぁ、その内コータ殿がキツく詰められるのだ)
ああ、後回しにしていた問題がどんどん近づいてくる……。大輝、俺は一体どうしたら良いんだ?
「コータ? どうした?」
「あ、いえ、なんでも」
「行くぞ」
「はい」
とまぁ、
*********************
「諸橋班長、それなんですか?」
「コレ? ポラロイドカメラだよ」
「記念写真?」
「まさか……」
とは、15層へ降りる前の小休憩時、朱音と諸橋班長の会話。朱音が注目したのは諸橋班長が首から提げている箱状の物。ポラロイドカメラだということだ。なんでも、
「昨日の補給物資の中に入っていたんだ。それで、なにか指示書のようなものが田丸隊長に届いていて……15層奥に存在する壁面文字を撮影しろ、だって」
諸橋班長はそう言いながら、カメラを構えてみる。そして、
「デジカメですらスマホの1機能になっているこの時代に、アナログだな」
と、少し呆れ顔。ただ、こちらはその意味を理解している。
「壁面の文字ってデジカメで撮影してもデータが消えるんですよ。だからその場で書き写すか、プリントアウトしないと保存できないって聞きましたよ」
「へ~、あ、そうか。小金井メイズでも壁面の文字って有ったんだな」
「そうです」
「あれは驚きましたね~」
そんな会話になる。ちなみに喋っているのは俺、諸橋班長、朱音の順。と、この時
(ハム美は完全に記憶しているニャン!)
とハム美の念話が割り込んで来た。え? どういうこと?
(ハム美は見た物をそのまま絵のように記憶しておくことが出来るのだ!)
(役立つ場面が少ないニャン、でも、前回の文字列は丸っと暗記してるニャン)
へ~、凄いなぁ……映像記憶とか直感像記憶とか言う受験生垂涎の能力だ。確か大輝がこれに近い記憶力を持っていたはず。
(見てみるニャン?)
ああそうか、【念話】だから思考を介して記憶を見せることも出来るのか。でも、今はいい――
*********************
――[■不明な文章群■]。
[■不明な文節■]をここに開示する。[■名称か?■]は敵対者ではない。[■不明な文節■]を通して、この地の[■名称か?■]の共存と共栄を求める。
12の太幹、この地は壱の幹。[■不明な文節■]の第一の開示。[■…不明な文章…■]。
・[■名称か?■]播く法は、[■不明な文章群■]。
・魔坑石は、[■不明な文章群■]。
・[■不明な文章群■]。
・[■不明な文章群■]。
次なる開示は[■名称か?■]を後3つ。[■不明な文章群■]。
*********************
今は時間がないから良い、って言おうとした瞬間、俺の脳裏に浮かび上がったのは[小金井メイズ]の15層で見た壁の文字列だった。ただし、ハム美の思考を経由しているから、ハム美が解読できる部分は俺にも意味が分かる。
(あれからずっと考えていたニャン)
文字列を浮かび上がらせたまま、ハム美は【念話】を送って来る。
(
なるほど、確かにそんな感じだ。
(それで、所々に解読不可能な文字列が挟まっているニャン)
確かに。だから、文章としての意味はサッパリ分からない。
(でも、文法はあちらの世界の文章だから、解読不可能な部分もそれが単なる名称なのか文章群なのかは何となくわかるニャン)
確かにハム美が脳内に投影している映像記憶は虫食いのように解読不可能な部分にそんな注釈が付いているように見える。
まぁ、国家安全保障局の吉池係長は「解読しようとしている」と言っていたから、ちゃんとした文章の体裁を備えているなら、
(ただ、やっぱり気になるニャン……)
そこからハム美は「気になるニャン」という部分をパッパッとハイライトしていく。
先ずは「敵対者ではない」という部分。これについては、
(もう、出だしからオカシイニャン。あちらの世界の惨状を知っているから断言出来るニャン)
(魔坑が友好的とは、全く思えないのだ! 言語道断なのだ!)
とここでハム太も興奮気味に割り込んで来た。わかったから、落ち着け。
そして、次にハム美が気になるという部分は、文中の「播く法」という部分。
(あからさまに[播種の法]を連想するニャン)
(大輝様が古い文献から見つけたという[播種の法]なのだ、正体不明ながら、メイズを人為的に増やす方法のように思えるのだ!)
う~ん……[受託業者]的にはメイズが適度に増えてくれるのは嬉しい気がしないでも無いような――
(何を言っているのだ!)
(それは悪手ニャン、あちらの世界はそれで崩壊寸前まで行ったニャン)
サーセン。
(でも、そう思うのは人類の
う~ん、確かにそうかも……
「さぁ、そろそろ行きますわよ!」
「そうだな、行こう」
とここで、月成凛と岡本さんの声が聞こえる。どうやら小休憩は終わりらしい。
(あの壁の文字列を追求していくことに、不安を感じるニャン)
まぁ、その話は別の機会にしよう。今は15層を踏破しなければならない。依然として15層の
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