願いごと:僕は、〇〇人になりたい
はがね
第1話
夜間高校の教室でおしゃべりしていたら、クラスメイトのゆいさんの席から何かがすっ飛んできた。拾ってみたら、眼鏡メーカーのマスコットの、“見にくいアヒルの子”だった。目が悪いせいですっごく目を細めて何かを見ようとして、目つきが悪くなっているアヒルのヒナ。正直、どこがいいのかさっぱりわからないけれど、最近、人気らしい。
…世の中、なにが流行るかわからないよね。
結局、これはゆいさんのじゃなかったんだけど、このマスコットは子どものころに好きだった絵本を思い起こさせた。そう、“醜い”アヒルの子。だって、これは自分のお話だと、ずっとそう思っていたから。
***
父さんの両親も、母さんの両親も、この国からの移民一世。当然、父さんも母さんも、遺伝子的にはこの国の人。そのさらに子どもの僕も。みんなにはりょうさんって呼んでもらってるけど、本当の名前は亮太郎だしね。
だから、生まれ育ったあの国で、そんな名前この国の人間のものじゃない、お前は外人だ、異教徒だと言われて虐められても、仲間外れにされても、あんまり気にしなかった。だって、みんなの言うとおり僕には帰るべき本当の自分の国が別にあって、そこに行けば、皆が仲間として“戻ってきた”僕を歓迎してくれるって思ってたから。そう、ちょうど、醜いアヒルのヒナが、白鳥の群れに戻るみたいにね。…まあ、白鳥って柄じゃないけどさ(笑)
でも、現実はそうじゃなかった。この国でも、僕は外人と呼ばれる。
僕が育った社会では当り前だったことがここではそうではなくて、行動や考え方、話し方(難しい言葉はあまり知らないし)、そんなほんの少しの違いが、僕をこの社会における『外人』にする。ここでも、生まれ育った国でも外人。じゃあ、世界のどこに行けば、僕は外人じゃなくなるんだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます