第36話 配役オーディション

【あら、新しい台本ね。今度はどんなお話なのかしら?】


「鬼の話だね」


【鬼ねぇ……】


「なあアル。鬼っているのか?」


【そんなのいる訳いないわよ。空想上の生き物よ】


「なんだ、いないのか。精霊ならここにいるのにな」


【鬼がいるとすれば、人の心の中ね。人は危うい存在なの。その人次第で仏にも鬼にもなれるわ】


「身近で鬼といえば、パッとすぐ思いつくのが鬼崎なんだけどな」


【あんた尾崎先生を誤解してるわね。あの人は厳しさの中に優しさがある人よ。自分の力で努力して頑張りなさいって事を教えてくれる良い先生よ】


「いや、俺には恐怖の対象でしかないよ」


【それでどの役をやりたいのか決まったの?】


「今考え中だよ。んー、どれがやりたいかなぁ……」


観客に恐怖を与える復讐に燃える赤鬼か、心優しい青鬼か。

鬼を嫌う人間。女性の父親役とか。

女性が青鬼にお土産として持っていく団子を売ってる威勢の良い団子屋の店主とか。


色々あるけどなぁ……。

うーん、そうだなぁ……。


あれこれ考えて悩んでいるうちに、配役を決めるオーディションの日がやってきた。


「はい、えーと、それでは今から鬼のいる森の配役オーディションをやりたいと思います」


渡辺さんが率先して進行していく。


「では最初に赤鬼を希望する人、手をあげて下さい」


手を挙げたのは、三年の津田さん。

他にも二年の川村さん、米沢さん。

三人の希望者がいたので、それぞれに赤鬼の台詞を言って、皆で誰が雰囲気的に誰が良かったのかを話し合って客観的に決める。

その結果、三年の津田さんが赤鬼役に決まった。


「はい、では津田君が赤鬼役ということで。次は青鬼を希望する人は手をあげてください」


きた。青鬼だ。

俺は青鬼をやってみたい。

怖い雰囲気の中に優しさがある難しい役だけど、赤鬼よりも青鬼に魅了された。


俺は手を挙げた。


「大下君、黒田君、坂本君の三人だね。じゃあ順番に台詞を喋ってもらおうかな」


「娘さん。怪我したのかい?……薬草だ。これで大丈夫。赤鬼に見つからないうちに森を抜けてさっさと家に帰りな」


それぞれが台詞を言っ後、話し合いが行われた。

結果、俺の演技が青鬼のイメージに一番近かったらしく、俺は青鬼役に決まった。


やりたかった青鬼役をやらせてもらえる事が嬉しかった。


怪我をして青鬼と仲良くなる女性の役には、山口さんがなった。

幻の少女の時とは違って、優しい女性の役だ。


配役が決定して、その日は解散となった。

これからまた本番に向けて練習の日々が始まる。

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