第31話 新人公演
幻の少女が終わり、次の公演の話になった。
「えーと、次の公演は毎年恒例の新人公演でーす。皆よろしくねー」
このサークルでいう新人公演というのは、新人役者だけで構成された作品のことだ。
先輩達は、裏方に徹して演技指導や道具作りなどのサポート面を担当するというものだ。
つまり早い話が自分たちで出演して頑張れということだ。
「あのー、脚本はどうなるんですか?」
俺は素朴な疑問をぶつけた。
まさか新人達だけで脚本もしなきゃならないんだろうか。
「心配いりません。脚本はこの天才脚本家、大谷が用意しますのでご安心を」
なるほど。
やはり脚本は大谷さんの専売特許というわけか。
「……というかすでに準備できてますよ」
「早っ!いつの間に」
「今回新人公演でやってもらうのは、銀のライオンと星です」
そういうと新人役者達に台本が配られた。
うわー、やっぱ俺も出るのか……。
これが俺のデビュー作になるのか。
どれどれ……。
幼い頃に母を亡くしたリョウは、銀のライオンと星という絵本を母から読んでもらった事くらいの思い出しかない。
高校生になったリョウは、偶然、近所の古本屋の店先に並んでいた銀のライオンと星を見つけて購入する。
銀のライオンと星を手に持ったまま家に帰っていると、同い年くらいの女の子に出会う。
彼女はアカネといい、彼女も銀のライオンと星が大好きなのだという。
話している最中、突然彼女が苦しみ出したので、リョウは慌てて救急車を呼ぶ。
彼女は白血病だった。
一冊の本から出会った二人の切ない恋愛ストーリーだ。
「えっ……」
自分の目を疑った。
俺が主役になっている。
「ええっ、なんで俺が主役?ええ、これどういう感じで決めたんですか」
「新人の人を皆、平等にするために配役はあみだくじで決めました」
マジかよ……。
初舞台が主役だなんて。
「ええ、無理ですよ。いきなり主役だなんて。俺、初心者ですよ」
「最初は誰だって皆、初めてがあるんだよ。大丈夫。やってみよう。そうやって新人を育てる。これが新人公演の目的なんだから」
「自信ないなぁ……」
「大丈夫。発声練習は、ずっとやってきた。最初一番の基礎は十分にやってきたじゃないか。演技指導とかは俺たちがサポートするから」
渡辺さんは励ましてくれたけど、やっぱり自信はない。
でもやらなきゃ何も変わらない。
そうだ、やってみよう。
「ありがとうございます。色々と教えて下さい。頑張ります」
「いいぞ、その意気だ」
脚本と配役の発表があり、その日は解散となった。
帰ってくるとアルが話しかけてきた。
【あら、帰ったのね。たしか今日は新人公演についての発表があったのよね。どうだったのよ】
「うん。脚本はさ、切ない恋愛ストーリーなんだ」
【あらぁ、いいじゃない。あたしも観に行こうかしら。主役はやっぱりイケメンかしら】
「……主役、俺なんだ。あみだくじで決まったんだって」
【あはははは。あんたが主役?ええ、ほんと?それも切ない恋愛物ですって。面白いわね。あたし絶対に人間に化けて観にいくわ】
「やめろよ、絶対観に来るなよ。……台詞覚えたり、演技も。ああ、色々頑張らないとな」
【頑張りなさいよ。まあ台詞覚えくらいなら手伝ってあげるわよ】
「へぇ、どうやって?」
【間違えたら静電気攻撃ね。そうすれば早く覚えれるでしょ】
「いや、遠慮しておく。頑張って覚えるわ」
そんな会話をしながら、夕食を作って風呂に入って寝た。
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