小さな黒猫は水槽の中で眠る
富本アキユ(元Akiyu)
第1話 一人暮らしの想定外
自由だ。最高だ。
そう思ったのは、最初の一ヶ月くらいの間だった。
晩ご飯できたよだの風呂に入れだの口うるさい母のいる実家を出て、この春から憧れの一人暮らしをスタートした俺は、まさか一人暮らしがこんなにも寂しいものだとは思ってもみなかった。
家に帰ってきて、ただいまという相手もいないし、ご飯ができているわけでもないし、洗濯ができているわけでもない。
まあ家事が大変なのは覚悟してたけど、こんなにも寂しい感じは思ってもみなかった。
この寂しさを紛らわすには、どうしたらいいだろう……。
そうだ、マンションに友達を呼ぼう。そうすれば寂しくない。
いや、でも寂しいと思った時に都合よく友達の予定が空いていて、必ず来てくれるというわけでもない。
そもそも男同士で寂しいからという理由で同じ部屋にいるのは、それはそれでなんか気持ち悪いような気がするな。
他の方法を考えよう。そうだな……。
じゃあ彼女。そうだ、彼女を作ろう。
いや、だめだ。まだこっちに来て一ヶ月。仲の良い女の子なんていない。
……というか女の子と喋るのが苦手だ。緊張してしまう。
彼女いない歴と年齢がイコールで繋がってしまう俺には、無理な考えだった。
だがこの寂しさをどうにかできれば、きっと自由で快適なキャンパスライフが待っているはずだ。
考えろ、俺。考えるんだ、何か良い方法があるはずだ。
うーん……。
そうだ!!ペットだ!!
ペットを飼おう。ああ、ダメだ。ここマンションだった。
ペット飼えないか。良い考えだと思ったんだけどな。
いや、待て。まだあきらめるな。
考え方としては、結構良い線いってるはずだ。
そうだ!!ペットでも近隣に迷惑がかからないようなペットなら大丈夫なんじゃないか。
例えばそう。金魚。犬みたいに吠えたりもしないし。
ちょっと大家さんに聞いてみよう。
大丈夫。あのおばちゃん、親しみやすい感じだし、きっと金魚くらいなら許してくれるよね。
「うーん、金魚ねぇ。金魚くらいならまあかまわないけど、死んだら処理はきちんとしてよね。紙で包んで可燃物で出すとか」
飼う前から死んだときの話をされてしまった。まあ当然だよね。
でもこれで一応、許可はもらえたわけだから金魚飼ってもいいよね。
スマホを使って近くのペットショップを調べたら、徒歩10分くらいの距離で案外近くにあったので早速ペットショップへ向かった。そして金魚一匹と水槽と金魚の餌を買ってマンションへと戻った。
部屋の直射日光の当たらない隅っこに水槽を置いて金魚を眺める。うん、良い感じだ。
今日からよろしくな。名前何にしようかな。
寝転がって目を閉じて考えていた。
金魚だからキン太。
ってかそもそもこの金魚はオスなのかな。メスなのかな。どっちだ。
そんなことを考えている間にウトウトして眠ってしまった。
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