夜襲するアリス

「ダーリン……」


 風呂上がりで色っぽい目でマリサは俺を見てくる。


「い・い・こ・と・し・ま・しょ?(ハート)」


 ひとつひとつの言葉に溜めを作っている。


「だめだ」


「ええ!?」


「無駄な体力を使わせるな」


「ダーリンって性欲ないの?」


「それは思うことあるわ」


 二人は呟く。


「人を不能みたいに言うな。俺は自身の欲求を完全にコントロール出来るんだ」


「ええ~~」


「いいから寝よう。我が儘を言うな」


「はーい……ぐすっ」


 渋々マリサは床についた。


 俺達三人はひとつのベッドで眠る。とはいえ、俺は眠るつもりはなかった。俺は見張りだ。

 いつ何時、敵が襲ってくるかもわからない。特にここは暗殺者の国キールだ。


 それにあの時に見えた影。そしてあの時の感覚。間違いない。アリスの存在だ。


「ダーリン、どうしたの?」


「……何がだ?」


「眠れないの?」


「眠れないの、じゃない。眠らないんだ。俺は」


 基本的に熟睡する事はない。いつ何時襲いかかってきても対応できるくらいの睡眠の深さをキープする。いつでも起きられるように。


「そう……」


「いいから眠れ。マリサ。明日もあるんだ」


「はーい」


 ……それは深夜3時頃の出来事だった。夜から朝に移り変わるくらいの時間帯。


 気配を感じた。白刃が走る。俺は備えていたダガーでそれを防いだ。


 キィン! 甲高い金属音が響く。


「きゃっ! なにっ! なにっ!」


 ユフィが目覚める。


「なにっ! 何かあったのっ!?」


 マリサも目を覚ます。良い目覚ましだったようだ。


「気をつけろ! 敵の襲撃だ!」


 俺は叫ぶ。


「流石はシンです。寝込みを襲っても防がれましたか」


 俺の目は捕らえていた。その相手の姿を。3年前と全く変わらない姿で彼女は俺の前に現れた。その声を忘れるわけがなかった。


 アリス。


 それが彼女の名だ。3年前、あの日以来会っていない、俺の幼馴染み。


「なぜだ!? なぜアリスが!」


「私がシンを殺す理由がないと? 覚えていませんか? 3年前にノアを殺した事。シンが忘れたはずがありません」


「あの時の事を恨んで俺を殺しにきたのか? ノアの事で俺を許せなかったのか」


「それは一因です。私も暗殺者です。目的の為で人を殺すのは間違った事ではありません。必要であれば幼馴染みであろうと、例え家族であろうと殺す。シン、あなたは暗殺者(アサシン)として立派な行いをしたのです」


「……だったらなぜ?」


「私は今、主に仕えているのです。その方の命令でシンを、そしてそこの二人。勇者ユフィ、魔道姫マリサを殺すように言われています」


「仕えている主っていうのはロバート教官なのか?」


「ええ。ロバート様です。私にとってロバート様は絶対的なお方」


「ダーリン。この娘、おかしい。多分、洗脳か何かを受けている」


「ロバートの策略だろうな」


「ロバート?」


「俺達が暗殺者になる為の教育機関。そこの教官だ。冷徹な合理主義者だった彼はアリスに余計な感情を持って欲しくはなかったんだろう」


「私が洗脳されている? だから何ですか? シン。あなたに私が殺せますか? ノアのように」


「……くっ」


 アリスが襲いかかってくる。俺のダガーとアリスのダガーが火花を散らす程に激しくぶつかり合う。


「どうするの? ダーリン」


「アリスを殺すわけにはいかない。全力で取り押さえる」


「わかったわ」


「どうすればいい?」


「とりあえずは部屋の隅に居てくれ。巻き添えになりかねない」


「余裕ですね。私など殺さずとも無力化できると言うのですか」


「多分な。アリス。俺は暗殺者だ。だが、人を殺すのが好きなんじゃない。アリス。特にお前と俺は幼馴染みだ。特にお前を殺したくはないんだ」


「言いますね。だったらシンあなたは!」


 アリスが襲いかかってくる。


「なぜあなたはノアを殺したのですか!!」


 憎しみと共に振り下ろされるのは刃だった。俺はそれを弾き飛ばす。


「なっ!」


 俺はアリスに覆い被さる。マウントポジションを取った。


「こ、このっ! 離しなさい!」


「馬鹿か。離せと言われて離す奴がいるかっ!」


「くっ!」


「マリサ! こいつを何でもいい! 無力化させろ!」


「はい! わかったよ! ダーリン! スタン!」


「ぐっ、はっ」


 マリサは麻痺系の魔法をアリスにかけた。電気ショックで動けなくする魔法だ。


「くっ! 離しなさい!」


 しかしアリスはそれでも動いていた。


「嘘っ! 効いてない!」


「アリスは暗殺者としての訓練を受けている。麻痺に対する耐性があるんだ。眠りと毒にも耐性がある」


「ど、どうすればいいのよ」


「耐性はあるが完全耐性ではない。重ね掛けすればいずれは気を失う」


「わかったわ! スタン! スタン! スタン!」


「ぐっ!」

 

 身体に電流を流し込まれ続ける。


「いい加減気を失いなさい! スターーーーーーーーーーーン!」


「うっ!」


 最後の電流でアリスは気を失った。


「ふう。何とかなったわね」


「ユフィ何もしてないわね」


「うるさいわね見せ場がなくて。悪かったわね」


「とりあえずアリスを縛るぞ」


 俺はアリスを縄で縛った。


「はぁ……なんとかなった」


 ーーと、その時だった。


「ん?」

 

 ユフィの持っている魔晶石が光り出した。神託により選ばれたパーティーメンバーを探し出す為のものだ。その魔晶石が強い光を放っているではないか。


「う、嘘っ。なんでっ!」


「もしかして。新しいパーティーメンバーって」


「この子なの!?」


 光り輝いている魔晶石を見て俺達は驚愕していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る