マリサの夜這い
「……はぁ」
俺は客室で溜息を吐く。落ち着ける時間がない。
ギィィィィ。
「誰だ?」
「……ダーリン」
「マリサか……また凄い恰好だな」
マリサはスケスケの下着を身に着けている。
「夜は始まったばかりよ。今夜は寝かさないわ」
「そうか。どちらにせよ。あまり俺は睡眠をとらない」
「そうなの?」
「睡眠中はもっとも無防備な瞬間だ。いつでも起きられるように浅い眠りを繰り返す」
「なんか大変ね。ぐーっと、寝ればいいのに」
「能天気に言うな。俺は暗殺者(アサシン)だぞ」
「どちらでもいいわ。ダーリンはダーリンなんだから」
マリサは俺に迫りくる。月夜に照らされて艶めかしい体が見えた。
「マリサ……お前は勘違いをしている」
「何を?」
「俺はお前が望んでいるような白馬の王子様ではない」
「そうなの?」
「俺は暗殺者だ。人を殺した事もある」
「まあ、そうなの。でもろくでもない人間でしょう?」
「ろくでもない人間だけではない。まともで誠実な人間を殺した事もある」
俺は過去の記憶を思い出す。失われた人物の顔を思い出す。そう、あいつだった。あいつの顔が忘れられなかった。今より3年ほど前の事である。俺がマリサくらいの年齢の時だ。
「けど、それは何か理由があったんでしょう?」
「確かに理由があった。だが殺人は殺人だ」
「それでもダーリンが私の命を救ってくれたことには何の違いもないわよ」
「……それは確かにそうだが」
「ダーリンはきっと私には想像もつかないような辛い過去を歩んできたのね」
マリサが俺の上に乗ってくる。
「けど大丈夫。マリサがそれを忘れさせてあげるから。嫌な事も辛いことも、全部マリサが癒して、忘れさせてあげる」
マリサの唇が迫ってくる。だめだ。この娘に何を言っても聞きはしない。唇が交錯した時の事だった。
「やっぱり、部屋にいないと思ったら」
ユフィが部屋に入ってくる。
「シンの部屋に来ていたんですか。予想通りです」
「なに!? 夫婦の情事を覗き見ようなんて悪趣味よ!」
「誰が夫婦ですか! 違うでしょう!」
「未来の夫婦なのよ! 同じようなものじゃない! それでユフィ。あんた何しにきたのよ」
「……それは」
「シンが取られそうで、茶々を入れに来たんでしょう?」
マリサは意地悪っぽく笑みを浮かべた。
「否定する要素を持ちませんが……」
「なに? それじゃあユフィが私の代わりに夜伽の相手をするつもりなの? それとも3Pでもするつもり?」
「わ、私はそんな……事」
「ダーリンのいきり立った情欲はもう歯止めが効かないわよ」
俺はそんな性欲の権化ではない。だが、俺は普通ではないのだろう。男というのは性的欲求で生きているような生き物だ。本能的に女と交わり、種を残したいという欲求が存在する。美少女に迫られ、それでも手を出さないのは異常な人間――男だ。不能か、同性愛者か。重度のロリータコンプレックスか。それくらいである。だが、俺はそのいずれにも該当しない。だがらより異常な人間なのだ。
「わかったわよ! 私に責任があるならそのシンが望むのなら相手をするわよ!」
「だってさ。どうする? マリサとユフィ。どっちとシたい?」
「……俺は……」
そんな時だった。
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴が轟く。そして聞こえてくるのは爆発音。
「なんだ?」
「何かあったの?」
「マリサ……まともな服を着ろ。何かあったに違いない」
「ええ」
俺達は部屋の外へ出る。その時、魔道国マギカの王城は阿鼻叫喚の様子を呈していた。
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