白馬に乗った王子様現る

「ええ! Sランクのモンスターを討伐したんですか! なんで銅の冒険者のシンさんにそんな事ができるんですか!」


「しーっ。受付嬢さん、声が大きいです」


「す、すみません。ですが、驚きますよ普通」


 冒険者ギルドに戻った時。受付嬢が報告を聞いて驚いた。


「……ともかく、この事は秘密にしておきたいんです。お願いします」


「は、はい。わかりました。色々人によって事情はありますもんね」


 受付嬢はすんなり納得した。


「さて、次はどうするか」


「魔道の国マギカに行きましょう。神託を受けたパーティーメンバーがそこにいるの」


「どうしてそんな事がわかるんだ?」


「この魔晶石で探せるの」


「そうなのか」


 ユフィは魔晶石を見せた。青色の不思議な石だ。


「手ぶらじゃ探せないでしょ。流石に」


「まあそうだな」


「それでは魔道の国マギカに行きましょう」


 こうして俺達は魔道の国マギカへと向かった。


 ◆◆◆


一台の馬車があった。その中には一人の少女がいる。

マリサ・マギカ。

職業は魔法使いである。栗色の髪をした絶世の美少女である。年齢は15歳。彼女は魔道国マギカの王女であり、魔法の天才でもあった。そして頭脳明晰の才女でもあった。


当然のように、彼女に言い寄ってくる男は多かった。どこぞの王子との縁談も多い。


 だが、彼女は馬車の中で溜息を吐いていた。


「……はぁ。どこかに良い男。いないかなー?」


「マリサ様の条件は些か厳しすぎるんですよ。男性がいくらでも寄ってくるもんで、自然とハードルがあがっているのです」


 彼女の従者である女性、クラリスが言った。彼女もまたただの従者ではない。魔法使いである。魔道国マギカはその名の通り、魔法使いの国だ。国民の多くが魔法を使う事ができ、魔法を信奉している。


「ちなみにマリサ様は、どんな男性がタイプなんですか?」


「イケメンで。私のピンチにこう、一瞬で駆けつけてきてくれる、白馬に乗った王子様的な。弱い男はだめね。やっぱり男は強くないと」


「天才魔法使いであるマリサ様より強い男などそうは存在しませんよ」


「でもねー。やっぱりそこは妥協できないっていうか」


「あまり条件ばかりつけていると売れ残りますよ」


「そうよねー。クラリス、あなた何歳だっけ?」


「25歳ですが」


 ちなみにクラリスは独身である。マリサはそっぽを向いた。


「クラリスみたいにはなりたくないものねー」


「マリサ様! あなた! 全世界の売れ残り女性を敵に回しましたよ!」


 クラリスは怒鳴った。


「ああ……どこかに良い男いないかなー」


 そんな時だった。二人はその様子を高所から観察している一人の男に気づいていなかった。

 ◆◆◆◆◆



「くっくっく。くらうがいいっ! 俺の特別製のデーモンを!」


 男はデモンサマナーだった。悪魔に特化した召喚魔法師である。


「出でよ! レジストデーモン!」


 馬車を襲撃すべく、レジストデーモンを召喚したのである。それも馬車に乗っている人物を襲撃する為に編み出した特別製のデーモンだ。

 

◆◆◆


「……な、何かしら。不安な空気を感じる」


「マ、マリサ様! 目の前に魔法陣が出現しました!」


「なんですって!」


「これはどうやら召喚魔法! それも悪魔召喚です!」


「と、ともかく馬車から出るわよ!」


「ええ」


 マリサとクラリスの二人は外に出た。


 ◆◆◆◆◆


 マリサにとって護衛は意味を成さない事が殆どだ。マリサ以上の魔法使いは魔道国といってもそう多くは存在しない。それ故に護衛らしい護衛をつけていなかった。自分自身の強さに対する絶対的な自信がそこには存在していた。


 だがそれは同時に慢心を生んだ。今回のようなケースが良い例だった。だが、今回の場合は例え護衛をつけていたとしても同じような顛末を辿った事だろう。


ここまでの相手の襲撃を予見する事は未来予知でも出来ない限りは困難だったのである。


 出てきた悪魔は全身真っ黒の不気味な悪魔だ。見たことのないタイプだった。


「な、なによ! こいつ!」


「クラリス様! 危険です! この悪魔! 嫌な気配をしています!」


「わ、わかってるわよそんなの! 私だってビンビンに感じているわよ!」


 ただならぬ気配。恐らくはSランク相当の相手だろう。悪魔の中でもただ者ではない。間違いなく、上位悪魔だ。

 マリサは魔法を放つ準備をする。


「聖魔法! ホーリーアロー!」


 魔法を放つ。ホーリーアロー。悪魔は基本的には闇属性だ。その為聖属性の魔法は特効効果があった。高い魔力を持つマリサの魔法攻撃ならば尚更抜群の効き目となるはずだった。それはSランクのモンスターでも軽々防げるものではない。

 

 ーーしかし。


「なっ!?」


 聖なる光の矢は霧散する。殆ど効いていない様子だった。


「う、嘘っ! なんでっ! こいつ、高いレベルの魔法抵抗スキルを持っているに違いないわっ!」


 マリサは叫ぶ。その通りであった。このレジストデーモンは『魔法抵抗高』のスキルを保有している、魔法使い殺しのデーモンであった。


「け、けど。なんでこんな奴が突然!」


「マリサ様! お逃げください! マリサ様!」


「あっ、足が。足がすくんで動けない」


 レジストデーモンが歩み寄ってくる。


「やだ。やだ・・・・・・まだ死にたくない。いやだよぉ」


 マリサは迫り来る死の恐怖に震えていた。


 ーーその時だった。刃が走る。


「え?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 レジストデーモンが果てる。あれほど屈強に見えたデーモンが泡のように消えていった。


 一人の成年の姿が見える。黒ずくめの少年だった。マリサにとっては彼が白馬の王子様に見えたのは言うまでも無い。


 一目惚れをした。運命を感じた。この人しかいない。

 

 死地の中にいたはずがマリサの胸の鼓動はときめきで止まらなくなっていた。

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