眠り姫は寝足りない~寝れば寝るほどレベルアップするスポットに転生して寝溜めしてたら、いつの間にか最強になっていた件~
@phenomenomenon
快適な眠りのために
第01話 プロローグ
寝る子は育つとか、果報は寝て待てとか、よく言われる言葉であるが、現代においてそれはもはや幻想なのではないだろうか。
彼女はとにかく、睡眠が好きだった。朝早く学校に来てから一限目が始まるまでの空き時間はもちろんのこと、休み時間や授業中、昼休みや放課後、家に帰ってきてからの約半日を、眠って過ごす。そんなサイクルが物心ついた時からずっと回っている。
彼女にとって睡眠は、幸福であると同時に失望だ。前者は眠っているときの時間であり、後者は睡眠が終わったとき、そして眠っている彼女を見る周囲の人々の反応である。
睡眠は人間にとって必要不可欠であるというのに、まったく、どうしてこんなことになってしまったのか。
幼い頃は眠れば眠るほど褒められて、親からも安心されていた。だが、小学生から徐々に注意を受け、高校生となった今では、忌み嫌われ失望されている。今では『眠り姫』だなんてあだ名もついて回っているほどだ。
確かに、親や教師が言わんとしていることは理解できる。言うまでもなく、それは睡眠より大事なものがあるからだろう。それは将来だったり、進路だったり、つまりは学業だったりする。
だからこそ、
「はぁ……」
目を閉じて、ため息を一つ。
度重なる睡眠不足で、眠には随分疲れが溜まってしまっている。わたし、家に帰ってお風呂に入ったら、12時間ぐっすり眠るんだ―――そんな露骨なフラグを立てたのがいけなかったのだろうか。
「え……」
突如、ドスッ、と胸に突き立てられた刃物に、彼女は反応が遅れてしまった。
ズブリと抜かれる刃物、舞う血飛沫。不意に力が抜け、彼女は仰向けに倒れてしまう。
「ふぅー、ふぅー」
彼女の傍には返り血を浴び、荒く呼吸を繰り返す女性が立っていた。その憎悪に満ちた目は、倒れた眠を睨みつけている。その手には、血の付いた包丁が握られていた。
あれ、私の家でよく使われてる包丁だ―――と、眠は自らの母親が持つ包丁を見て、ぼんやりと思った。
(ああ、なんか、きもちいー……)
ただゆっくりと、暖かいものが胸の内から広がっているようで、眠はとても心地よさそうに目を細める。その心地よさはまるで、犬とともに天使に抱きかかえられる少年のようだった。
傍から見ればとても危険な状態なのだが、朦朧とする意識も相まって眠は、文字通り眠るように目を閉じる。
直後、一人の女子高生が屍に変わった。
■ Z Z Z... ■
「…………んぅ」
……雨粒が地面を打つ音。静かながらも小煩いその音に、石の上で丸くなって微睡む少女は顔をしかめて寝返りを打つ。
冷たい。寒い。煩い。何度も寝返りを打っている内に、少女は瞑った目をバチリと開き、怒号―――あくまで少女にとってはだが―――を放ちながら勢いよく跳ね起きた。
「あーもう、うるさいー。眠れな……あれ?」
言いかけたところで、少女は言葉を失う。
(あれぇ……なんで私、こんなに濡れてるの?)
なんだろう。何だか、すごく曖昧な気分だ。まるで、自分が自分だという実感を得られないような……。
しばらくボーっとどこかを見つめていた少女は、次の瞬間、不安そうに周りをキョロキョロと眺めた。視界に映るのは木、木、木……目を下に向けると、少女は自分が巨大な岩の上に座り込んでいることに気が付く。その姿はさながら『石の上にも三年』と言ったところだろうか。
状況を確認した少女は、やけに朦朧とした記憶を掘り起こそうと両手の人差し指を頭に当てた。
(えーとぉ、確か私、学校から帰ってた途中で、それから
頭に浮かぶのは、目の前に広がる血だまりと返り血に染まった誰かの服、それと包丁。どう考えても穏便には済んだように思えない光景だ。
とはいえ、自分は今ここできっちり息をしている。どうしてこんな場所に転がっているのかはわからないが……。
「……ん」
そんなことを考えているうちに、少女の体がカクン、カクンと揺れ始めた。
ちょうどいい。度重なる学校生活で、『寝溜め』も満足にできていなかったことだ。誰かに邪魔されることはなさそうだし、今のうちに眠っておこう、と少女は考え、力尽きたように岩に寝そべり、もはや雨粒も気にしていないように穏やかに寝息を立て始めた。
他に優先すべきこともあっただろう。特に食事や暖などは、取らなければ死んでしまう。だが、眠には……
食事、暖、水……そんなものより、彼女にとって欲しいのは睡眠、それだけだったからだ。
■ Z Z Z... ■
彼女はまだ知らない。
彼女が今睡眠をとっている場所は『魔力溜まり』、すなわち、そこで寝ているだけで成長し、強くなれる、いわゆる『経験値スポット』だということを。
そして、彼女の体が魔力を吸収し、レベルアップを遂げ、次第に成長していることを。
更には、成長した彼女の体が快適な眠りのために徐々に進化し、そのための技能を獲得していることを。
《スキル【
眠りにつく彼女は、まだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます