第二十一章 一生をかけたお願い…
六十九話 急いで掃除しないと!?
その日、私は朝から先生のお部屋でお洗濯物をしながら掃除機をかけていた。
「もぉ、いくら男性の一人暮らしとは言っても、これは想定を越えますよ」
「本当に申し訳ない!」
こんな文句を言いながらも、思ったより早く先生のお家に来られたわけだし、前々からお洗濯や食事を作りに行く計画だけは立っていたので、それが叶っただけの話なんだけど、それがあまりにも急な事だったから。
昨日の夜に先生から私のスマートフォンに電話がかかってきた。
何事かと驚いて出てみると、部屋の掃除を手伝って欲しいとのこと。
急にご実家のお母さんが来ることになって、掃除の時間も無いから助けて欲しいという内容だった。
「分かりました。明日の朝早く行きます」
詳しい住所を聞いたら、私の家から十分も歩かない。
きっと朝ご飯も食べずにバタバタしているだろうと思って、おにぎりを握って掃除用具と一緒に先生のアパートに急いだ。
お部屋に入ると、洗濯物の山と積み上げてある本や参考書。箱に入ったままのインスタント食品。
それでもゴミはちゃんと出してあったらしいけど、これではさすがに気軽に私を呼べる部屋ではなかったんだと理解した。
でも、今はそんなことで手を止めている場合じゃない。
「お洗濯物とキッチンは任せてください。先生はお部屋をお願いします」
「本当に悪い! この礼は必ずするから」
こんなことも想定していたので、高校のジャージを持ってきてよかった。
あの学校は特に名前も書かなくてよかったので、ぱっと見では普通に部屋用のジャージに見える。
男物を洗濯するのは、家でお父さんの洗濯物もしているので気にはならないし、要領に迷うこともない
お仕事用のワイシャツも襟と袖を石鹸で汚れを落として、それから洗濯機にかけてからスプレーで糊づけ。そして半乾きのうちにアイロンで仕上げていけばいい。
洗濯機が回っている間に、同時並行でキッチン回りを片付ける。
お皿を洗って、布巾で水気を拭き取っては収納の棚に並べていく。あとは水回りをクレンザーを使って磨き上げてしまえば、床は掃除機と雑巾で水拭きをして完成。
「凄いな結花は……」
洗濯機からできあがったものをすぐに、スプレー糊とアイロンを使って仕上げる。
本当はもっと丁寧にやりたいんだけど、とにかく時間がないからポイントを絞って見た目だけでも清潔に見えるように。
それを完全に乾燥させるために、カーテンレールに並んだワイシャツを見て先生は感心していた。
「お買い物に行って、おかず作りますね。何日間か使えるようにまとめて作ります」
スーパーが開いた時間を見計らって、一度着替えてからお部屋を飛び出した。
栄養と保存と先生の好みを考えて、献立を考えながら買い物を済ませて戻る。
「なんとか夕方には間に合いそうだ。結花のおかげだ」
「もっと早く言ってくだされば、前々からお掃除しておきましたよ」
ちょっと拗ねたように返してみるけど、先生は私の頭をぽんぽんたたいている。
あぁ、それで許してもらえるってバレちゃってるし。私も単純だからなぁ……。
二つあるガスコンロを同時に使って、レンジで温めるだけで食べられるおかずの下ごしらえを作っては透明なタッパーに入れて冷蔵庫に入れていった。
「これで一週間分の朝は何とかなると思います。なくなった頃に、また作りに来るか差し入れしますね。今度は曜日を書いておきましょうか?」
「ほんと、いい嫁さんになれるな」
「はい……」
ようやくひと息ついて、二人でペットボトルの麦茶を飲んだときだった。
玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
「いい、俺が出る」
そうだ。ここは先生のお家。私の声がしたら変なのに。
扉を開ける音がして、先生がびっくりしている声がした。
「お袋……」
私はどこにいればいいか分からなくなって、その場に立ち尽くしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます