水曜日 20:00

星はゆりかご

 三本足の三毛猫が、子守唄を口ずさんでいます。




 ゆりかご ゆれる

   ゆられて ねむる


 ゆりかご ゆらす 母はそら


 おやすみ よいこ 

  いつでも あなたはそらのした

 おやすみ よいこ

  いつでも あなたは母のむね

 おやすみ よいこ

  いつでも 母は あなたとともに


 ゆりかご ゆらす 母はそら


 ゆりかご ゆれる

  ゆられて ねむる ゆりかごの星




 シェリルは、配送車の窓を開け、暗闇の空を見上げていました。


「シェリルに、あたしの夢を話したことはあったかしら」

 三毛猫は歌うのをやめると、頭を車のシートにもたせ掛けて目をつぶりました。

 

「いいえ、ミケーラ」


「あたしの夢はね、猫の九つの命を捨てることなの」


 シェリルは、ちらっと三毛猫を見ました。


「そしてね、今、暮らしている家で人間の娘に生まれ変わってね、おとうさんとおかあさんとおねえちゃんとで、晴れた日にお弁当を持ってピクニックに行くことなの」


「そんなに簡単にいくとは思わないけれど、月の姫」シェリルはいらついたようすで、暗闇の空に目を戻しました。「捨てられるものなら、わたしだって、九つの命なんて捨てたいわよ」


「フレイアも、同じことを言っていた」


「フレイアとわたしは、あなたとは違う意味よ。人間になりたいわけじゃない。ミケーラ、あなたは今の地上での生活が幸せだもの」


「そうよ。月から追われたわたしを、救ってくれた。今の地上での生活は、一日一日が愛おしくて、かけがえがない」


掌上しょうじょう明珠めいしゅですものね、今のあなたは。でも、てのひらの中の硝子玉ガラスだまは、壊れやすいのよ。少しの力で壊れて、掌を傷つける」


「ご忠告、ありがとう、シェリル。フレイアだって、あなたとは違う意味で言ったはずよ。フレイアは、だれかさんと違って策士ではないから」


「なにが言いたいの、月の姫?」


あかつきの光の天使ルシフェルはね、堕ちて、サタンのおさになったのよ」


 月光色の目を静かに開け、三毛猫は車の天井を見上げたまま、また歌い始めました。

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