友情
「なにすんだよ!もんちくん!」
「ぼくに、モモちんのことを任されても困る!」
「なら、いいよ! モモちんなら、ひとりでやっていくさ。でも、仔猫たちのことは頼む! 早く、仔猫たちの所に行ってくれ!」
「このまま、ギンぽんを置いて行くなんて、できるかよ!」
「なに言ってるんだ、もんちくん! 一刻を争うんだ! 早く行けよ!」
「いやだ!」
「もんちくん! なんで、ぼくの言うことが聞けないんだ!」
「ああ、聞けないね」
「なんだって! きみは、仔猫たちを見捨てるのか!」
ギンぽんが言い終わらないうちに、再び平手打ちが飛んで来ました。口の中が切れ、血の味が広がります。
「いくら、ギンぽんだって言って良いことと悪いことがあるぞ! だれが仔猫たちを見捨てるんだ!」
「もんちくん、きみがだろ! お願いだ、早く、仔猫たちの所に行ってくれ」
「あの子たちは、ギンおじちゃんなんかより、ずっと、しっかりしているさ。黒白猫ちゃんも、利発で機敏な子だ。さっき、あの子の目を見てわかった。強い子だ。猫の誇りを持った子だ。ぼくは、あの子を信じている。だから、カギをもたせて、女の子たちのところに行かせたんだ。女の子たちが、もし、ここに居れば『もんちおじちゃん、悲劇のヒーロー気取りのギンおじちゃんの目を覚まさせて、助けてあげてね』って言うに決まっているさ」
「なんだと! もんちくんこそ、言って良いことと悪いことがあるぞ!」
ギンぽんが平手打ちを返そうとすると、もんちくんは、その手を掴みました。
「ひとりだけ、いい格好するなよな、ギンぽん。ぼくにだって、地上に大切な人間のかあさんがいる。生まれ変わって、早く会いたい。今すぐにだって会いたいさ。だけど、ぼくはそれを
「こんな時に、ぼくに恩をきせるのか! だったら、良い機会じゃないか! 仔猫たちを避難させたら、さっさと生まれ変わって、地上に行けよ!」
「黙れ、ギンぽん! 一度決めたことを、軽々しく放り出せるかよ! おまえがそんなことを言ったのが、モモちんに知れてみろ!
「えっ?!」
ギンぽんは、もんちくんの言ったことに絶句してしまいました。
わたしも、絶句しますよ、もんちくん!
どうして、このわたしが、闇の翼より、怖いんですか!
それに、ギンぽん! 姉のわたしが「闇の翼より怖い」と言われて、なぜ、すぐに否定しないの!
あなたたちといい、ネコノメちゃんといい、わたしをなんだと思っているの! ったく、もう!!
もんちくんは、
「ギンぽんを今ここに置き去りにしたら、どんな顔して、ぼくのかあさんに会えば良いんだよ。第一、親友をふたりも目の前で、見す見す殺されるような臆病者を、ぼくのかあさんが会ってくれると思うのか?」
「親友ふたり?」
「ギンぽんと黒い鳥さ。黒い鳥にだって合わせる顔がない。ああまでして、仔猫たちのために戦った黒い鳥にだって、どんな顔をして会えって言うんだよ! ぼくは、黒い鳥がいなくなったなんて、信じない! ぼくは、あいつに、うまいもの、たらふく食わせると約束したんだ!」
「……」
「何度、地上に生まれ変わることができたとしても、一番会いたい人に会えなければ、なんにもならないじゃないか。それこそ、心を無くして、闇の翼になってしまうじゃないか」
ギンぽんは、やっと、もんちくんの気持ちがわかりました。
そうです。なにも始めから、あきらめてかかることはないのです。やってみなければ、わからない。ギンぽんひとりでは到底勝ち目がなくても、もんちくんと力をあわせれば、もしかしたら、闇の翼に打ち勝つことができて、虹の橋のみんなにはもちろん、再びまた、地上の人たちにも会える日が来るかもしれない。いや、ぜったいにまた、みんなに笑顔で胸を張って会わなければならないのです。そして、あの黒い鳥にだって、たくさんおいしい料理を食べてもらわなければならないのです。
空が急に
勝利の舞を踊っていた闇の翼が、いよいよ知らずの原の真上にやって来たのです。
ギンぽんは、大きく息をしました。
「ぼくも、もんちくんも、猫の名を持つ、誇り高き者だ」
「あの
「なに、震えてんだよ、もんちくん」
「
もんちくんは、泣いているカエルを釣るべおけから出しロープを外すと、闇の翼に向って釣るべおけを投げ付けました。
闇の翼の腹に釣るべおけは見事に命中し、怒った闇の翼は、ふたりの立つ囲いの上に急降下してきます。
「来たぞ! あいつを、この知らずの原に封じ込めてやろうぜ、ギンぽん!」
「よし! 虹の橋カフェ『知らずの原支店』の店開きだ。これから、あいつの腹においしい料理をたらふく詰め込んでやろうぜ!」
「ついでに、無言の淵にもデリバリーだ!」
ギンぽんともんちくんは、急降下してくる闇の翼に向って身構えました。
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