水曜日 18:38

闇の翼versus黒い鳥

 大きな黒い鳥は、真直ぐにくらがりつばさに向かって飛んでいきます。


 闇の翼と黒い鳥の力の差は、あまりにも歴然として、比べること自体が愚かで無意味でした。


 それなのに、大きな黒い鳥は微塵みじんも恐れることなく、闇の翼に向かって行くのです。

 彼の心にともる小さな灯火だけを、唯一ただひとつのりどころとして。


 万一、街の住民のだれかがこの光景を目撃したら、大きな黒い鳥は闇の翼への恐怖のあまり、狂ってしまったとしか思わないでしょう。


 闇の翼は、この狂った黒い鳥に一瞬戸惑とまどいました。

 虹の橋で自分に刃向はむかうものがいるとは、思いもよらなかったのです。

 しかし、すぐに今夜のウォーミングアップには格好かっこう餌食えじきだと判断し、空の一点に静止して黒い鳥を待ち構えました。


 大きな黒い鳥のうちにともる小さな灯火は、それを見ると彼に告げました。

 闇の翼を、この一点から決して先に行かせてはならないと。


 大きな黒い鳥は胸の内の小さな灯火に応えるべく、待ち構える闇の翼に、果敢かたんいどんでいきました。


 そして、ふたつの黒いつばさがぶつかり合い、戦いの火蓋ひぶたは切って落とされたかに見えました。

 が、闇の翼は赤子の腕をひねるよりたやすく、またたく間に黒い鳥を空から打ちおとしてしまったのです。


 あっけない戦いの終わりに、運命の仔猫たちは、鳥かごの中から声を限りに叫びました。


 「鳥さん!」

 「鳥さん!」

 「鳥さん!」


 その声が打ち負かされた大きな黒い鳥に届くはずはないと知りながらも、3にんの運命の仔猫たちは大きな黒い鳥に向かって、声を限りに叫ばずにはいられませんでした。

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