知らずの原

 ギンぽんは、知らずの原を囲む目隠しの囲いの上から、原っぱの中に飛び下りました。

 そして、すぐさま、黒白猫の男の子のいる井戸に向かって走りました。


 井戸の周りは男の子の持つ灯火に明るく照らされていたので、高い草が生い茂っていても、原っぱの中で迷うことはありませんでした。


 ギンぽんは、黒白猫の男の子の顔を間近で見ると、心底ホッとしました。

「ああ、良かった! 黒白猫ちゃん、無事だったんだね。ぼくが来たから、もう、だいじょうぶだよ」


 でも、黒白猫の男の子は、素っ気ない口調で答えました。

「あんまり、だいじょうぶじゃないですよ。ギンおじちゃん」


 男の子の予想外の態度に、ギンぽんは面喰めんくらいました。ギンぽんは、男の子が安心のあまりに泣き出すか、自分に抱きついてくると思っていたのです。


「なに言ってるんだい、黒白猫ちゃん。ぼくが来たんだから、もう、だいじょうぶだよ。それとも、まだ、なにか怒っているのかい?」


「怒ってなんかいませんよ」

 黒白猫の男の子は、恨めしげな目でギンぽんを見上げました。


「なら、いいんだけど。ラディちゃんもほたるちゃんもファ〜ちゃんも、きみのことを、とても心配しているよ。さあ、早くこの原っぱから出て帰ろう、黒白猫ちゃん」

「お言葉ですが、ギンおじちゃん。ここからは、もう、出られませんよ。だから、だいじょうぶじゃないんです」


「えっ?出られないって?」

 ギンぽんは驚きましたが、すぐに、黒白猫の男の子はくらがりつばさを怖がって「出られない→出たくない」と言っているのだと思いました。

「ああ、そうか。闇の翼が怖いんだね、黒白猫ちゃん。でも、こんな開けっぴろげの原っぱにいる方が、よっぽど危ないよ。それに、そんな灯火みたいなものも、早く捨てなくちゃ。闇の翼がやってきたら、格好かっこうの目印になってしまうよ。だから、すぐにここから出て、せめて、屋根のあるところに行って隠れた方がいい。ぼくが付いているから、安心おし」 


「ギンおじちゃん、また、お言葉を返すようですが、ここにいれば、闇の翼ならだいじょうぶです。ここから出られないのを闇の翼は知っているから、この原っぱには降りて来ないんです。それと、これは灯火じゃなくてカギです」


「えっ? なにを言ってるんだい、黒白猫ちゃん? 闇の翼は、だいじょうぶじゃないだろ。こんな開けっぴろげの原っぱは、危険すぎるよ。ああ、よく、見たら、灯火じゃないね。変わった形だけれど、カギなんだ。どっちにしても、それは早く捨てた方がいい。灯火じゃなくても、そんなに明るく光っているのは危険すぎるよ」


「ここが、開けっぴろげだったら、どんなに良いか! 開けっぴろげじゃないから、だいじょうぶじゃないんですよ、ギンおじちゃん!」


「えっ?なに言ってるんだい、黒白猫ちゃん?」


 黒白猫の男の子の言っていることがまるでわかっていないギンぽんに、井戸のふちに座っていたカエルが肩をすくめて言いました。

「ようこそ、知らずの原に、テノール担当の銀の猫。闇と光を分かつ仔猫の言うとおり、ぼくら3にんは、闇の翼からはだいじょうぶでも、他の点に関しては、ぜんぜんだいじょうぶではありませんよ」

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