妖精猫の魔法

「すごーい! ネコノメのおにいちゃんたら、空を飛べるだけじゃなくて、魔法も使えるのね!」


 ネコノメちゃんが魔法で出した肉球カーを見ると、ラディちゃんが目を大きく見開きました。


「うん! ぼく、猫又と猫目石と猫の目草のミックスの妖精猫だからね。空も飛べるし、魔法だって使えるさ」


 ネコノメちゃんは、胸を張ります。

 でも、空を飛べたり、魔法が使えるのは、猫又と猫目石と猫の目草のミックス猫だからなのか、単に妖精猫だからなのかは、本猫ほんにんにも不明らしいのですが。


 ラディちゃんとほたるちゃんとファ〜ちゃんが肉球カーに乗り込むと、中には3にん分のランチボックスが用意してありました。


「あたしたちのお昼ごはんも、魔法で出してくれたの? わぁ、おいしそう! ありがとう、ネコノメのおにいちゃん」


 ほたるちゃんがランチボックスを開けながら、目を輝かせます。

 ネコノメちゃんは、得意気に答えました。


「腹が減っては、いくさができぬ。戦なんかしなくても良いけどさ、おなかが減っていたら、黒白猫ちゃんを探す元気も出ないものね。みんな、おいしいお弁当で腹ごしらえしてね!」



 おいしいのは当たり前です。

 だって、お弁当は、わたしが用意したのですから。

 黒白猫ちゃんが心配なあまり、ラディちゃんもほたるちゃんもファ〜ちゃんも、サンドイッチを食べ残したまま、お店を飛び出して行きました。

 わたしは、その食べかけのサンドイッチに、サラダやポテト、ささみのピカタ、それにデザートのレモングラスのゼリーをランチボックスに詰めて、お茶を入れた携帯用のマグカップも3つ、用意しておいたのです。

 ネコノメちゃんのしたことといったら、そのランチボックスと携帯マグを、お店の厨房ちゅうぼうから肉球カーに移動させただけ。

 本当に魔法を使うなら、なにもないところから、お弁当を出してもらいたいものです。

 でも、魔法修行中のネコノメちゃんのこと。

 いったいどんなものを出すか、わかったものじゃありません。

 なので、わたしは、ラディちゃんとほたるちゃんとファ〜ちゃんが「おじちゃんたち」の後を追って飛び出して行くとすぐにお弁当の用意をしておいたのです。



「ネコノメのおにいちゃん、魔法が使えるんなら、その魔法で、あたしたちのお友だちを見付けることはできないの?」


 ファ〜ちゃんが、サンドイッチを頬張ほおばりながら、無邪気にたずねました。

 ネコノメちゃんの得意げだった態度は、とたんにシューッと凹んでしまいました。


「ごめんね。ぼく、まだまだ、魔法の勉強中なの。できることより、できないことの方が多いんだ……。だから、ネコノメのおにいちゃんじゃなくて、ネコノメちゃんでいいよ」


「なら、ネコノメちゃん。勉強中なら、ネコノメちゃんも、あたしたちと同じね」


 ラディちゃんが、ネコノメちゃんをなぐさめました。

  ほたるちゃんとファ〜ちゃんも、うなずきます。


「うん。あたしたちも、知らないことやわからないことの方が、知ってることよりずっと多いよ。だから、学校でフレイア先生が、ひとつひとつ教えてくれるの」

「今度、ネコノメちゃんも学校の自習室に来て、あたしたちといっしょに勉強しようよ」

「ありがとう、みんな!」



 仔猫たちはお弁当を食べ、お茶を飲み終わると、おなかがいっぱいになってなんだか眠くなってきました。

 でも、のんびり肉球カーの中で、お昼寝をしている場合ではありません。一刻も早く、黒白猫の男の子を探さなければならないのです。


 ネコノメちゃんの運転で肉球カーが出発すると、ラディちゃんもほたるちゃんもファ〜ちゃんも眠い目をいっしょうけんめいに見開き、街の中のものを何一つ見落とさないよう、窓から外を見ていました。


「あっ、ほたるちゃん、ファ〜ちゃん、ネコノメちゃん、見て!」


 ラディちゃんが指さした建物の階段の影に、何か、うずくまっています。

 みんなの眠気もいっぺんに吹き飛びました。


「もしかしたら、白黒猫ちゃんかな?」

「確かめに行こうよ」


 ネコメノちゃんが肉球カーを道の脇に止めると、ラディちゃんとほたるちゃんとファ〜ちゃんは勢い良く飛び降り、階段の方に駆けて行きました。

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