——グータッチ——

 ジョー達三人は病院の正面入り口を避け、裏口に回る。そこには一体のモンスターが扉を守るように配置されていた。


 豚の顔に大きな体、馬のような脚。手には重そうな木槌を抱え、腹が減っているのかダラダラとよだれを垂らしていた。


「アニメでいう『オーク』って奴だね! 脚は付け替えられてそうだけど」


 ジョーがレンに教える。


「顔はのろそうな顔だが、脚は早そうだな。それにあの体格じゃ耐久力もありそうだ。ジョー、アレを一撃で倒せるか?」


 レンがジョーに尋ねる。出来れば静かに処理したいレン。


「うん。多分十秒もチャージすれば大丈夫だと思う」


「分かった。じゃ俺がスキを作るから、その間にジョーが倒してくれ。ただし建物の方には飛ばすなよ、大きな音が鳴ればドクターに俺達のことがバレる可能性がある」


 二人がオークを倒す相談をする後ろで、音も無く飛び上がるモモ。


「それとアイツの持ってる木槌に気を付け……」


 オークの持つ木槌を指差しながら説明するレン。説明の途中、空から舞い降りたモモによってグチュっと潰されるオーク。地面に落ちたトマトみたいに。


「あんた達、話が長いのよ」


 モモの元に駆けつけた、ジョーとレンに言い放つ。


「お前のGiveギヴって踏みつけた相手、潰れないんじゃなかったのか?」


 何度もメルを案山子かかし状態にするモモに、以前レンが質問し、モモのGiveギヴの説明を受けていた。


限定よ。モンスターの存在なんてGiveギヴを願った時には想像すらしてなかったもん」


 靴についたオークの血をピッと飛ばしながら答える。


「それと多分だけど、捕まってる人達も見つけたわよ」


 何かと優秀なモモ。慎重に行動していたレンが、バカらしく感じる。


「屋上か?」


 レンがモモの行動から予測する。そこなら閉じ込めるにはうってつけの場所だった。


「正解。アタシもう一回確認してくるわね」


 モモは返事も待たずに大きくしゃがみ、ジャンプする。十メートルはある三階建ての病院の屋上、モモは更に高い十五メートル程の高さまで軽々と飛び上がる。そのまま屋上に着地しようとするが、何者かの狙撃によって押し戻されるモモ。シールドに阻まれ緑色の閃光が走る。遅れて聴こえてくる、ダンッダンッと二発の発砲音。


「イッラ〜、マジムカつく!」


ジョー達の側に着地して、モモが悪態を吐く。


「どうやら狙撃手が監視しているようだな」


 レンが状況から判断する。コレで最低でも敵は三人。


「アイツは私の獲物だから」


 完全にロックオンするモモ。


「とりあえず空から見た感じ、五人くらい居たわ。でも子供が居たかどうかは分からない」


 屋上を見上げるモモ。もう一度ジャンプしても良かったが、狙撃手が屋上の人間を狙う可能性も考えてやめる。


「そうか、敵さんにも俺達の事はバレたと思った方が良いな。救出は後回しにして先に敵を排除するぞ」


 レンの考えに頷く二人。もう隠れる必要が無くなったので、ド派手に入口を蹴り飛ばすモモ。


 モモが破壊した入口から内部へ入る三人。病院特有の消毒液と薬品の匂いが鼻をつく。ホラー映画に出てきそうな雰囲気の通路、白く塗装された壁には所々血の跡が付いていた。


「あっ、僕けっこう苦手かも」


 ジョーが恐る恐る喋る。


「確かに気味悪い。けどこういう時って映画だと、真っ先にビビってる人間から殺されるのよね」


「あっ、僕全然平気」


 モモの発言に割と大きめの声で返事を返すジョー。三人は一つずつ部屋の扉を開け、中を確認しながら進む。


「ヒッ!」


 短く悲鳴をあげるジョー。手術室の中を見て驚く三人。そこには様々なモンスターの部位が無造作に並べられ、中央に置かれた手術台には、手足のないオークの姿があった。床は掃除された後が無く、積み重なって乾いたドス黒い血の色が、そこで行われた非人道的な行為を物語っていた。


 その時、突然手術室の電気がパッとつく。驚いて飛び退くジョー。モモとレンも敵の攻撃に身構える。ジジッと音が鳴りスピーカーから声が聴こえてくる。


『君が何者でココに何をしにきたのか知らないが、私の病院を勝手に歩き回らては困る。もし私に用があるのなら、正面入り口の前にある駐車場にきなさい』


 スピーカーから男の声が聴こえてくる。まるで業務連絡でもしているように、抑揚のない声で淡々と告げる。


『もし十分以内に出てこなければ、私が改造したキメラを百体、病院内に送り込む』


 ブツっと音がして放送が途切れ、手術室の電気も消えた。


「うん、速攻で出よう。一秒でも早くココを出たいよ」


 一度明るい光に目が慣れた為、より一層暗く感じる手術室。


「まぁ待て、間違いなく罠だろうよ」


 レンの意見にモモが頷き、自分の考えを付け足す。


「それに相手は、多分私一人だと思ってる。さっきの狙撃手から私のことを無線か何かで聞いたのね」


 声の主はと言っていた。それ自体が相手の罠の可能性もあったが、素直に三人で出ていく必要もない。


「狙撃手のこともあるしね。私やジョーは良いとして、広い場所に出たらレンさんは危ないわ」


 どこからくるか分からない攻撃、生身のレンが狙撃されれば、即死する可能性も高い。


「駐車場へは私とジョーで行くから、レンさんはその間に屋上に行って扉を開けて」


 的確に状況判断するモモ。最初は二人で行かせることに抵抗があったレンも、三人の目的が捕らわれた人間の救出にあると気付かれた場合、遠距離の攻撃手段がある相手に有利だと考える。


「良い判断だモモ。俺は屋上の人間を救出する、ドクターはお前達に任せるぞ」


 差し出されたレンの拳に、拳をぶつけ頷くモモ。




 


 


 


 





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