—— 旅立ち——

 出発の朝、コモリンの住む門に集合するトモダチノ国の住人達。医者探しには住人全員が期待していた。


「頑張ってね〜、お土産期待して待ってる」


 コモリンが、ツリーハウスの窓から顔を出して声をかける。真っ赤な顔でジッと見つめるメル。


「まかせてよっ! いっぱい探して来るね」

 

 ジョーが胸をドンっと叩き、返事を返す。


「ご飯はメルさんに頼んで送るから、ちゃんと食べるのよ」


 シズがモモに弁当を持たせながら言う。受け取った弁当を速攻でジョーに持たせる。


「ありがとうママ。オヤツもお願いね!」


 隣でウンウンと頷くジョー。


「兄貴っ! やっぱりオレ達も連れてって下さい」


 コウとブルがハモリながら懇願する。


「駄目だ、お前らには課題があるからな。まぁお前らって言うか、住人全員にだけど」


 国に来て一週間、新しく入ったメンバーは概ね住人から好かれていた。特に面倒見の良いレンは全員に好感を持たれている。あのメルでさえ、レンの言葉は素直に聞いていた。


「じゃ行ってきます! マンガとオモチャとついでに医者も見つけて来るから!」


 大きく左右に手を振るジョー。絶対に一人だったら目的を忘れている。


「頼むぞお前ら。俺達が帰って来るまでに、車を通れるようにしといてくれ」


 四人は手を振りながら遠ざかって行く。レンの残した言葉に固まる住人達。


 道を塞ぐ土砂は大量だ。


♦︎♦︎♦︎


 四人は一週間、北へ向け歩いていた。時折別れ道があると、アチコがGiveギヴで行き先を選ぶ。


 道中も、暇さえあればジョーとレンは組手を行っていた。戦績は六勝四十一敗と負け越していたジョーだったが、最近は直ぐ負けることが減り、五回に一回は勝てるようになっていた。


「師匠ってなんでそんなに強いの?」


 四十二回目の敗北にジョーが質問する。


「まぁ体格と経験の差だな。俺はガキの頃から良く絡まれて、喧嘩は日常茶飯だったからな」


 倒れるジョーの手を掴んで起き上がらせる。昼食の後の軽い組手だった。


「メルさんのGiveギヴって本当に便利ですね」


 食後のプリンを食べながらアチコがモモに言う。


「根性はひん曲がってるけどね」


 四人の食事はいつも、モモの顔目掛けて飛んできていた。毎回シールドが発動しているので、未だに悪意を持って投げていることが分かる。


「それより今日の近況報告にも書いてあるわ『帰りはゆっくりでお願いします! 』だって」


 手紙を読んでアチコに渡す。それは双子の字で書かれていた。


「土砂の撤去が上手くいってないようですね」


 それから更に四日、北に歩く。時折現れる魔物は全てジョーが退治していた。


「コレも訓練だ」


 例え寝ていようとも叩き起こされ、魔物の処理にあたるジョー。


 時折人間とも出会った。ほとんどがクラッパーと呼ばれる使えないGiveギヴ持ちで、ジョー達を見ると逃げるか襲ってくるかのどちらかだった。逃げ出した人間はモモが捕まえ、話を聞く。医者についての情報と、トモダチノ国の情報を交換し、もしそこに住みたいのなら、この道で待つよう話す。


「帰りに通るから、住みたいなら待ってて」


 襲ってきた人間も同様に、ジョーが返り討ちにした後、情報の交換をする。


「今の人も言ってたね『ドクターに会いに行くのはやめとけ』って」


 ジョーが倒した相手からの情報をみんなに伝える。最近は、会う人全員が同じことを言っていた。どうやらあまり良い人間ではなさそうだ。


「あってから判断しましょ」


 モモがあっけらかんと返事を返す。


 それから更に一日歩き、ボサボサにのびた垣根かきねに囲まれた古い一軒家を見つける。敷地内に入り、空き家であることを確認し、その庭先にレンが手早くテントを二つ立てた。いつのまにか消えたジョーに怒り感じつつ夕食の準備を進めるモモ。


「ねぇみんな! 女の子拾ったよ!」


 ジョーが小さな少女を抱え戻ってくる。少女を下ろし、三人に見せる。女の子はビクビクと震え怯えていた。アチコがサッと側に近付き言葉をかける。


「大丈夫、なにもしないから安心して」


 少女の手を握り、優しく微笑みかける。この時代、言葉に効力がないことを知っていたが、それしか今は方法がなかった。


「アンタね、勝手に連れて来たらダメでしょ。親が探してたらどうすんのよ」


 モモがジョーの頭をゲンコツで叩き、叱る。


「いったいな! それは無いって一人で泣いてたもん」


 頭を摩り、涙目で反論するジョー。確かに少女の目は赤く腫れていた。それから十分、アチコが辛抱強く話しかける。丁度その日の夕食が届き、少女の目の前には豪華な食事が並んだ。


「一緒に食べましょう」


 タイミング良く、その日はジョーの好物ばかりが届けられていた。ハンバーグや唐揚げに喉を鳴らす少女。最後に開かれたカレーの匂いに、お腹の音が響く。恥ずかしそうに頷き、返事を返す。


「……食べたい」


 アチコは少女の声に喜び、セッセと自らの分をお皿に取り分ける。


「さぁ、食べて」


 そのお皿にジョーが唐揚げを乗せる。レンはハンバーグ、モモはカレーの半分を乗せ、一番豪華な夕食が少女の前に置かれた。


「ありがとう! お姉ちゃんも一緒に食べよ」


 アチコの膝の上に座り、少女が言う。


 アチコは嬉しそうに、食事をする少女の頭を撫でていた。


 

 


 

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