——赤い友達——

 姉弟は変わり果てた町へと立っていた。


「ジョー、分かってると思うけど壊れそうな建物には近付かないで」


 今にも崩れ落ちそうな建物を見やり、弟へ注意を促す。建っているのが不思議な家屋や雑居ビル、至る所から植物が芽吹き、建物を支えるように共存していた。


「あっ、スライム発見!」


 モモの忠告を無視してスライムへ駆け寄るジョー。頭にはマンガのようにタンコブが連なっていた。


 まぁ目的地に着く頃には綺麗さっぱり消えているだろう。よろしくファンタジー。


「そう、タンコブの高さが足りてないようね」


 スライムと戯れるジョーへと詰め寄る。咄嗟にスライムで頭をガードする。スライムは割れた水風船のように、弾けて割れた。


「ああああっ!! 何てことするんだよっ! 友達だったのに……、親友だったのにっ!!」


手のひらに残る青い液体を眺め、涙を浮かべるジョー。


「はいはい。あんた十四歳になるんだから、いつまもでモンスターで遊ばないの」


 むんずと首根っこを掴み、ジョーを立たせる。ヨシヨシと優しく頭を撫でるモモ。補足すると愛情をもって撫でているのでは無く、悪意をもってタンコブをこねくり回している。


 目的地のホームセンターに着いた二人。奥行きの広い店内に灯りは無く、薄暗かった。


「ジョーはクギとかネジ探しといで、あたしはママに頼まれてた洗剤とかシャンプー取ってくるから」


 モモは生活用品のコーナーへ消えて行く。ジョーは買い物用に置いてある台車に乗り、颯爽と建築資材コーナーへ向かう。


「こんにちはっ!」


 ジョーは先客の男に挨拶する。歳の頃は二十代前半、百九十センチの長身に、細く締まった身体付き。頭には白いタオルを巻き付け、赤く染まった髪の毛がチラチラと見えている。


「おうっ! 元気で良い挨拶だ。こんにちは少年。俺の名前はレン、こう見えて大工でな、分からんことは何でも聞いてくれ」

 

 ニカっと笑い返事を返すレン。右手を差し出し、握手を求めてくる。


「カッコイイだなんてそんな。僕の名前はジョー、よろしくレン!」


 2人は薄暗い店内で握手を交わす。ジョーはレンの出立ちを確認する。真っ白いTシャツに作業用ジーンズ、靴は作業員が使う安全靴でつま先に金属が付いていた。腰には金槌かなづち脇差鑿わきざしのみ、カッターナイフや、折り畳み式のこぎりがあった。見るからに大工。


 警戒心の全くないジョーは、ズカズカとレンの懐へ入り込む。十四歳にはあまり縁の無い工具類に目を輝かせ、ドンドンとレンに質問する。世話好きなレンはそんな状況を楽しみ、質問に答えていく。二人は直ぐに仲良くなり、会話しながら目的の資材を買い物かごへと入れる。ジョーは途中見つけたリュックサックへ荷物を詰め、背中へからった。


「おっも! 今日はこれ位で良いや」


 お使いの品物以外も詰め込んだジョー。リュックサックからは、木製バットの持ち手がはみ出ていた。丁度その時モモの呼ぶ声が聞こえる。


「あっ、モモねぇが呼んでる。しまったモモねぇへの悪戯グッズ探してないや……」


 全くこりないジョー。モモへ紹介したいからと言われ、着いていくレン。


「モモねぇって僕の友達直ぐ潰しちゃうから、気を付けて!」


 謎のアドバイスをされ、弟の友達を潰す姉ってどんな姉なんだといぶかしむ。正面の大きな入り口にモモは立っていた。両手に袋を抱え、足元にも大きな袋があった。モモはジョーの隣を歩くレンを見やり、品定めするように上から下まで視線を走らせる。かなり戦闘力は高そうに見える。想像力は見た目で判断しにくいが、高そうには見えない。まぁいざとなれば蹴り飛ばすだけと考え、挨拶することにするモモ。


「初めまして、ジョーの姉のモモです。弟がお世話になりました」


 頭を下げてお礼を言うモモ。姉弟揃って挨拶がしっかりと出来る。そしてこんなご時世に姉弟揃って警戒心が薄いなと感じるレン。


「俺の名前はレン。世話をしたつもりはないから気にしないでくれ、俺も久しぶりに人としゃべって楽しかったよ」


 右手を差し出し挨拶を返す。


「随分と大荷物だな、重くないのか?」


 大きく膨らんだ三つの袋を見て、レンがモモに尋ねる。


「全然大丈夫です、元々……」


 言葉を切り、ジョーを見るモモ。リュックを背負い、両手が空いている状況を確認する。


「二つはジョーが持ちますので」


 他所行き用の笑顔で返事するモモ。


「ちょっとモモねぇ! 僕のリュックサックすっごい重たいんだよ! ちょうど鍛えようと思ってたから凄く嬉しい、ありがとう!」


 モモの表情を見て、百八十度方向転換するジョーのセリフ。別れの挨拶をしようとした瞬間、ホームセンターの駐車場から下品なバイクの大音量が響く。三人は並んで店の外に出た。


「うるせえな、ったく」


 ホームセンターの駐車場に、ポツポツと乗り捨てられた車のガラスを、手に持ったバールで割りながら蛇行運転を繰り返す二台のバイク。排気音を使ったコール音は、静まり返った町によく響いた。


「おお、暴走族だ! 久しぶりに見たね、モモねぇ」


 ジョーは目をキラキラさせながら見ている。


「バッカみたい、あれじゃモンスターが寄ってくるじゃない」


 呆れた表情のモモ。三人は二台のバイクに跨る少年を無視し、会話を続けていた。だがあまりにもバイクの騒音がうるさく、声は聞き取りにくい。モモが我慢出来ずにイライラし始めると、ジョーは自らの存在感を薄くし、影のように景色に溶け込む。


「コウ! 店の方見てみろよ、今日の獲物がいるぜ!」


 青いリーゼントの少年が、黄色いリーゼントの少年に、店の方を見るよう促す。


「おうっ! いるいる。今日はあいつらで遊ぶかブル!」


 二台のバイクはクネクネと蛇行しながら、三人の所へやってくる。


「ヒャッハー! そこの赤い兄ちゃん! 俺らとちょっと遊ぼうぜっ!」


 コウとブルはバイクから降り、左右対称に同じポーズでレンを指差す。


「ヒャッハーってアニメ以外で初めて聞いた! モモねぇ、凄いよあの二人!」


 何が凄いのか、ジョーは感激して喜んでいる。


「しょうもな、レンさんご指名みたいですけど手伝いましょうか?」


 荷物を下ろし、車止めに腰を下ろすモモ。


「あぁ、問題無い。売られたケンカは喜んで買うタイプなんでね」


 レンは手に持った荷物をジョーに手渡す。


「手伝うよ。相手も二人だし、僕、結構強いよ」


 ジョーは荷物を受け取り、提案する。


「そうだな、ジョーは良い能力持ってそうだな。だが問題ない、俺が負けたら姉ちゃんと一緒に戦いな」


 そう言うと、ゴキゴキと首を鳴らし二人の元へと歩いて行く。


「大丈夫かなレンさん。相手がどんなGiveギヴか分からないのに……」


 見た目で強さがわかり難い時代。会ったばかりのレンを心配するモモ。


「大丈夫だよモモねぇ。握手した時に分かったんだ、レンは強いよ」


 キメ顔で返事するジョー。


「あんたそれ言いたいだけでしょ」


 やれやれと呆れるモモ。







 







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