樫木くんは周りがそうさせた~俺以外周りが裏では超有名人なんだが~

火田タカヒロ

プロローグ

屋上の女神


 昼休み、学校の屋上で仰向けで寝転そべりながら、俺、樫木准弥は異世界転生モノのライトノベルを読んでいた。


 このライトノベルはウェブ小説サイトで火がつき、最近小説化された今一番注目されている小説だった。


「ふう、読み終わった。2巻が待ち遠しいな」

 俺は読んだラノベを顔に被せ、一眠りつこうとしていた。


「なーに読んでるの?」

 突然の女性の声にビクっと反応した。

 恐る恐る顔に被せていたラノベをずらした。


 太陽の光を背に神々しい、黒髪の長い綺麗な女性だった。緑色の制服のリボン、この学校では二年生のカラーだ。


「せ、生徒会長?」

 最近、生徒会選挙で圧倒的支持を集め、次期生徒会長に決まっている水嶋光の姿だった。


「えーと、あのライトノベルです」

 俺は目をそらしながら言った。

「ライトノベルか~。なんてタイトル?」

 言い辛そうに光にこう答えた。


「えっとパ、パンツ」

「パンツ?」

「いえ、そうじゃなくて、み、見えてます」

 横を向き顔を赤らめて答える。


「きゃっ」

 寝そうべっている状態の俺に見下げる形で話している光の姿は俺にはほぼパンツに光の顔が少し見える視界しかなかった。


 顔を赤らめた光はよろけて、俺の腹を踏みつけてしまう。


「ぐぉ」

 さっき食べたメロンパンとコーヒー牛乳が出てきそうだ。


「あっごめんなさい、ごめんなさい」

 光は顔を赤らめてながら、土下座を繰り返す。


「うっ大丈夫です。水嶋先輩って案外おっちょこちょいなんですね」

「いやっ良く言われるわ、副会長に」


 見た目はしっかりしていて、周りの生徒からも人気が高く雲の上の存在のような先輩の普段見たことのない貴重な姿を見たのかもしれない。


 先輩にラノベの表紙を見せた。

「風の勇者と囚われの魔女を読んでました。水嶋先輩はこういうの読まないですよね?」

 意外な答えが返ってきた。

「それ知ってるわ。最近出たやつよね」

「ラノベも読んだりするんですね」

「沢山読んでるってわけじゃないけども。あっそうだ、お名前聞いて無かったわね」

「1年C組の樫木准弥です」

「かしきじゅんやくん。樫木くんってライトノベル書いてたりしないの?」

「いや俺はそんなセンスないので、読んだラノベの感想を投稿するぐらいです」

「それじゃこの作品にも?」

「ええ、左ライト先生の作品は一番最初の作品からずっと読んでます。俺の大好きな作家さんなんです」

 なんだか嬉しげに光は質問をする。

「んじゃ好きなキャラクターは?」

「そうですね。囚われの魔女ステラですかね。何か自分立場に悩んでいるのか、色々最強の魔女ステラには抱えてるものが多いのか、勇者じゃないですけど助けたいと思えるというか」

「私がモデルなんだよね・・・」

 光は聞き取れない声でボソッとつぶやく。


「やっぱり私は勇者アデスかな。ステラが突然召喚したのに、ステラを身をもって助けに行くでしょ。私も色々助けられてる人がいてね。ちょっと被っちゃて」


「先輩も助けられることあるんですね」

「そりゃあるわよ。私だって悩みの一つや二つ。だから私にとって勇者なのよその人は」


 暫く話していると、屋上のドアが開いた。


「こんなところにいたんですか、もう午後のチャイムなりますよ。一体何してたんですか?」


 副会長の立花すみれの姿だった。

 一見気難しい人に思えるが、生徒会のことをキッチリこなし、すみれのファンも女性中心ではあるが、光ぐらい多い。


「え、その巡回よ、スカウトも兼ねての」

「スカウト?」

 スカウトの意味がわからないまま、先輩はすみれ先輩の元に向かう。


 俺はすみれ先輩に軽く会釈をした。


「その本は」

 すみれ先輩は俺の持ってる本を見つめて答える。

「と、とにかく、会長行きますよ。君ももうすぐ授業始まるわよ」

「あ、はい」

「樫木くんそれじゃまた近いうちに」


 午後の授業が始まり、窓側の一番後ろの席に座って考え事をしていた。


 会長のラノベの反応といい、副会長の反応といい、かなり好きなのかな?とぼんやり考えていた。


 そうしているうちにいつの間にか授業が終わり、学校のチャイムが鳴った。


「さて帰るか。そういや風魔風の勇者と囚われの魔女が更新されてたな。読まないと」


「おい!准弥!帰ろうぜ!というか帰りバーガークイーン寄らね?」

 ちょっとチャラそうな生徒が俺の元にやってきた。


 千渡進の姿だった。進は俺の友達の一人で何かと俺を気にかけて声をかける幼馴染だ。

 俺は一人行動が好きではあるが、それとは裏腹に交遊関係はかなり広いのである。


「まあ、いいけど」


 そんなやり取りをしていると、校内放送が流れる。


「1年C組の樫木准弥くん、至急生徒会室に来て下さい」


 昼にあったばかりの立花すみれ副会長の声だ。

「え?。俺?」

「准弥、何かやらかしたのか?」

「さっき会ったけど、別に特に逆鱗に触れることはしてない、と思うけど。とりあえずごめん、行ってくる。また電話する」

「わかった。本屋で時間潰しとくわ」


俺は進と一旦別れ、生徒会室に向かった。
































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る