第51話 はじめようか
「
そこで言葉を切ったメリアが、目の前にあるマイクから唇を遠ざける。
お立ち台の前に広がる光景に目を向けて、彼女が小さく微笑んだ。
「「「おぉぉぉ!!!!」」」
300人を越える人々が、剣を振り上げたり、拳を振り上げて吠えてみたり。
右半分が、綺麗に並んだ騎士の列。
左半分は、思い思いに場所を確保する冒険者の集団だ。
そんな人々を見下ろして、メリアがもう一度微笑みかける。
「冒険者や騎士の垣根にとらわれず。互いに補って、この大討伐任務を成功に導いて頂けると、
「「「おおおおお!!!!」」」
たぶんだけど、メリアが何を言っても、歓声が湧くのだろう。
そんな盛りあがりだった。
--第4王女が自ら指揮を取り、西の森の異常に対処する決起集会。
第4王女が自ら、って部分ですでに異常なのに、冒険者と騎士を混合させるのはもっと異常だ
だけど、少しでも活躍すれば王女様の覚えが良くなるのだから、集まった人間にとって、そんな異常はどうでもいいらしい。
「てめぇら! 冒険者の意地ってヤツを見せてやれ!!」
「「「おおおおおおお!!!!!!」」」
「騎士団にいまいちど命名を下す! 任務の成功をメリア王女殿下に捧げよ! 良いな!」
「「「はっ!」」」
王女の隣に並んだ ボンさんと女騎士のローラさんの掛け声にあわせて、会場全体が震える。
作戦を前に盛り上がるのはいいんだけど、2人とも、メリア王女様の話し聞いてたか?
助け合う気、ゼロじゃね?
まぁ、それはいいんだけど……。
「なぁ、おい。あれて“占い師”だよな?」
「隣にいるのは、あいつの奴隷だろ? なんで、あいつらが王女と並んでんだよ?」
「俺が知るわけねぇだろ」
「雑魚が、なんであんな場所に!!」
冒険者の方から、俺に対する不満が、これでもか、ってほど聞こえてくる。
野外に急遽作られた壇上にいるのは、
王女であるメリアと、
騎士の代表になったローラさん、
冒険者ギルドのトップであるボンさん、
王女の側近であるメイドのアンナさん。
そんな中に、何故か俺とリリが混じっていた。
「あいつ、王女様と知り合いなのか!?」
「冒険者にもなれなくて、死んだんじゃなかったのか! なんで、あの中に!!」
わかってる。
場違いなのは、俺が一番分かってる。
だから、殺気を向けるのは止めてくれないか?
「どうしてあんなヤツが、許せねぇ!!」
許してくれとは言わないから、殺気はやめてほしい。
そんな事を思っていると、何故か赤いポニーテールが近付いてきた。
(デトワール。おまえ、何かやったのか? 冒険者が殺気立ってるように見えるが?)
(そう思うのなら、ローラさんも自重してください)
(?? 私がどうかしたのか?)
(いえ、なんでも……)
はぁ……、と溜め息を吐き出したくなる気持ちを必死に押さえて、前を見る。
「あいつ、あの美人な女騎士に耳打ちされてるだと!?」
「殺すしかないな。“占い師”!!」
まぁ、そうなるわな……。
(ご主人様、私はずっとご主人様の見方ですから)
(うん……。ありがとう)
「あの野郎! あんな可愛い子を奴隷に!!」
「殺す! 切り捨ててから、殺してやる!!」
リリさんも、今は目立たないでください。
お願いします。
これで彩葉まで隣にいたら、もっとやばかったんだろうな……。
と言うか、断り切れなかった俺が間抜けすぎるのか……。
「作戦の開始は、2時間後。各自の戦果を期待致しますわ!」
「「「おおおおお!!!!」」」
そんなこんなで、何とか収まったらしい。
どうしてこうなったのか……。
すべては、メリアを占った結果が悪かった。
【○○森○2つ組織○手を取○○、あなた○幸○な道○開か○○。4○の未来○○○指揮○と成れ(60%)】
そのまま分解すると、
-----------
森 2つの組織 手を取れ。
幸せな道 開く。
4の未来。
指揮者と成れ。
-----------
4つの未来に関しては、サッパリわからないが、他は何となくわかる。
西の森、って言う確証はないけど、他に考えられない。
2つの組織--冒険者と騎士が手を組め、とまであるしな。
その結果が、王女が指揮者になる大討伐作戦だった。
ちなみにアンナさんの占い結果は、主の背中を押せ。
ローラさんは、主から離れろ。
そんな内容だった。
「作戦開始の時間ですわね。ローラは手はずの通りにお願いします」
「……メリア様。やはり、私は--」
「従ってください。
「……はい」
しぶしぶと言った様子で、ローラさんが立ち上がり、騎士たちの方に目を向ける。
それから、大きく息を吸い込んで、俺たちの方に目を向けた。
「デトワール、リリ。それに彩葉だったな? メリア様を頼む」
「もちろんです。任せてください」
「アンナもな」
「もちろんよ。命に代えても」
互いに頷きあって、ローラさんが背を向ける。
「俺も行って来るぜ。お前等の仕事は、王女の安全が最優先だ。成果を狙って森に入ろうなんて思うんじゃねぇぞ? わかってるな?」
「もちろんですよ。俺たちが受けた仕事は、護衛ですから」
「それが理解出来るヤツらが少なくてな。苦労してんだ。おまえさんなら心配してねぇがな」
ボンさんもそう言い残して、冒険者が集まっている場所へと向かっていく。
「騎士団! 進行を開始する!」
「仕事を始めんぞ! 気合いを入れろ!」
そうして、俺の“占い師”のスキルが繋いだ作戦が、慌ただしく始まった。
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