第37話 部下をお風呂に
抵抗の意志を感じない彩葉と、オロオロするリリ。
そんな2人を眺めていると、腹の中あったモヤモヤが、いつの間にか消え去っていた。
「疑って悪かった。埋め合わせはするよ」
「……? 占い、終わったの?」
「いや、俺の占いは特殊らしくてな。特定のことは占えないんだ」
二択から片方を選ぶような占いが出来たら、話は簡単だったんだけどな。
出来ないんだから、しょうがない。
緑色の目を不思議そうに開いた彩葉が、パチパチとまばたきを繰り返す。
「……つまり、騙した?」
「端的について言えばな」
ホッとした、と言うよりは驚いた感じか?
ぷくー、と頬を膨らませた彩葉が、わざとらしく唇を尖らせる。
「それでー? 本当に信じてくれたの?」
「あぁ、信じた。と言うよりは、確認の意味の方が強かったけどな」
「んー……。まぁ、ギルマスだもんねー。しょーがないかー」
うんうん、と頷いた彩葉が、クルリと身を翻す。
そして何故か、リリに抱き付いた。
「えっ!? あの、彩葉さん!?」
「リリさーん。お兄さんがいじめたぁー」
およよよ、なんて口で言いながら、リリの胸に顔をうずめていく。
雰囲気こそ冗談っぽいけど、彩葉の手が小刻みに震えているな……。
それがわかっているからか、リリも突き放したり出来ないようだ。
「ご主人様も悪気があった訳じゃなくて、えっと……」
「悪気はなくても、いじめたもん! いじめだもん、いじめだもん!!」
駄々を捏ねる幼児かよ!
そう言いたくなるけど、どうにも心がざわついて仕方がない。
「悪かったって……。後で詳しい話をしてやるから。リリと先に風呂でも行ってこい」
「!? いいの!? 仕事してないのに!?」
「報酬の先払いだ。石鹸もガシガシ使っていいぞ」
宿の石鹸だからな。
支払いは、ボンさんだ。
「リリ、任せていいか?」
「はい! お任せください!」
楽しそうに微笑んだリリが、彩葉の頭をポンポンと撫でて、震える手をガッチリと掴む。
2人でお風呂場へと消えていき、
「覗いたら1万ルネンだからねー」
ドアから顔だけを出した彩葉が、楽しそうな声を響かせていた。
そんな女性陣を見送って、ベッドに腰掛ける。
「おぉー、リリさん、いい形してるー」
「わわっ、やめてくださいよー。そういう彩葉さんのは、大きいじゃないですか。うらやましいです」
「えー、肩こるだけだよ。面倒な視線も多いしさー」
透明な玉を両手で握って、魔力だけに意識を向ける。
「ひゃん!? 彩葉さん! 触っちゃダメですから!」
「リリちゃん、感度いいねー。やっぱり、お兄さんと?」
「しっ、してませんよ!」
……集中、集中。
そういえば、彩葉のやつ、着替えとかどうするんだろうな?
「お兄さん、その辺 奥手そうだもんねー」
「……あはは」
彩葉の着替えに関しては、リリに任せておけば大丈夫か。
俺が何をしても、セクハラだもんな。
集中、集中……。
俺は、何も、聞いてない。
「はー、お風呂気持ちいいにゃー」
「ですねー……」
そうして、なぜか流れにくい魔力と、その後もずっと戦い続けた。
「ご主人様、お風呂ありがとうございました」
「やっぱり、お湯に浸かるのはいいですにゃぁ」
ホカホカと肌から湯気を立たせた2人が、風呂から戻ってくる。
「あっ、ごめんだけど、美人と美少女が浸かったお湯は流しちゃったから。残念でしたー」
いや、なにがだよ!?
なんて思うけど、どうやらお風呂で気分転換してくれたらしい。
彩葉もリリも、楽しそうに笑い合っていた。
それは俺の狙い通りでもあったから、いいんだけど、
「なぁ、彩葉……。その服……」
肩は丸出しで、胸の谷間がうっすらと見えてしまっている。
綺麗なお腹は、隠す気もなさそうだ。
いろいろ見えそうと言うか
、見えてると言うか。
「……えっち」
頬を赤らめた彩葉が、両手で胸を隠して、身をよじらせる。
いや、俺が悪いのか?
そうは思うけど、仕方ない。
溜め息混じりに後ろを向くと、楽しそうな彩葉の笑い声が聞こえていた。
「うそうそ。見られても気にしない、って言ったらあれだけど、お兄さんならいいよ」
「……変態なのか?」
「な訳ないでしょ。リリさんの服を貰ったの。けど、大きさがねー」
「あー……、なるほど」
切り目を入れたりして、調整したのか。
リリは155cm、彩葉は165cmくらいだもんな。
「小さくないです……。彩葉さんが、大きいだけです……。私は、ふつう、普通なんですから……」
「身長よ? 身長の話だからね?」
「わかってるよ……」
ふてくされた顔のリリが、彩葉の胸を凝視してるけどな。
明らかに自分の胸と見比べてるけどな。
身長な、身長……。
「普通です、普通……」
どうにもリリが可哀想に見えるけど、リリも別にないわけじゃない。
でもまぁ、そうなるわな、ってくらい差があるからな。
「ってことで。
まぁ、肌色が多すぎるからな……。
というか、
「改造? 彩葉が?」
まじまじとは見れないけど、お風呂場で簡単に手直しした、って雰囲気には見えない。
「あー、うん。まぁ、スキルも使ったからね。そうは見えないかもだけど、一応ね」
それまでの楽しそうな雰囲気を一転させて、彩葉が顔をうつむかせる。
「“占い師”と“重歩兵”だって、聞いたから言うんだけど。私、金属が持てない“鍛冶師”なんだよね」
そう言った彩葉は、何かをあきらめた寂しそうな微笑みを浮かべていた。
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