第19話 籠を誉められた!

 おっと、森に入る前にやることがあったな。


「ちょっとだけ、周囲の警戒をお願い出来るか?」


「?? もちろんです。ご主人様は何を?」


「籠を作ろうかと思って」


「かご??」


 森の入口に生えていた木のツルを手で引きちぎって、しなやかな枝と組み合わせる。


 底の方から織り込んで、上の方に立ち上げて……。


 うん。


 サイズ的には、このくらいだな。


 あとは、持ちやすいように、堅い枝で背中に当たる部分を垂直にして……。


「ほへぇ~……。昨日も思いましたけど、ご主人様って、本当に器用ですね」


「まぁ、田舎じゃ貴重な収入源だったからな。嫌でも慣れたよ」


 本当は幼い子供や力のない女たちの手仕事なのだが、筋力や体力のせいで、俺もその一員だっただけだ。


 100個作っても、住民税として取られるだけで、パンにもならない。


 でもまぁ、その経験がこうして役立つのなら、無駄じゃなかったんだろうな。


「んん~??」


 そうしていると、リリの猫耳がピクンと動いて、彼女がハッと振り向いた。


 視線の先に見えたのは、道に出てきた1匹のスライムの姿。


「ご主人様。ちょっと、行ってきますね」


「あぁ、任せたよ」


「はい!」


 ギュッと手を握ったリリが、手頃な枝を拾って駆けていく。


 スライムは、リリを迎え撃つ構えのようだ。


「わわっ!!」


 突然飛びかかって来たスライムに驚いたリリが、思わずと言った様子で足を止めた。


「こっ、こないで!!」


 目を閉じた彼女が、闇雲に木の枝を振るう。


 目の前に迫っていたスライムに木の枝が当たり、上手く弾き返していた。


「!!!!」


 ハッと目を開いたリリが、地面に落ちたスライム目掛けて、木の枝を振り下ろす。


 ムギュゥ、と音がして、スライムがペロリと地面の上に広がった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。やっ、やりました!」


 肩で大きく息をしたリリが、スライムを持ち上げて振り返る。


「ご主人様! やりましたよ~!」


 宝物のように伸びたスライムを抱えた彼女が、大きく手を振っていた。


 スライムはその1匹だけだったらしく、茂みに不自然な動きはない。


「お疲れさま。早くも1匹だな」


「はい! これもご主人様のおかげです!」


 相変わらず、何が俺のおかげなのかわからないが、水を差すのも大人気ないよな。


 彼女の猫耳を優しく撫でたあとで、作っていた籠を手元に引き寄せた。


「成果物は、この中に」


「わかりました」


 彼女の手から離れたスライムが、籠の中に落ちて、ずっしりと重くなる。


「ちょっとだけ後ろを向いてみてくれるか?」


「?? わかりました」


 素直に振り向いてくれた彼女の背中に目を向ける。


 背中に対して、籠の大きさはちょうどいいくらい。


 なんだけど、


「ごめんね。尻尾って、下げれたりする?」


 ピンと張った尻尾が目の前にあって、籠を当てられそうになかった。


 もふもふなのは、目の保養なんだけど、正直、今は邪魔です……。


「ごめんなさい。はしたない真似を」


「いやいや、気にしてないから」


 何がはしたないのかは知らないが、取りあえず気にしないのが正解だと思う。


 下りていった尻尾を横目に見ながら、彼女の背中に籠を押し当てる。


「そこの輪の中に手を通してくれる?」


「ぇ……? あの、えっと……。私が持つと--」


「いいから、いいから。壊れてもすぐに直せるし、もっと頑丈なのを作るから」


 何本も木の枝を壊してるけど、普通に持ち運びは出来ているからな。


 籠を背負うくらい大丈夫だと思うし、出来るだけ仕事を与えて、自信を付けさせてあげたいとも思う。


 そして何よりも、


「それを持ってると、木に登れないから」


 彼女に持ってもらった方が、効率がいい。


「まぁ、なんていうか。お金の確保が優先、ってことで」 


 稼ぎを増やして、肉を食いたい!


 昨日の肉、マジで美味かったし!!


「……わかりました。頑張ってみます!」


 不安そうな顔を覗かせながらも、彼女はしっかりと頷いてくれた。


 腕にヒモを通して、肩や背中に当たる部分を葉っぱで補強する。


「動きやすいように、前も固定するね」


「はっ、はい……」


 鎖骨とおなか、おへその下の三カ所に、肩紐と繋ぐツルを通して、きっちりと縛り付ける。


「うん、これで大丈夫かな。……ん? どうかした? 顔が赤く見えるけど?」


「いっ、いえ、大丈夫です」


「そう?」


 一通りの作業が終わり、屈伸やジャンプ、木の枝を振るなど、一通りの動作を試して貰った。


 籠の底を尻尾で支えるのは想定外だったけど、変な揺れもなく安定しているように見える。


「やっぱり、ご主人様はすごいです! どこも壊れてません!」


「スライム狩り、出来そうか?」


「はい。この籠が一杯になるように頑張ります!」


「よろしくな」


 気合いを入れるリリの猫耳を撫でてから、森の中に入っていく。



 枝が多い木に当たりを付けて、日が当たる方へと上っていった。


「おっ、さっそく1個」


 買取価格が高かった“魔力の薬草”を引き抜いて、持ってきた透明な袋に入れる。


 隣の木に移って周囲を見渡して、枝を伝ってゆっくりと進んでいく。


「やりました。2匹目です」


 下にいるリリも獲物を見つけたらしく、嬉しそうに手を振っていた。


 リリの様子を見ながら薬草を探して、袋に放り込む。


 息があがる度に、太い枝と幹に体を預けて周囲を見渡しながら休憩をする。


「リリ。右奥の茂みに1匹。反対側の木の影にも1匹いる」


「!! わかりました。ありがとうございます!」


 木の枝を握り締めて、茂みの後ろに回り込むリリの姿が、どうにも頼もしい。


 飛び出して来た1匹を叩き潰して、折れた枝を新しい物に代え、木の影にいた1匹も叩き潰す。


「俺もギルマスの意地を見せないとな」


 背負った籠にスライムを投げ入れるリリを見ながら、大きく息をして、気合いを入れ直した。

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