第7話 巨大な暗黒の渦

暗闇が渦巻く。意識が霧の中を彷徨う。


冷たい風が頬をなでる。目を開けると、見知らぬ公園。どこだ、ここは?記憶が欠落している。

ゴミ箱から拾った弁当の匂いが鼻をつく。腹は鳴るが、胸に広がる不安はそれ以上に大きい。

「ここは昔の北海道だよ」

老人の声が耳に響く。北海道?いつの間に?


星空が歪む。火の玉が水面から昇る。

「戦いは我々の勝利だ」

誰かの声。バオバオ?ホー?レン?名前だけが浮かぶ。顔が思い出せない。

勝利?何に対する?


「こんにちは、これあげる」

不思議な人影。オレンジ色の目。金属音の声。

古びた黄色いバッグ。中には小さなスマホのようなもの。30個?

意味がわからない。頭が混乱する。


「本州が沈んだ」

老人の言葉が現実味を帯びていく。

核戦争。第三次世界大戦。宇宙からの侵略者。

これが現実なのか?それとも悪夢か?


幻覚か現実か。

7頭の巨大なスフィンクス。円を描いて座る。翼がある。

太陽が昇り、スフィンクスが走り出す。

光の竜巻。巨大な光の柱。

意味不明な光景が脳裏に焼き付く。


記憶の欠片が乱舞する。現実と幻想の境界が曖昧になる。

私は誰だ?ここはどこだ?

公園のベンチに座り、古い黄色いバッグを抱きしめる。隣には見知らぬ老人。

「若いの、お前さんもここに流れ着いたのか?」

流れ着いた?どこから?

「ええ、気がついたらここにいて...」

言葉が途切れる。何も思い出せない。

「ここってどこなんですか?」

愚問だと分かっていた。でも聞かずにはいられなかった。

老人の表情が歪む。「なに、知らないのか?ここは昔の北海道だよ」

北海道?いつの間に北海道まで来たんだ?

「本州が沈んでからね、ここが日本の最後の砦になったんだ」

頭の中で警報が鳴り響く。本州が沈んだ?冗談だろう?

「本州が...沈んだ?」

声が震える。現実を受け入れられない。

老人の目が悲しみに曇る。「そうさ。第三次世界大戦の後でな。核戦争で本州は海に沈み、残った我々は北海道に逃げてきたんだ」

核戦争?第三次世界大戦?頭が痛くなる。

記憶の中で、水面から昇る火の玉が蘇る。あれは...核爆発だったのか?

「だが、それも束の間の平和だった」

老人の言葉が続く。私の混乱した思考に追い打ちをかける。

「宇宙からの侵略者が来てね。今じゃあ奴らが世界を支配している。我々人類は、彼らの奴隷同然さ」

宇宙からの侵略者。その言葉に、別の記憶が呼び覚まされる。

戦い。勝利。逃げていく敵。

「でも、先日宇宙からの侵略者と戦って勝ったはずでは...」

言葉が口をついて出る。しかし、それが本当に自分の記憶なのか、確信が持てない。

老人は首を振る。「若いの、それは幻想だ。たまに起こる抵抗運動のことだろう。だが、本当の勝利なんてない。この世界はもう、ディストピアなんだよ」

ディストピア。その言葉が重くのしかかる。

黄色いバッグを強く抱きしめる。中に入っているスマホのようなもの。それが何なのか、どこから来たのか、分からない。

でも、何か重要なものだという直感がある。

「でも、希望はあるはずです」

自分の声が遠くから聞こえてくる。

老人が微笑む。「そうだな。希望を捨てちゃいけない」

その言葉に、少しだけ心が落ち着く。

「さて、そのバッグ、何か特別なものかい?」

老人の目が黄色いバッグに向けられる。

「はい、きっと何か重要なものです。これで、この世界を変えられるかもしれない」

そう言いながら、自分でも何を言っているのか分からなくなる。

なぜこのバッグが重要なのか?どうやってこの世界を変えるというのか?

答えは見つからない。ただ、そう信じるしかない。


夜が明ける。朝日が地平線から昇る。

7つのスフィンクスの幻影が目の前をよぎる。

円を描いて座るスフィンクス。それぞれ違う顔、違う体型。でも、みな翼がある。

太陽の光を浴びて、スフィンクスが走り出す。

光の竜巻。巨大な光の柱。

意味不明な光景。でも、何かを伝えようとしている。

黄色いバッグの中のスマホのようなもの。それと、このビジョンは繋がっているのか?

頭が混乱する。何が現実で、何が幻想なのか。もう区別がつかない。

ただ一つ確かなのは、この世界が正常ではないということ。

本州は沈み、宇宙人が支配する。そんな世界で、自分は何をすべきなのか。

黄色いバッグを見つめる。この中に答えがあるのか?

「若いの、これからどうするんだい?」

老人の声に我に返る。

「わかりません。でも、このバッグの秘密を解き明かさなければ」

そう答えながら、自分の中に芽生えた使命感に驚く。

記憶はない。自分が何者かも分からない。

それでも、この世界を変えなければならない。そう直感が告げている。

「そうか。じゃあ、気をつけて行けよ。この世界は危険でね」

老人の言葉に頷く。

立ち上がり、黄色いバッグを肩にかける。

どこへ向かうのか。何をすべきなのか。

答えは見つからない。でも、歩き出すしかない。

この歪んだ世界で、自分の役割を見つけるために。

記憶を取り戻すために。

そして、もしかしたら、世界を救うために。

曖昧な希望を胸に、一歩を踏み出す。

不確かな未来へと続く道を、ゆっくりと歩き始める。

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