Agalta seed

木山糸見

第1話

 細菌すら存在しない世界で吸い込む空気は、ほのかな甘みを錯覚させる。

 魄樹によってほぼ全ての酸素生物が駆逐された世界。ここには有機物を分解する微生物も存在しない。匂いがない。汗をかいても、ただ澄んだ空気の中へと溶けていく。

 腐敗臭もない、生物の気配も微塵もない。ゆっくりと朽ちていく物質が塵となった古い香りだけがある。呼吸し代謝を繰り返すことは因果を狂わせているのだと、世界は執拗に説く。

 永い年月と魄樹の浸食により朽ち果てた施設の中、ソーマ・穹は奥歯をかみしめて興奮を抑え込んでいた。魄樹の中を独り歩く時にいつも訪れる胸の疼きも忘れ、力の籠った視線を周囲に巡らせている。

 広い室内は人間よりも巨大な分析機器がいくつも並んでいるが、どれも白い触手に締め壊されている。浸食され打ち捨てられた有様は、この施設の終わりが突然に訪れたことを告げている。人類が栄華から転げ落ち永い時が流れた現代ではありふれた風景だった。

 穹が身に着けている薄汚れた服は灰色を基調としている。身体との間に空気を残さぬよう気密性が高められた生地は身体にフィットし、運動性を確保するとともに、触手の中で保護色として働いていた。

 腰には左右に3丁ずつ、合計6丁の拳銃が吊るされている。肩からストンと落ちる細い体つきに腰回りだけが太くなっている不格好なシルエット。玩具でも身につけているように滑稽な姿だが、足腰の加重に耐える立ち姿が、その得物たちは紛れもなく殺傷能力を有していることを示していた。

 薄い胸や腕、腿と様々な場所にいくつも収納が設えられており、体さばきを妨げない限界を計算して物が収められている。

 左胸に手を添え、その下に収めた戦利品を確かめる。力んだ口元から力を抜き、肺の中の空気を全て出しつすように、長くゆっくりと息を吐く。倍の時間をかけて息を吸う。脳に少しでも多くの新鮮な酸素を送り、集中力を高めていた。

 穹が独りたたずむ部屋の壁は、無数の割れ目が走っている。

 年月を経ても変色することなく純白を保つ強化コンクリートの壁は死蝋の如くぬめり光る。死者の肌に浮かぶ血管のように壁の下を触手が這い、表面に奇怪な網目を描いていた。

 壁を伝う触手の表皮には、砂漠に広がる砂紋、あるいは澄んだ水面に浮かぶ水紋のような文様が浮かんでいる。有機的でありながら生命を感じさせない。そんな矛盾が、見る者の生理的嫌悪を誘う。

 壁中を這う触手の間から、かつての人類が残した遺産が助けを請うように光を反射していた。美しく磨き上げられていたであろう床、高い天井に施された繊細な装飾。研究施設であったことを忍ばせる演算端末や金属製の机。目に入る全てが触手にまとわりつかれている。

 

 穹は慣れた様子で触手の隙間を縫うように足を降ろして歩く。じりじりと進み、部屋の片隅で浸食を免れている端末の前に立った。

 並んだ机に一台ずつ据えられた、握りこぶしほどの大きさをした黒い半透明のボックス。現在では考えられないほど高水準にあったかつての文明社会では、入力端末も画面も空間投影式であり、一般家庭にすら同様の装置が普及していたという。しかし、研究施などの長時間画面を見つめる必要のある場所では、目の負担を軽減するために画面を映すためだけのパーツが別に設えられていた。

 ブラックアウトしている写映面に、短く刈り込まれた黒髪と大きめの黒目が特徴的な顔が写り込む。

 穹はその表面から裏側まで舐めるように確かめる。どこにも魄樹の痕跡が見られないことを確かめ、胸の収納から小さな六角柱の箱を取り出した。

 丁寧な手つきで取り出したその小箱は、つい先ほどこの遺跡で発見したものだ。

 別の一室、同様に打ち捨てられた惨状の部屋は、厳重な警備が施されていた。生体認証と暗号入力を幾重にも組み合わせていたと思われる扉を抜けた先、部屋の中央に置かれた人が歩きまわれる広さがある大きなガラスの箱。三重になった分厚いガラスは、穹の手にある小箱を中央にいただき、あらゆる侵入者から守られていたはずだった。万全のセキュリティであったのであろうが、長い年月による微細な傷が魄樹の浸食を許し、厳重な警備は水泡に帰した。結果、何も持たない一介の盗掘者の手に落ちた。

 ゆっくりと小箱を開くと、中にあるのは箱を一回り小さくした六角柱の結晶体だった。仄暗い深海を思わせる半透明の結晶の内部には、光線を固めたような極細の金糸が緻密に走っている。金糸は目には見えない隙間をあけて決して交わることなく、人工的な直線で繊細な構造を創り上げている。結晶の天井部には”Agalta seed”と刻印されていた。

 それは人類の叡智を、つまりは人類史の粋を結晶化させた芸術品、シンプレクタイトメモリであった。

 圧倒的な記録容量を誇るこのメモリは、地球の営み全てを転写できると言われるほど莫大なデータを保存できる。極僅かな量しか生成されず、現代ではもはや実現不可能となった製法で作られた品は、しかるべき所に出せば一生遊んで暮らしても釣りがくる金額となると噂されている。

 掌に拾い上げた青い結晶を、穹は強張った顔で見つめた。瞳には、喜色とは違う、飢餓に似た暗い光を宿っている。大金を手にした喜びも、美しさに酔いしれる恍惚も浮かんでいない。

「もしかしたらこの中に。俺はついに手に入れた」

 思わずこぼれた声には、焦燥が溢れていた。

 金色の紋様から内に保存されたデータの片鱗でも読み取れないものかと、憎悪にも似た思いが胸を焼く。穹には、優雅な生活や魄樹の危険に曝されない生活を捨ててでも手に入れなければいけない情報があった。

 逸る気持ちを抑えるように、慎重にメモリを指で摘まむ。唇を噛みながら端末の読取口へとメモリを挿入した。

 眠っていた端末が淡く光る。ビープ音と共に写映面が像を結ぶ。

 強張った肩から力を抜き、小さく息を吐いたのも束の間。

 穹は素早くメモリを抜き取ると周囲を見回した。気がつけば辺りの空気が青みがかっている。空気は瞬く間に汚染され、脳髄に突き刺さる刺激臭が漂いはじめた。

 室内に張り巡らされた触手の表皮から青い気体が勢いよく噴出されている。

 魄樹が発する青い気体の正体は高濃度のオゾンガスである。吸い込めば肺を焼き、白金族を除く全ての金属すらをも酸化させる猛毒の霧。人類から地上を奪った魄樹が周囲にまき散らす猛毒は、死の霧と呼ばれ生き残った人類の脅威となっていた。

 触手が蠢き、天井からコンクリートの破片がパラパラと落ちる。壁から飛び出した触手が獲物を探すように鎌首をもたげた。

 穹は慎重な足取りを捨て、全速力で駆け出す。

 部屋を飛び出した先にも青い霧が漂い、周囲をオゾンの世界に塗り変えていく。

 わずかでも霧の薄い方向を直感に任せて選び、通路を走り抜ける。触手が次々と伸び上がり、穹に迫る。眠りから覚め四方から押し寄せる触手を身をよじってかわしながら、止まることなく走り続ける。

 穹が通路を曲がると同時に、背後から圧縮コンクリートが砕け散る激しい音が響いた。無数の蔦が壁を打ち、粉塵が舞い上がる。直撃を受ければ人間の体など跡形も無い。

 穹は全速力で曲がったために流れた体勢を、床に片手をついて立て直す。上体を起こして顔をあげると、その先に見た光景に息をのんだ。額から流れ落ちる汗が一瞬で引いていく。

 眼前には、無数の触手がみっしりと絡み合ったグロテスクな壁が立ちはだかっていた。

 人が通る隙間など残されていない。立ち止まれば背後から迫る触手に捕食される。

 進退極まり、心臓が早鐘を打つ。こめかみが脈打ち視界が揺れる。死へと続く道を進む時間がゆっくりと知覚される。

 穹は眼球を素早く左右に振った。もはや顔を動かす時間すら残されていない。瞳孔が大きく開き、生き残るために視覚情報が雪崩をうって脳内に流れ込む。

 左側の壁を覆う蔦の合間からわずかに覗く光。

 見えたと思うより前に、両手が腰に伸びていた。

 細い身体に不似合いな、炭素繊維で編まれた無骨なベルト。そこから2丁を抜き放ち、小さな光に全弾を打ち込む。

 のたうつ蔦が壁を破壊する音の中に、ガラスが砕ける澄んだ音が重なった。

 弾丸に打ち抜かれた触手は大量のオゾンを放出し崩れ落ちる。死滅する魄樹の細胞が放出する霧の中、外の光が筋を描いて差し込んだ。

 穹は両目をきつく閉じて両手で顔を覆と、勢いのままに高濃度の霧の中へと身を投げた。

 一瞬の浮遊感の後、身体が地面に叩きつけられる。すぐに目を開いた穹の鼻先に、地面を覆う蔦と、そこに刻まれた魄樹に特有の波の如くうねる紋様があった。

 素早く身体を起し飛び退く。地面から触手が伸び上がり眼前を通り過ぎていった。獲物を逃した触手は宙で向きを変える。

 再び迫る触手を、新たに引き抜いた銃で撃ち落とす。その反動を利用して身体をひねり、前方から心臓めがけて突きかかる触手をかわす。崩れた体勢を立て直す暇もなく、銃の反動に振り回されながら、今にも転びそうな危うい姿勢で動き続ける。

 森の中は、直径が10メートル以上もある魄樹の幹が散立し、空に枝を広げている。光合成を行わない魄樹には酸素植物と違い葉という器官はない。頭上に広がる枝はこの星を覆い尽くす網だった。足元にも触手の根が網目をなし、大地を捕縛している。

 辺りには濃い死の霧が立ちこめていた。空には青ざめた太陽が輝く。停滞したオゾンに曝され、剥き出しとなっている眼球に痛みが走る。

 穹は左胸の収納から散水瓶を掴み出し、前方に放り投げた。

 親指ほどの大きさのガラス容器の中に高圧で水を封入してある散水瓶には、針の穴ほどの小さな栓がされている。それを引き抜くと、水が霧吹きのように放出される仕掛けとなっていた。

 水はオゾンを溶かし込むため、オゾンが薄ければ顔面を水の霧で守り活動することができる。世界を染め上げるほどのオゾン濃度の前では焼け石に水であったが。

 散水瓶は無軌道に回転しながら水を振りまく。

 わずかに払われた死の霧であったが、すぐに青さを取り戻していく。目を覚ました森中の魄樹に狙われれば、安全な場所はどこにもない。

 それでも穹は諦めずにあがき続ける。逃げる方向も分からぬまま、触手の間を逃げ惑う。

「ぜッ、タいニ。死ナ、な、なナ、ない」

 口元が痙攣し、己を鼓舞する声が震える。ろれつが回らないのは、全力運動を続けたせいだけではない。オゾンが身体を蝕む中毒症状が現れ始めていた。

 通常の1000倍にも達する濃度のオゾンに曝された人体には、呼吸困難、意識障害という症状が現れる。穹は今、胸を叩かれているように激しい動悸に襲われ、喉の激痛により息を吸うこともままない。

 意識が混濁し、足がもつれた。顔面を地面に打ちつけて倒れ込む。

 刺激臭はもはや、脳に針を差し込まれているような痛みとなっている。呼気と共に吸い込まれたオゾンが気管を焼け爛らせていく。穹の自我を激しい痛みが塗りつぶす。

 力なく地に伏し、手足を痙攣させる。ひきつった口元から垂れ流される声は意味をなさない。喉の動きに合わせて手足が小さくはねる。

 自らの死を認識できないままに絶命しようとしていた穹の脳裏に、少女の声が入り込んできた。

「場所で何してるの?」

 穹の瞳は、反射的に声のした方向へと動く。いつの間に現れたのか、そこに紅い影が立っていた。

 魄樹の表皮と同じ紋様が施された官頭衣で身を包んでいる。高貴な紅色に染色された人影は、オゾンに染まった青い世界にあって唯一、その色鮮を保っている。

 のびやかな手足と柔らかさを帯びた身体つき。小金色の髪が青い陽光を浴びて煌めいていた。

「樹がこんなに怒ってるの初めて見た。あんた何したの?」

 紅い少女は琥珀色の瞳を細め、口をとがらせた。無造作な足取りで地面に顔をつけている穹に近づく。腰に手を当て、倒れている穹の顔を覗き込む。

 オゾンを吸い込みすぎた穹はぴくりとも動かない。

 少女は空気を求め不規則に動く穹の口元を見つめ、逡巡するように細い指を顎に添えた。首をかしげた拍子に長い髪が肩から滑り落ちる。

「仕方ない。見殺しには出来ないし」

 言い訳のような言葉には好奇心がにじんでいた。軽く咳払いをすると、衣の裾を払う。

 彼女は居住まいを正して地面に膝をつくと、祈るように両手の指を組み合わせた。

 死の霧に澄んだ声が染み渡る。

   死者眠る死蝋の森

   死者の吐息は蒼い霧

 穹は脳内に光が弾けるのを感じた。神経細胞がスパークしたかのように、視覚が光で埋め尽くされる。

   王にかしずく白い森

   王はアガルタを統べる者

 彼女の謳が終わると、森はオゾンの放出を止めた。枝がざわめいて風を作り、周囲に満ちていた霧が拡散していく。太陽は白い輝きを取り戻し、森は再び眠りについた。

 穹の口からうめき声が漏れる。驚きに目を見開いているところだが、瞼は左右非対称に痙攣を繰り返すだけだった。

 倒れたままの穹にむかって手が差し伸べられる。紅い袖から伸びる華奢な手首には、黒光りする手枷が嵌められていた。細い手首に似合わない武骨な品だが、手入れはかかされていないようだ。

「これで良し、と。立てる?」

 穹は瞼を閉じた。

「え、うそ! ちょっとまって」

 うつ伏せに倒れる穹の肩が激しく揺すられるが、額が地面に擦れても穹の目は開かない。

 少女は頬を膨らませた。佇まいに幼さが増す。両手を穹の左肩にかけると、体重をかけて仰向けに返す。

「重い」

 穹の顔に着いた灰褐色の土を少し荒い手つきで払いつつ、呻くように呟き天を仰いだ。

 空は雲ひとつない。かつての地上であれば、小鳥たちのさえずりが聞こえきたであろう穏やかな光が降りそそぐ。地球が胎動を始めたように、そよ風が少女の髪を撫でていった。



 穹は目を覚ますと、叫び声を上げて跳ね起きた。腰に手を伸ばすが、そこに何も吊られていないことに気づき息を詰まらせる。

 奇妙な香りがしている。

 室内は、見慣れぬ褐色をした魄樹に覆われていた。人工的に成形されたとしか思えない真四角な部屋。天井と床、四方の壁はすべて焦げた色をした魄樹の紋様が浮かんでいる。まるで魄樹を切断した板を用いて組み上げられていた。

 鼻を微かに刺激する、なぜか懐かしさを覚える香り。まるで、前世に嗅いだような、あるいは遺伝子が覚えているとでもいうような、本能的に無害であると感じさせるものだった。

 穹は右手にシンプレクタイトメモリを握ったままであることに気づき、安堵の息を漏らした。

 隣からカラカラとした笑い声がした。

「変な人。そんなに警戒しなくても、銃は全部そこに置いてあるよ」

 のん気な声に振り向くと、森に現れた赤い少女が床に座っていた。鋼鉄の手枷をはめた細腕で、穹が寝かされていた寝具の枕元を指している。

 傍らに置かれた茶褐色の容器に満たされた水が、室外から差し込む太陽の光をきらきらと反射していた。その容器にも魄樹の紋様を見てとり、穹は目を細めた。

「お前は何者だ? ここはどこだ? なんで魄樹の中で生きている」

「あたしは灯里朱律」

 朱律は何が可笑しかったのか、琥珀色の目を細めつつ名乗った。肩を震わせながら、穹に名を問う。

「ソーマ・穹。ここはどこだ」

 ぶっきらぼうに答え、語気を強めた。

 穹が目を離さないように手探りで枕元の銃に手を伸ばしているのを見て、朱律は腹を抱えて笑い出した。

「弾は抜かせてもらってますので、悪しからず」

 朱律は苦しそうに息をしながらおどけて見せた。

「どういうつもりだ」

 穹は軽くなった銃を腰に戻しつつ、予備の弾も服から抜かれていることを確認する。虎の子だった隠し衣嚢も空になっていた。

 化学繊維とは異なる柔らかな手触りをした生地で織られた寝具から、薄茶色の魄樹の板を敷き詰めたような床へとつま先をつけた。嬉しそうに黙している朱律に慎重に近づく。

「そんなに警戒しなくても、この床は魄樹じゃない。それに、ここは魄樹に襲われることはないって。ここは、御子の里だから」

 朱律が胸を張ると、長い髪が紅の衣服とこすれサラりと音が鳴る。頭一つ分高い場所にある穹の顔を、煌めきを湛えた瞳で見上げた。

 その真意を探るように見つめ返し、穹は質問を続ける。

「ここは、プラントか」

「違う。外の人がドームとか呼んでる所とは関係ない。向こうは私たちの存在も知らないんじゃないかな」

 魄樹に支配された世界で、生き残った人間が生存のために築いた社会構造がドームとプラントであった。

 ドームは、周囲に多数のプラントをもつ中央都市。二十階層におよぶ強化ガラスの巨大建造物である。半球形をしたその形から単にドームと呼ばれており、そこに現在の支配階級の者達が暮らす。プラントに食糧を耕作させ、ドームの地下施設でしか生産できない生活必需品を配給する。プラントは搾取され、不満を持っていてもドームが無ければ着る服もなく、住む家も建てる事ができない。そうしてドームの支配体制が確立されていた。

「ドームからの物資が無くて生活できるはずがない」

「普通にできてるけど。食べ物は畑で採れるし、服は綿花から作れる」

「建物は? シリケート鋼材はドームの設備でないと作れないはずだ」

 シリケート、すなわち珪素化合物がオゾンを分解する性質があることは、科学技術が栄華の時代に至る遥か以前から知られていた。シリケートを形成するのに必要な珪酸塩が地殻に多く含まれていることも。

 地下に閉じこめられ衰退していった人類が、オゾンに満ちた地上でかろうじて使える建材はシリカを主成分とし、骨材を混ぜ込んで固めたシリケート鋼材と呼ばれる物だった。鋼材の表面には無数の微細な孔があり、外部のオゾンを含んだ空気が通ると酸素に変換される。その性質により、オゾンの満ちた世界で人類の生存圏を確保することができた。

「そんなの使わなくても、木で建てればいいじゃない。魄樹じゃくて、普通の木で。この国では昔からそうやって家を建てたり、お社を建てたりしてたんだから」

「これは木、なのか」

「見たことないの? 確かにこの辺り、というか、この里にしか生えてないかも」

「酸素生命の木か」

 穹は床に膝をつき、その表面に指先を滑らせた。魄樹と同じ紋様を浮かべる表面の凹凸に指でなぞり、指先に移った香りをかぐ。

 地上が緑に覆われていたのは、今から千年もの昔。陸に繁茂していた草木と称された酸素生命の生物群は、魄樹に食い尽くされていた。オゾンの強い酸化力を用いてエネルギーを得るオゾン生命は、ほぼ全ての物質、無機物も酸素生命も、あらゆる物を飲み込み糧とする。酸素生命のほぼすべての種を絶滅させ、人類を絶滅の危機へと追いやった。

「そんなに珍しい?」

「ジャンクデータの画像でしか見たことがない。今でも自生してるとは誰も思ってないだろうな」

 オゾン生命がどこで生まれたのか、どのような機構でオゾンサイクルからエネルギーを得ているのか、詳細は人類の衰退とともに歴史の中に埋もれてしまった。だが、過去の遺物には、かつてのデータが収められ、閲覧できるものがある。

 データは呼び出し配列が乱れてしまっており、支離滅裂で時系列の前後もつかめなくなってしまったジャンクデータとなり果てていた。解読は困難を極めるそのデータを、根気よく、多大な労力を用いて解読した結果、得られるのが単なる庶民の日記でしかないことも多い。幾つもの未知の物質が使われた強い刺激物の製法を解明してみれば、単なる夕餉のレシピであったなどという笑い話もある。かつての人類がなぜ斯様に自らの私生活を世界に晒していたのかは不明であるが、その理由はもはや誰にも分からない。

「でさ。私は、貴方を助けてあげた訳ですが」

「ああ、礼がまだだった。ありがとう」

 飽きもせずに床板を撫でていた穹は、立ち上がり頭を下げた。

 深々と下げられた後頭部をじっと見つめ、朱律は腕を組む。

「気絶して、ほっといたら樹に取り込まれてお陀仏確定だった穹を、非常に苦労してここまで運んで参りました、私は」

「ほんとに助かった。感謝している」

「それだけ?」

 首を傾げる穹に、朱律はわざとらしくため息をついた。

「奥ゆかしい私には、とても言いづらい事なのですが」

 こめかみに手を添えながら発せられる言葉とは裏腹に、何の気負いもなく手のひらを差し出した。鋼鉄の手枷が鈍色に光る。

「金出せ」

「申し訳ない。一文無しなんだ」

 諸手を広げて見せる穹に、朱律は顔を近づける。柔らかい香りがふわりと漂った。近くで視る明るい色の瞳は、好奇心に満ちている。

「じゃあ、その手に持ってるブツを出しな」

「ダメだ」

「やっぱ相当なお値打ち品なのね。でもさ、命に比べれば安いもんでしょ」

 朱律は声を落とす。悪い顔をしたつもりなのだろう。子供がいたずらをしている表情にしか見えなかったが。

「それは何なの?」

「大した物では、無くはない。だが、これだけは渡せない」

「何で」

 穹は黙り込んだ。

 朱律は左右から覗きこみながら脅しや懇願を繰り返す。ちょこまかと動き回るたび、華やかな香りが振りまかれる。

 穹の渋面には、うっとおしいと書かれている。

「辛い思いをして運んできたのに。しくしく」

 朱律は袖に顔を隠して床に座り込んだ。

「泣きまねにしてももっと上手くやれ」

「えーんえーん」

 どう? とばかりにチラリと目をあげる朱律を見下ろし、穹はこめかみを指でほぐす。

 ため息とともに小箱を開いた。朱律の動きを警戒しながら、箱からシンプレクタイトメモリを取り出す。

 朱律は、何これ、と目を丸くしながら立ち上がった。関節だけ太くなっている穹の指につままれた青い六角柱の結晶を覗きこむ。そこに長いまつげをした瞳が大きく映り込んだ。

「シンプレクタイトメモリと呼ばれる記録媒体だ。希少価値はあるが」

 シンプレクタイトとは、ある種の物質が高温相から冷却される過程に於いて安定的な2相に分離してつくられる、紐が複雑に絡み合ったような構造をいう。特殊な鉱物の内側に任意の三次元ポイントでレーザー光を収束させて部分溶融を引き起こし、伝導相と非伝導相に分離させることで緻密な三次元回路を形成し製造されたのが、シンプレクタイトメモリと呼ばれる記録媒体である。

「かつては莫大な記録容量から使い途もあっただろうが、もはや製造技術はもちろん、書き込み技術すら失われている。好事家に売り飛ばせば金になるだろうが、君らにそんなつてがあるとは思えない」

 穹は周囲に剥き出しとなっている酸素樹木の板を見渡した。オゾンとは違う、プラントでも森の中でも感じることがない酸素樹木特有の存在感は異世界に迷い込んだようだ

「君らには金なんてあっても意味がないだろう」

「まあね。で、何に使うの」

「だから」

 役に立たないと重ねて断言しようとする穹を、朱律は人差し指を立てて遮った。指を左右に振りながら、自慢げに胸を張る。

「役に立たない物を、穹は後生大事に、死にそうになっても手離さなかった訳ですか。無理矢理手を開こうとしても離さなかったんだから。それは何で? そっちこそ、金が欲しいだけの人には見えませんけど」

 穹は苦々しくい顔で黙り込む。朱律はずいと近づいた。

「つまり穹は、なんとかメモリの中身が見たいってことでしょ。確かにお金なんて持ってても私たちは使えないし、いらない。だからさ、中身を一緒に見せて。それが駄賃ってことで」

「無理」

「なんで! こんな名推理を披露したのに」

「読み取れる端末がない。このメモリが置いてあった遺跡なら端末があるかもしれないが、当分の間は魄樹が警戒しているから入り込めない」

 僅かしか製造されていないということは、読みとれる端末も僅かにしかないということでもある。穹が危険を犯して遺跡を探しまわったのも、この機会を逃したくないがゆえであった。

「ふふふ。それが、あるのですよ」

 朱律は怪しい商人のような口調で、揉手しながら穹にすり寄ってきた。胡散臭そうに見つめる穹の肩を叩き、上目遣いに笑う。

「ここは穹が死にかけてた遺跡の近くだもの。か弱い女の子が、気絶した男の人を引っ張って来れるくらいの距離。だから里にも、端末ってのが転がってる建物がある。使えるのがあるかもしれませんよ」

 穹は目の色を変えた。つま先が床を小刻みに叩く。

「俺はここに捕まってるんじゃないのか。勝手に出歩いて良いのか」

「いいんじゃない?」

 朱律は小さく首をかしげつつ気楽に答えた。

「見つかっても怒られるくらいだって」

 背後の戸が引かれる音がした。穹が身構えながら振り返るのと同時に、朱律は呻き声を漏らす。

「それは正確ではないわねえ、朱律」

 戸の向こうには、落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。鷹揚でありながら有無を言わせぬ、指導者の立場にある者が持つ特有の気配を放っている。妙齢の女性は貼り付けた笑顔で、こめかみをひくつかせていた。

 纏った白い装束は交わらぬ波紋が金糸で縫われており、黒く艶やかな髪がよく映えている。

「確かに皆は激怒するでしょうけど、それだけでは済まないわ。朱律は禊ぎ半年、そこの君は、畑の肥料になってもらおうかしら。ここの土はどこも痩せているから」

 白装束の女性は、低い声で告げた。

 警戒心をむき出しにする穹と目が合うと頬を緩める。

「冗談よ。そんな怖い顔しない」

 緊張した空気から一転し、少女のような微笑を浮かべる様子は、朱律と似たところがある。

 女性は威厳を感じさせる所作で朱律に近づくと、何やら弁解めいた声をあげる彼女の頬をつねりあげた。並んだ二人は顔の造作が似ている。お互いに遠慮のない様子から親娘であることが分かる。

「痛い痛い!」

 悲鳴をあげる朱律を無視したまま、女性は穹に顔を向けた。

「見苦しい所をお見せしております。私は、この我が儘で思慮の足りないこの上なく不肖の娘の、朱律の母です。この里で御子を仰せつかっている、灯里茜と申します」

 茜は、頬をつねられたまま手足を振り回して呻く娘を無視しつつ、丁寧に名乗る。堅苦しい言葉づかいではあるが、親しみ安さを覚える気さくな表情であった。穏やかな誰何に穹が名乗ると、上品な仕草で頷いた。

「穹、貴方はなぜあの遺跡にいたのですか? あの場所にいる樹たちは何故か気性が荒く、里の者でも近づく事ができるのは一握りしかいないのですが」

「俺はジャンク屋だ。情報があれば漁りに行く。魄樹に気づかれずに森を歩く術は心得ている」

 魄樹の森に取り込まれたプラントや遺跡から、打ち捨てられた物品、特に金属類を漁るのがジャンク屋と呼ばれる職業である。今の人類がアクセス可能な領域では既に鉱脈が枯渇しており、ドームでは金属類が常に不足している。いわずもがな、プラントへ金属製品が配給されることははほとんどない。金属製の調理器具などは闇では高値で取引されていた。運良く稀少元素を含む物があれば、かなりの高値でドームに卸すことができる。

 打ち捨てられたプラント跡からの回収を主にしている者は盗賊、遺跡の探索を生業としている者は盗掘者と呼ばれていた。呼び名の通り、他者の遺したものを勝手に拝借していく、ならず者と世間では蔑まれている。それでもジャンク屋がいなければ生活は回らない。必要悪といった存在だった。

「遺跡の情報はどこから得たのですか」

「近くのプラントで老人から聞いた。これまで挑んだ盗掘者は誰も帰らなかった遺跡があると」

 茜は眉をひそめた。思案するように細い顎に指を添え、下を向く。

 その拍子に力が緩んだのか、朱律は頬を抓る腕を払って抜け出した。頬の痛みも忘れたように、毅然と穹を睨みつける。

「なんでそんな危なっかしい所に行くわけ? 死にたいの?」

「誰かが盗掘した遺跡にはもう何も残っちゃいない。誰も成功していないところに行くしかないだろ」

 穹の澄まし顔が気に入らなかったのか、朱律は声を荒げた。

「それであんたが死んだら家族や周りの人が悲しむ。そんなことも分からないの」

「家族はいない。魄樹に殺された。俺がいたプラントごと全滅だ」

 冷え切った瞳で朱律を見つめた。どす黒い激情を湛えた声で語る。

「俺は過去の叡智を求めて遺跡に潜っている。魄樹を滅ぼす方法を、地上から森を消し去るすべを求めて」

「そんな事は許さない! 樹は人のためにある存在なんだから!」

「どこが人の為にあるって言うんだ。魄樹は人間を捕食するだけだ」

「違う! あんたは樹の声を聞いてない」

「樹の声?」

 いぶかしむ穹に対して、朱律はなおも口を開きかけたが、脇から伸びた手に塞がれた。

 茜は朱律の口を手で押さえ、あやすようにその背を叩く。

「朱律、そこまでになさい。人にはそれぞれの事情があるし、願いがあるのよ。それを否定することは誰にもできないし、してはならない」

 朱律は目をつりあげている。茜がもう一度その背に手を添えると、逃げるように部屋を飛び出していった。

「ごめんなさいね。あの子も色々とあったから」

 茜は音を立てて閉まった戸を遠い目で見つめた後、ゆっくりと穹に顔を向けた。先ほどまでとは別人のように厳かな表情があった。すべてを見通すような久遠の彼方を見つめる視線、引き結ばれた唇。それは、神の言葉を降ろす巫女の顔だった。

「一つの願いに固執すると、他に何も見えなくなってしまいます。貴方は、まだ知らないことも多い。隠され、忘れ去られた秘密もある。見聞きした事、それを組み合わせた先に見えてくる事。常に考え続けなさい。常に疑い続けるのです。貴方の願いは正しいのかを。さもないと」

 一呼吸の間をおく。豊かに感情を宿していた瞳は、穴が開いたように深淵の闇を覗かせていた。

 思わずたじろいぐ穹に、巫女は宣託を下す。

「己に失望するか、世界に絶望するか。どちらも結果は同じ。破滅への道です」

 その言葉は鎖となり、穹の精神に絡みつく。穹は逃げるように目を逸らした。

 茜は巫女の相好を崩し照れ笑い浮かべた。両手を頬に当て、わずかに顔を赤らめる。

「年を取ると説教臭くなってしまっていけないわね。ごめんなさい、不躾な事を言っちゃって。あの子にも、私からよく言っておくから。そうそう、お腹すいてるでしょう? 3日も寝込んでて何も食べてないものね」

「俺は、3日も寝てたのか」

「ええ。ちなみに貴方が倒れている間、朱律が付きっきりで看病してたのよ。自分で助けたのに死なれたくないって。意外に責任感のある子なのよ」

 冗談めかして言うと、軽い衣擦れの音とともに部屋を出ていく。戸に手をかけると、顔だけで振り向いた。

「あの子と、仲良くしてあげてね」

 茜は手を振って部屋を後にしていった。

 残された穹は無言で立ち尽くす。茜の雰囲気に呑まれ揺らいだ心を落ち着かせるように、穹は瞳を閉じ思考の殻に籠もる。


 ――何度も夢に見た悪夢の中。

 幼い穹は見るともなく目で追っていた。

 目の前に飛び交う人間の手足。なまくらな刃物で叩き斬られたように毛羽立つ切断面。迸る血液が描く円弧。宙に滞留する赤い玉滴。

 鮮血の斑を纏った触手が暴れ狂っている。一振りしては無数の悲鳴が唱和し、返っては全てが静まりかえる。逃げまどう人々の声は、押しては返す波の音のよう。

 穹は空洞になった心でぼんやりとしていた。目の前の光景は、理解していても実感はなく。己がどこに在るのかも不明瞭で、白昼夢のように現実感がない。

 父と母は既に見あたらなかった。先ほどまでそこに在ったはずの彼らの身体は、どこへいってしまったのか。刻まれて宙を飛んでいるのか、白銀の鞭にねじ切られたのか。魄樹に取り込まれたのだろうか。頭を撫で、微笑みを浮かべていた二人はもう、どこにもいない。

 プラントの空に幾百と飛び交う腕、足、頭、細切れの胴体。無数に思えたそれらの物体も、やがて魄樹に吸収され、一つまた一つと消えていく。大地に染み込んだ血液さえも魄樹の根に啜られ、人々が生きた痕跡が全て吸い尽くされていく。

 幼い穹は、その光景をただ心に焼き付ける。瞬きも忘れ、己の存在すらも忘れ、眼前の虐殺を記憶の奥底に、刺青のように突き刺さる痛みをもって刻みつけた。

 いつかきっと魄樹を滅ぼす。地上から消し去る。その日までこの怒りが決して消えないように。死にゆく人々の生きた証を忘れないために――


 穹の瞳に闇の底でうねる憎しみが戻った。そのまま佇んでいると、控えめに戸が叩かれる。

 穹は重い身体を引きずるように戸へと進む。踏みしめるたびに音が鳴る床をつま先で歩く。一度躊躇したあと、戸に手をかけた。

 戸を開けた先で、朱律が正座していた。傍らには、湯気を立てる食事が木の板で作られた台に載せられている。

 無言のまま立ち上がり台を持つ朱律に、穹は道をゆずった。

 朱律は部屋の中央に食事を置き、脇に座った。改まった様子で背筋を伸ばす。入り口で立ったままの穹に目線で近くにくるように促した。

 穹は促されるままに、朱律の隣に腰を下ろす。見上げる視線と目が合う。その瞳の光は、様々な感情が移ろいでいるのか、今も昔も変わらぬ星の瞬きのように明滅を繰り返している。美しいと単純に表すには暗さを含んでいるが、それが故に魅力的な、どうしても美しいと表現せざるを得ない双眸。

 長いまつげは湿り、整った顔立ちは雪の様に白い。穹の視線は次第に、紅い衣の胸元に及び、我に返ったように顔をそらした。

 朱律は大きく息を吸うと、床に三つ指をつき、頭をたれた。

「ごめんなさい」

 頭を下げたまま床を見つめる朱律に、穹は目を白黒させた。悄然とした姿を見つめる。

「何も知らないで勝手なことを言って、ごめん。何があったのか、話したくないだろうし、言わなくていい。自分の考えを貴方に押しつけようとして、ごめんなさい」

 茜に余程きつく言われたのだろう。先ほどの剣幕から打って変わりしおらしく謝る姿に、穹はバツが悪そうにかぶりを振る。

「俺も頭に血が上ってたんだ。もう気にしなくていい」

「うん」

 朱律はコクリとうなずくと、穹を座らせて食事を勧めた。

 目の前に並ぶ料理から昇る香りに、誘われるように箸を手にする。礼もそこそこに口にかき込んだ。

 暖かい食事はいつ以来か。情報を求めて渡り歩くプラントには、余所者に料理を提供する場所などない。戦利品を農産物から作られた保存食を交換し、あてがわれた空き家でかじる。調理器具などなく湯を沸かすのが精々だが、可燃剤も高価なため火を起こすことすら稀だった。

 遺跡に向かう道中では森の中で野営するため火など起こせない。何かを燃やせば魄樹に気づかれる恐れがある。とにかく気配を消して体を休めるだけ。音も最小限にするため、森の密度が高い場所では絶食することも多い。

 穹はあっという間に平らげた。

「おかわり、要る?」

「たのむ」

 朱律から椀を受け取り、今度はゆっくりと咀嚼する。頬を膨らませている穹を、朱律は嬉しそうに見つめた。

「おいしい?」

 口いっぱいに食べ物を入れ、穹は返事の代わりに首を大きく縦に振る。

「そんなに食べても貰えると、作った甲斐があるかも」

 朱律は食事が済むまで側で眺めていた。

 3杯目を食べ終え両手を合わせる。朱律はお粗末様でしたと応じ、陶器の急須から、同じく陶器でできた湯飲みに茶を注ぎ、穹の前にコトリとおいた。

「どうやって水を沸かしてるんだ? 発電設備があるのか」

「別に、薪を燃やしてるだけだけど」

「燃える、か。そうだったな。酸素生命は燃える」

 目眩を覚えたように額を押さえる穹を見て、朱律は吹き出した。

「なんだ?」

「だって。そんなの常識じゃない」

 穹が憮然とした顔をすれば、朱律はさらに楽しそうに笑う。

「ねえ。そのなんとかメモリのデータ、見たくない?」

 友達をいたずらに誘うような口調で問われ、穹は眉間にしわを寄せた。

「直ぐにでも見たいが。マズいんだろ?」

「お母さんに許可を貰ったから大丈夫。もう外に見張りも居ないし、私と一緒なら出歩いて良いって」

 朱律は片目をつむっておどけて見せると、穹の手を取る。

 穹は言葉につまり、目をそらした。頬に赤みが差していく。

「なんで一緒に来る必要があるんだ」

 朱律は、さも当然だとばかりに頷く。

「余所者が一人で歩き回れる訳ないじゃない。ここなら安全に端末が使える。そんな場所他にあてがある?」

 全く無い訳ではない。ドームに行けば、一般に開放され自由に使用できる端末がある。シンプレクタイトメモリも読み込めるだろう。

「ドームには、ある」

「そこまで我慢する? ここからどれだけかかるかなあ」

 倒れた遺跡から最寄りのプラントまで徒歩3日。そこからドームまでは急いでもう3日はかかる。

 かつて地上で利用され、道を埋め尽くしていたという化石燃料をエネルギー源とした移動装置は、今ではまずお目にかかることはない。地面に長距離にわたり敷設された金属の上を決まった航路で走っていたという電車という物も、森に埋もれ魄樹の養分となってしまった。

 移動手段は徒歩か、二輪車を漕ぐかしか無い。二輪車は金属やゴムを使うことから非常に高価であり、穹のようなしがないジャンク屋が持てる物ではない。ドームの外で乗り回せばすぐに同業者、盗賊に目を付けられ襲われるだろう。

 結局、この機会を逃せば一週間歩き続けなければメモリの中身を覗くことができない。

「どうする? 今見ちゃう? それとも我慢する?」

 朱律は遊びに誘う子供のように、期待と不安が混ざった目で答えを待っている。

 穹は顔を背けたまま頷いた。

「案内してくれ」

 朱律はにっこりと微笑んだ。つないだ手を引き、穹を部屋の外へと連れ出す。

 廊下は木の板張りとなっており、見張りはどこにもいない。周囲を見回している穹を半ば引きずりながら、朱律は軽やかな足取りで進む。

 廊下の角を曲がり少し進むと玄関に出た。木材を組み合わせて作られている箱を開けると、そこには靴が収納されている。穹は無骨なブーツを取り出し、踏み固められた土の上に置く。くるぶしまで覆う合成皮に足を入れ、ナイロンの靴紐を結ぶ。

 朱律は、厚い木に足の親指と人差し指のを通せるように草で編まれた紅い紐が通されただけの、風変わりな靴をつっかけた。待ちきれないとばかりに穹を急かす。足踏みに合わせ、履き物が地面に触れて涼しげな音を奏でた。

「ほら早く。急がないと日が暮れるよ」

 紐を結び終え、朱律に続いて外に出る。

 そこには、眼の眩む鮮やかな緑があった。

 穹は口を開けたまま立ち尽くす。

 何本もの木が高い空へとまっすぐに伸び、豊かな葉をつけている。木々の隙間の向こうに魄樹の白い枝が垣間見えていた。

 耳を澄ませば、辺りに音が満ちている。

 ゆるやかな風に木の枝が揺らされ、緑の葉がこすれるざわめき。ここには、生命の気配がひしめいている。

「ぼけっとしない。早く行こ」

 所々に草が生える地面を、朱律の先導で進む。生々しい緑色は、プラントで栽培される黄ばんで生気のない植物とは全く違う。魄樹の白に勝るとも劣らぬ強靱さを感じさせていた。

「これに毒はないのか?」

「あるわけないでしょ」

 慎重に下草を足でどかして進む穹をよそに、朱律は剥き出しの踝に草の葉が当たるのも厭わず歩いていく。

 穹の足取りに業を煮やしたのか、朱律は背後に回り背中を両手で押した。

「ちょっとまて! やめろ! この中に危険なものがあったら」

「そんなのないってば。ただの草。穹様は、一体どこの世界でお育ちですか?」

 慌てふためき体を反り返らせる穹を笑いながら、朱律は近くの建物へとその背を押していく。

 穹が寝かされていた建物とは、使われている素材も保存状態もまるで違うコンクリート製の建物。崩れかけ、所々に黒い染みの浮かんだ建物が、緑の蔦で覆われて佇んでいる。

 入り口に着くと、朱律は半透明の扉に手をかけた。傍らの壁には、何かの認証装置とおぼしきボックスがある。黒い筐体に非接触式札の認証部分が白く縁取られているが、動力が来ている様子はない。穹は朱律に手を借し、横に押す。

「この奥によく分からない機械がたくさんあるの。壁とか崩れ易くなってるから気をつけて」

 中は薄暗い。浮かんだ埃に、差し込む光が筋を描いている。天井から剥がれ落ちたコンクリートが床に散乱していた。

 床のひび割れからは草が伸びている。その生命力は魄樹に通ずるものがある。地上が緑に覆われていたのも当然だと、穹は胸中で納得していた。

 固い足音を響かせ、扉の倒れた一室に入る。がらんとした室内に、いくつかの端末が並んでいた。

「どう? 使えそうなのある」

 小声で問われ、穹は端末を見渡した。

 置かれた端末はどれも、遺跡にあったものよりもかなり古いタイプだった。写像部と情報処理部が分離しており、文字入力のためだけに別のパーツまで机に置かれている。

 十数台並んだ端末の大半は動く気配がないが、まだ生きていそうなものもいくつかあった。

「これなら、どうにかなるか」

 もっとも状態の良さそうなものを見繕い、懐から黒い小箱を取り出す。

 穹の横で、朱律が体を弾ませている。目を輝かせている朱律を一瞥し、穹は観念したように小さくかぶりを振った。シンプレクタイトメモリを読込口に填める。

「接続は、できそうだ」

 ブラックアウトしていた写像部に明かりが灯り、内部の円盤記録媒体が物理的に回転するカリカリという音がする。

 穹は両手の人差し指で入力端末を操作していく。1文字毎に手元を確認しつつ、不慣れな手つきで演算処理を記していく。何度かエラーに弾かれた後、ようやく指示が通った。

「穹はどこでこれの使い方を習ったの?」

「ほぼ独学だ。一応、育ての親みたいな同業者にさわりは習ったが」

 肩を寄せ合ってしばらく待っていると、メモリに収められたファイルが表示された。

「何これ。ぜんぜん読めない」

「フォーマットが違いすぎるか」

 表示されたファイルは2つ。どちらもタイトルが文字化けし、読むことができない。一つは拡張子が【.agl】となっており、メモリ要領のほぼすべてを埋めている。こちらは開くこともできない。

 もう一つはただのテキストファイルであり、大した容量はなく使用説明の類いと思われる。

「こっちなら、いけるか」

 再び慣れない手入力を行いテキストファイルを開く。処理は一瞬で完了し、写像部が文字で埋め尽くされた。

「結局、読めないし」

 表示されたテキストは、大部分がデタラメな記号と化していた。

 肩を落とす朱律の隣で、穹は冷静に腕を組む。

 これまでも似たようなことは多くあった。どうにか読み込めたものもあったが、お手上げだった方が圧倒的に多い。読み込めたところで、どこの誰が書いたかも分からない真偽不明なデータ。役に立ったことは一度もなかった。

 だが今回は違う。厳重なセキュリティに守られていたメモリだ。そこには重要な機密が記されているのは間違いない。

「おそらく、端末の基本動作システムがメモリの造られた時代の遙か昔の型なんだろう。どうしようもない」

 思っていたよりも長い文章が記載されていたようで、穹は文字化けした画面をひたすらスクロールしていく。無意味な記号の羅列の中に、読みとれる単語がわずかにあった。

 【agalta seed】【kamchatka】【超還元性鉱物】【オゾン生命】【余剰次元】【王】

「さっぱり分からん。せめてこっちのファイルだけでも読めれば、このメモリが何のために造られたのか分かるかもしれないんだが。拡張子のaglは【agalta seed】って言葉からか? アガルタの種? 何のことだ?」

 穹は最後までスクロールし終え、天を仰いだ。

「オゾン生命は魄樹のことだろ。こいつには絶対に魄樹の秘密が入ってるはずなんだ」

 穹は続いてaglファイルを何とか閲覧できないかと試行錯誤を繰り返す。

 傍らに立つ朱律は、体を振るわせ、王、と小さく呟いた。その言葉は穹の耳には届かなかったようで、端末の操作に没頭していた。


 いつの間にか朱律の姿は消えていた。

 穹は日が暮れるまで操作を繰り返すが、どうやっても謎のファイルは開けず、テキストファイルからも新たな情報を得ることはできなかった。

 薄暗闇の中で一人頭をかきむしっていると、白い顔を浮かべた朱律が迎えにきた。今日は里に泊まり翌朝に発つこと、夕餉の支度が整ったことを告げられ、言われるまま建物を出た。

 薄暗闇の中、下草を踏みしめて歩く。

 朱律は里の中央に向かっているようだ。昼間のような軽口をたたくことなく黙々と進む背中を、穹は煩悶とした表情でつき従う。二人とも心ここにあらず、それぞれ思い詰めた様子であった。

 まばらに立つ木造家屋の向こうに、月明かりに照らされひときわ高い屋根をした屋敷がある。里の中央に立つ酸素植物の茎を屋根材料として利用している屋敷。その前で朱律は足を止めた。

 周囲の家3軒分はありそうな屋敷は、夜闇の中にずっしりと鎮座している。閉ざされた戸の隙間から漏れる明かりが、入り口に立つ穹の体を上下に切り裂くように一筋の線を刻む。

「入って。土足はだめだから」

 重苦しい口調の朱律に導かれ、中へと入る。靴を脱ぎ、まっすぐに伸びる廊下を進む。床板の鳴る音が不吉に響いた。壁にかけられた炎の光は、被せられた白く薄いフィルムで弱められ、足下を照らすには心もとない。

 いくつかの部屋を通り過ぎ、行き止まりの部屋に辿り着いた。

 朱律は廊下に座り、頭を垂れながら戸を開く。中から蒸した生ぬるい空気が漂う。

 かすかに混ざる敵意を敏感に感じ取り、穹は目つきを鋭くした。

 高い天井から下がる燭台が弱々しく室内を照らす。枯れ草を密に編み長方形に整形された床材が敷き詰められた部屋。中央にある巨大な一枚板で造られた長卓には、既に食事が用意されている。茜を上座に、左右に5人ずつ里の男たちが着座していた。

 朱律は、穹を茜から最も離れた席に案内すると、自分は茜の隣についた。

 左右から、男たちの凄む視線が穹に注がれる。歓迎されていないことは明白であった。

「皆さん、そう怖い顔をなさらずに。せっかくの食事が冷めてしまいますよ」

 茜が食事を勧めるが、箸に手を伸ばす者はない。無言の不協和音の中で、穹は周囲の者達の気配を伺っていた。

 居並ぶ中でもっとも若い男が、もぞもぞと体を動かしながら口を開いた。男の黒髪には白が混じりだしてはいるが、着慣らした服の上からも筋骨の盛り上がりが分かる大男だった。

「若けぇのよ。お前さんな。とんでも無ぇ事しでかしてくれたな」

 不必要に大きい声だった。視線は周囲をさまよい、穹の顔を凝視できていない。

 穹は、とんでも無いことが何を指すのか分からず、無言を貫く。その態度が気にくわなかったのか、男が舌打ちする。周りの老人たちからは同調するようにヤジが飛んだ。

 穹は口を引き結んだまま出席者を見回した。

 この場にいる中で、少しは動けそうなのは壮年大男だけ。男の体についた筋肉は明らかに日々の野良作業で培ったもので、戦闘者とは程遠い。襲いかかられたとしても逃げ切るのはたやすいだろう。

 しかし周囲は森。日が暮れてから森に入るのは自殺行為である。茜を人質にとり、夜明けまで立てこもるか。穹はばかばかしいとばかりに首を振った。

 穹の胸中を読んだように、茜が殺気だった場を取りなす。

「おやめなさい。この青年は、あの遺跡から生きて出てきました。森が彼を殺す気であれば、それはありえません。違いますか」

 凜とした問いかけに、男たちは声を詰まらせた。静まった場に茜の落ち着いた声が響く。

「森は、彼に逃げ道を与えた。そして、朱律と引き合わせた」

 穹はオゾンの切れ間を必死に逃げただけであったが、里の者は樹を神聖視しているようだ。森から逃げられたということは、森に生かされたということになるらしい。

 茜が穹に顔を向けると、男たちもそれに習う。皆の視線が外れた所で、茜は穹に向かって片目をつむって見せた。穹は一瞬きょとんとしたが、その意図をくみ取り慌てて頭を下げた。

「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」

 穹が頭を下げたまま固まっていると、わざとらしい嘆息と共に、大男の畏まった声がする。

「巫女がそうおっしゃるのであれば」

 声には安堵が混じっていた。こわばった顔で鷹揚にうなずいている。

 巫女が樹の判定を語り、被疑者が謝罪して納める。これがこの里の形式なのだろう。

 少し友好的な空気が生まれたところで、茜は話を進める。

「ですが、気になるのは彼が持ち込んだ遺物です。【王】についての記述が遺されている疑いがあります」

 座は再び騒然とし始めた。隣り同士で声を潜めてやりとりする者、口を開けたまま固まる者。両手を己の肩に回し震え出す者。

 穹は、視線で茜に説明を求める。茜は首を振り、隣に座る朱律の肩に手を添えた。後で彼女から説明させるということか。

 朱律は下を俯いたまま、膝の上で手を堅く握っていた。

「皆さんご存じのとおり、【王】の名は禁忌です。よって彼には明晩、里から退去することを求めます」

 茜は流れるように伸ばした手を穹に向ける。手折れそうな手首には、朱律と同じく太い手枷が填められていた。その材質は鋼ではなく、魄樹の文様が浮かんだ未知の白い金属だった。

 穹はぎょっと目を見開く。男たちに動揺を悟られる前に、素早く頭を下げ平れ伏した。

「承知しました。命を助けていただいたご恩をお返しできず心苦しいばかりですが。この里にご迷惑とならないよう、明朝に出立します」

「よろしい」

 これで一件落着とばかりに、茜は両手を打ち鳴らした。乾いた音は、男たちの困惑を祓い正気を取り戻させる。

「意義のある者は」

 茜が順に視線を向けていくと、一人の老人がぎこちなく手を挙げた。茜は発言の許可を与える。

「この者は、外に出てこの里のことを触れ回るのではありませんか。もし、外界に里が知れれば」

「なるほど。貴方の心配は理解できます。ですが、彼の職業はジャンク屋。そのような者の言葉を、森の中で木に囲まれて暮らす人々がいるなどと、誰が信じるでしょう」

「この者は盗掘者であったのですか。確かに、そのような者が語ったところで、生死の境で見た幻想と思われるのが落ちでしょう」

 別の老人が手を挙げる。 

「その者が遺跡から盗ってきた物は、どうするおつもりですか」

「そのまま持って行かせるのが良いでしょう。触らぬ神に祟りなし、です」

「むしろ、祟りごと持って行ってもらう、と」

 老人が納得すると、ほかの男たちも同じ不安を抱えていたのか、誰からともなくため息が漏れた。

 茜は他に意疑義が挙がらないことを確かめると、目の前の料理に手を向けて微笑んだ。

「さあ、夕餉をいただきましょう」

 巫女の言葉に、男たちはおずおずと食事を口に運び出す。

 穹は大きく息を吐くと、箸を手にした。

 食事が済み、穹が席を立とうすると、先ほどの大男に呼び止められた。

「あんた、穹っていったかな。どうだい、一杯」

 男は既に顔を赤らめており、気さくに穹の肩に腕を回す。穹は木製のお猪口を受け取るとまじまじと見つめた。一息に呷る。

「おお! いける口か。どんどん呑みな!」

 いつの間にか集まってきた男たちから杯を勧められつつ、質問に適当に応えていると、場はやがてただの宴会となっていった。

 周囲から人がいなくなったのを見計らい、穹は上座へと行き、茜に暇乞いを告げる。

「俺はこれで」

「あら、もう? もっと楽しんで行って良いのに」

「いや。夜明けと同時に発ために休ませて貰いたい」

 茜は赤みが差した頬を膨らませ、子どものように唇をとがらせた。

「お礼は」

「は?」

「命を助けたお礼に、朱律の婿になってくれないかしら」

「この親子は……」

 机にお猪口が勢いよく叩きつけられた。

「お母さん、またその話」

 朱律は薄紅色の頬をひくつかせ、茜をにらんだ。アルコールで緊張がほぐれた肢体は傾き、しなをつくっているように見える。

「だってねえ。朱律も、そろそろねえ」

「いいでしょ別に。誰彼かまわずそんな話しないで」

「誰でもって事はないわよ。きちんとした殿方に」

「これのどこがきちんとしてるって?」

 穹は憮然とした顔で口を開きかけるものの、なおも掛け合いで盛り上がる母娘を見て言葉を飲み込んだ。

 華やかな口げんかに背を向け、その場を後にする。

 屋敷を出て、騒々しい夜を独り歩く。

 月明かりに照らされた短い草が揺れるさざ波。無数の葉擦れが重なるさわさわと乾いた音が穹を包み込む。

 ふと立ち止まり、小さく笑う。ありえない酸素植物の里に向けられものか。あるいは、己の心に訪れた感傷に向けられたものだったのか。しばし肩を揺らした後、とりつくろうように無表情を貼り付け歩みを再開した。

 寝かされていた建物に戻ると、枕元には銃弾一式が置かれていた。乾燥させた芋と米、そして飲み水が袋に詰められている。

 6丁の拳銃を一通り整備してから床に就く。陽光の匂いがする布団に潜り、ぼんやりと天井の模様を目でなぞる。

 魄樹が無くなった世界はここのように、搾取されることがない世の中となるのか。はたまた、領土を取り合う太古のようになるのか。仮定の未来は、想像力の埒外にある。シンプレクタイトメモリのデータを閲覧し、魄樹の秘密と弱点を探る。今の穹には、それしか考えることができない。

「【王】、か」

 その言葉の意味を聞きそびれていた。今更戻り、宴に水を差すのもためらわれる。穹はまぶたを閉じた。

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