第5話「エラーリスト―file:01―」
今年で三十六を迎え、愛しい妻と、可愛い子どもに囲まれ、仕事も業績を伸ばし、それなりの地位も手に入れた。
三十年のローンだが、一戸建ての我が家も手に入った。
何不自由ない生活。
今までの苦労が嘘だったかのように幸せな時間が流れている。
庭で楽しそうに遊ぶ子どもを少し離れた所で私は眺めていた。
「あなた、何しているの?」
リビングから隣接する窓際の壁にもたれて微笑んでいると、妻がエプロンで手を拭
きながらに傍に立っていた。
「ああ、いや、こんなに幸せでいいのかなってさ」
「今まで苦労してきたんだから、ちょっとのご褒美くらい貰わないとね」
彼女は綺麗な金色の髪を揺らしながら話す。
子どもを優しく見つめながら微笑む彼女もまた愛おしい。
私の人生は、私の価値は、この瞬間の為にあったのだと胸を張って言える。
高校、大学、就職をしてからも、彼女は辛い時も苦しい時も、苦楽を共にしてきたパートナーであり、最愛の妻であり、親友のような、私にとって特別な存在だ。
「そうそう、あなた、ご飯ができたからあの子を連れてきてくれないかしら?」
「おお、もうそんな時間か。呼んでくるよ」
落ち葉を集めて遊んでいる我が子の方へと歩き出し、私は声をかけた。
「さ、ごはんが出来たから戻ろう」
「えー、やだー」
「だーめ」
落ち葉をクッションに寝転がる我が子を脇に抱え、くすぐったいと笑う子どもの笑顔に心が和んでいく。
小さな暴れん坊を抱えたまま、私はその場でくるくると回る。そうするとより一層我が子は嬉々とした。
笑いながらも私の腕を振り払おうとする我が子をしっかりと抱きかかえ、私はリビングへ向かおうとした。
「いや……!」
部屋の中から彼女の叫び声。
ハッとして立ち止まると次に銃声が響き渡った。
窓付近に取り付けられたカーテンには真っ赤な花火のような模様が出来上がっていた。
私は動けなかった。子どもは依然として笑っている。
かさかさと枯れた草の踏みつけられる音を背後に感じて振り向いた時、私の視界は暗転した。
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