第11話副団長は考える


副団長視点です。 



 王都には、高級な料理店から大衆居酒屋まで様々あり、服や雑貨など手に入らない物はないくらい多くの店ある。ただ、王都から離れると小さな町や農村が広がる。更にその先には貧困地域がある。貴族は勿論のこと農民ですら近づくことはない無法地帯である。

 だだ、誘拐など犯罪行為で集められた奴隷市を目的としてくる人間はいる。


 王都には奴隷大国のルキア帝国から輸入された奴隷がいる。

 国公認の奴隷は所有者の名前が入った首輪もしくは腕輪、指輪をしている。奴隷の問題行動は所有者の責任となるため余り奴隷が町を歩くことはない。


「待たせたな、行くか」


 騎士団の副団長としての仕事を終えた私は上司であり、友人の騎士団長トーマスを待っていた。


 仕事を終えたトーマスが騎士館からでてきた。今日は色々ありすぎてトーマスと話がしたいと思っていたところトーマスから誘いを受けたのだ。


 王都には他言無用の話が出来る店がいくつかある。その一つに予約を入れた。騎士団の名前を使えばどこでもすぐに予約ができるが個人的にはあまり使いたくない。

 権利ばかりを求める貴族に嫌気が差していた。だから私は爵位の継承権を捨てた。そのおかげで可愛い人を妻にすることができたのだから幸せだ。


 騎士になって権利を使ったら貴族と変わらないと思うのだが、今回は仕方ない。


「どうした?はいるぞ」


 考え事をしている間に目的に到着した。

 返事をしてトーマスと共に入店する。店の門を潜ると案内人がおり名乗ると馬車へ案内された。

 部屋は一つ一つ離れの屋敷になっている。そのため、店の門でしか他の客と会うことはない。この店までも馬車でくる貴族も多いが私たちは騎士館から近いので徒歩だ。


 屋敷内に厨房やトイレ、シャワールーム、寝室まで備えており宿泊も可能である。予約すれば何も言わずとも48時間貸し切りとなる。利用後24時間あけ次の利用者を案内するシステムである。


 だからを共有する者が利用する。


 今回は食事や飲み物はすべてテーブルに並べてもらい屋敷の中に従業員か入らない様にお願いした。これから話すことは不敬を問われる可能性がある。


「これでいいか?」


 上着を脱ぐトーマスに酒瓶を見せ頷くのを確認するとグラスに入れ席に着いた。

 私とトーマスが友人でもあるため、業務外では気軽な付き合いをしている。私はその関係がとても好きだ。


「いきなり本題でも構わないかい?」


 私の目の前に座りながらトーマスは声を掛けた。そんなトーマスを見返し苦笑する。

 普段のトーマスは騎士団長をしている時とは違い一方的に物事を決めることはない。小さな事でも毎回確認してくれる。


「勿論。そのためにわざわざここを予約したのだよね?」

「そうだな。第二王子殿下の事だ」


 一口酒を含むと声を潜めて、「王子殿下の様子の変化、ハリーの件だ」と言葉を続けた。


 まぁそれしかないよね。


 ルカ第二王子殿下の変化は気になるところではあるが直接自分の業務に関わらないのであれば様子を見ても問題ないと思っている。

 しかし、ハリーを探していた件は気になる。


 トーマスは眉を潜め、コップに入った氷をカランカランとならしながら私の言葉を待っているようだ。話しを進めてくれてもいいと思いながらため息をついて私は口を開いた。


「王子殿下自身がハリーを探していたことを考えると、探していた事を他言されたくないのだろうね」

「そうだな。一緒に探して欲しいという依頼は撤回された。ハリーは騎士館内に居たのだから無断外出ではない。すぐに上層部への報告は必要ないだろう」


 そう言ってから少し間をあけ、目を細めた。「ただ、ハリーの調査は必須だ」そう決断する彼は騎士顔になっていた。


 トーマスの意見に同意する。


 ルカ第二王子殿下が探していたのだ、何かしらあるのだろう。


 騎士団は平民が多い。ルカ第二王子殿下がただ平民嫌いだからといって特定の人物をご自身で探すことは考えにくい。


 しかも、とても焦っていたご様子であった。

 騎士団として把握する必要がある。


「わかった。私が調査しよう」


 現状、何にもわかっておらず調査理由も他言できないため他の騎士に依頼することは出来ない。


 私が動くしかない。


「明確な敵意かあれば、悠長なことせず騎士を使おう」


 そう言って、私の顔見るトーマスは顔色がすぐれない。今後の方針は決まったのだからとりあえずは大丈夫であるはずだ。だとすれば彼が気にしているのはただ一つだ。


「それで、ルカ第二王子殿下の事を気にしているのか?確かに今日はいつもと違うご様子であられた。しかし、それは騎士団や国に直接的に被害が出るとは現段階では考えられない。様子を見るべきであると思うよ」

「そうだな」


 納得したような言葉を発するがトーマスは不満そうな顔をしてグラスに口をつけると一気に飲んだ。コップから酒がなくなりカランと氷の音がなった。空になったコップに酒をそそぐ。


「全く、何が不満なんだ。そんなだから妹も心配するじゃないか。


 トーマスが勢いよく口に入っていた酒を吹き出した。それが目の前にいた私にかかる。それにたいして慌て謝罪をする。 


 顔を赤くして慌てるトーマスという珍しい物が見られた。

 慌てるトーマスを横目に席を立ち、棚からタオルを2枚出し自分の顔をふき、もう1枚をトーマスに投げて渡す。


「あ、すまない」


 タオルを受け取ると口を拭うトーマスを見ながら服を脱ぐとそれをトーマスに見せるように振った。


「この服洗うのは義兄さんの妹だよ」


 笑いながらその服を鞄に入れると、クローゼットから新しい服を取り出して着る。トーマスその様子を申し訳なさそうに私を見ながら新しい服代は「自分が払う」と言っていた。


「しばらくあっていないが元気にしているか?」


 トーマスは、自身の妹である私の妻に結婚式以来あっていない。基本的に嫁いだ家族に頻発に会う事はないが大切にしていた妹だ。


 心配なんだろ。

 よく様子を聞かれる。


  「元気だよ」

「そうか」


 短く返事をするとトーマスはまたコップに口をつけた。

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