第四章 ~『土人形の騒動』~
「メアリーの奴はすぐに来るとさ」
念話の魔法でジェシカの治療をして欲しいと伝えると、たまたま学園近くにいたのか、すぐに向かうと約束する。
「延命措置はこれで良しだが、根本解決の手も考えないとな」
「フレディさんを探しますか?」
「タイムリミットがあった先ほどまでとは状況が違う。こちらから焦って動く必要はなくなったんだ。待つというのも手だ」
「え、でも、フレディさんは逃げたんですよね。先生の前に再び顔を見せるとは……」
「いいや、奴は俺を狙ってくるさ。あいつも言っていただろ。『超人化の指輪』は強者五人の生命力を奪うことができると。四人分の力を吸収しているなら、残りは一人だ。折角見つけた獲物を見逃すような真似はしないだろ」
「でも先生を狙っているなら、あの場で逃げる理由はなかったのでは?」
「それは奴が卑怯だからだ。正面からの闘争ではなく、自分に有利な状況を作ってから襲ってくるつもりなのだろう」
「厄介な相手ですね……」
「だが相手の卑怯を上回ってこそ、真の武闘家だ。上手く隙を突いて、奴を倒すぞ」
「はいっ!」
アリスの意気込みにはジェシカを救いたい気持ちが現れていた。戦う気力は十分に満ちている。
「ジェシカはメアリーに任せて俺たちは帰るぞ。フレディとの闘いに備えないとな」
「ジェシカさん、また来ますね」
「待っているわね……」
ニコラたちは乾いた笑みを浮かべるジェシカを尻目に病室を後にする。扉を開けると、そこにはメアリーが立っていた。彼の表情が不機嫌に染まる。
「保健室の外でわざわざ待っていたのか?」
「師匠たちが話をしていたので邪魔をしては悪いと」
「気を遣わせたな」
「い、いえ……でも、師匠が冷静で意外です。ジェシカを許したのですか?」
「許すはずないだろ。だが生徒たちの頼みだからな。渋々、助けてやるだけだ」
「師匠……」
ニコラの言葉の節々には憎悪が滲み出ている。その憎しみはメアリーに対しても例外ではない。彼はまだ彼女を許していなかった。
「師匠、私、治療を頑張りますね……だから……裏切った日のこと……許してはくれませんか?」
メアリーは縋るように訊ねるが、ニコラの表情は固いままだ。彼なりの答えだった。
「メアリー。言葉だけならいくらでも繕えるが、あえて正直に答える。たとえジェシカの治療に協力してくれたとしても、裏切りを許すことはない」
「…………っ」
「だが少しだけ、ほんの少しだけなら見直してやる」
「師匠!」
メアリーはパッと明るい表情を浮かべると、嬉しそうに頬を緩ませる。
「師匠のため、ジェシカを治療してきます!」
「頼んだぞ」
メアリーはジェシカの病室へと飛び込んでいく。その足取りは軽快だった。
「先生はやっぱり優しいですね♪」
「お前は俺を勘違いしているぞ」
「えへへ、そうですかね♪」
ニコラとアリスは共に学園の廊下を歩く。アリスの口元は緩んでおり、いつも以上に上機嫌だ。
「ニコラ、ここにいたのね!」
「姉さん……」
サテラが廊下を走ってくる。いつも平静な彼女にしては珍しく、額に汗が浮かんでいた。
「緊急事態よ。シャノアの街がピンチなの。あなたも協力しなさい」
「ピンチ?」
「土人形が街の人たちを襲っているの。国からも要請があってね。学園の教師は駆り出されているわ」
「土人形か……しかも街全体を襲撃だ。熟練の魔法使いの仕業だな」
土魔法には自立行動する人形を生み出す力が存在する。扱いが難しく、消費魔力が大きいため、低位の魔法使いでは唱えることさえできない。
「バニラさんの仕業ですかね?」
「間違いなくな」
あまりにもタイミングが良すぎた。フレディがニコラを狩るために仕掛けた罠で間違いない。
「火中に飛び込まなければ、ジェシカさんを救えません。行きましょう、先生」
「ああ」
ニコラたちはシャノアの街を目指す。組織との最終決戦が始まろうとしていた。
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