第三章 ~『勇者と仲直り』~
ニコラの元から立ち去ったメアリーは涙を零しながら、何度も何度も宿屋を振り返った。だがニコラが彼女の後を追ってくる気配はない。
「当然だよね……」
失った信頼は簡単に取り戻せない。メアリー自身十分に理解していたことだった。
「久しぶりに顔を見られただけで満足しないとね……」
人混みの喧噪でメアリーの独り言は宙に浮いて消える。すれ違う人たちは涙を零す彼女に関心を見せず、ただ通り過ぎていった。
「いいえ、このままでは駄目よ。私は師匠に罪滅ぼしできていない。自己満足で終わっちゃ駄目だわ」
何かニコラのためにできることはないか。調査したニコラの現状と、自分ができることを照らし合わせて、最善の方法を考える。
「師匠は弟子のエルフを国王戦に参加させるつもり。なら決勝トーナメントの優勝を目指すはず。そうだわ。私が出場して、師匠の弟子エルフにワザと負ければ、きっと役に立てるはず」
だがメアリーはすぐにその考えを振り払う。彼女はエルフ族ではない。国王戦へ参加するには市民権が必要だった。
「もしかしてあれは……」
「メアリーか!」
道の向こう側から金髪の男が近づいてくるのが見えた。メアリーと共に勇者パーティを組んでいたジェイである。昔の華麗な風貌は見る影もない。薄汚れた冒険者となっていた。
「メアリー、どうしてこんな場所にいるんだ?」
「色々とね。それよりもあなた、浮気したくせに良く私に声をかけられたわね」
「まだ根に持っているのかよ……」
「いいえ。もうなんとも思っていないわ。それに最低なのは私も同じだもの」
メアリーは自嘲めいた笑みを浮かべる。ジェイも何かを察したのか、乾いた笑みを漏らした。
「あなたはエルフ領へ何しにきたの?」
「国王戦に参加しにきた」
「え、あなたエルフ領の住人でもないのにどうして参加権を?」
「実はエルフ領の市民権をもらったのさ」
ジェイはサイゼ王国の老婆から受け取った市民権の証明書を見せる。そこにはジェイがエルフ領に十年以上住んでいる記録が記されている。
「これ偽造よね。大丈夫なの?」
「仕方ないさ。こうでもしないと国王戦には参加できないからな」
「……あなた、そうしてまでエルフ領の国王になりたいの?」
「いいや。俺はただ追放したニコラと仲直りをしたくてさ。でも普通に会うだけだと、仲直りは難しいだろ。そこで国王戦だ。俺が決勝トーナメントに進めば、そこにはニコラもいる。懐かしい仲間と運命を感じる出会い。俺の親友なら過去の過ちを許してくれるはずさ」
「それだけだと足りないわ」
「そうか?」
「そうよ。だからより確実な方法があるの」
ジェイの話はメアリーにとって渡りに船だった。彼女はジェイに計画を語ると、彼は提案に同意する。ニコラと仲直りするための二人の計画が動き始めた。
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