第二章 ~『裏切りとダークエルフ』~
「次はイーリスの番だ。話してもらおうか」
「何も話すことはない……」
イーリスは頑なに話すことを拒絶する。無理矢理聞き出すことも、アリスがいる手前難しい。こういう場合は相手が話したくなるようにするのが一番だ。
「さては復讐だな」
「復讐ですか?」
アリスが何か恨まれることをしたのかと不安気な声で訊ねる。
「ダークエルフはハイエルフによって領地を奪われ、イーリスは両親を殺された。その恨みがハイエルフの姫であるアリスに向けられ、今回の事件が引き起こされたんだ」
自分でもありえないと分かっていながらも、ニコラはイーリスを挑発する。もしアリスを酷い目に合わせたいのなら、機会なんていくらでもあったはずだからだ。
「わ、私は姫様を恨んでなどいません」
「ならなぜこんなことをした?」
「……言えません」
「イーリス……」
アリスが悲しげな表情を浮かべると、イーリスは良心が痛んだのか、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。もう少しだと、ニコラはさらに煽ることに決めた。
「アリスも災難だよな。長い付き合いだったのに裏切られるなんて」
「ち、違――」
「違わないさ。俺も裏切られたことがあるから良く分かる。どれほど親しい仲でも裏切るクズはいるんだ。イーリスも内心ではアリスのことをさぞかし馬鹿にしているだろうさ」
「ほ、本当に違う。わ、私は、姫様のために……」
イーリスは言い淀む。もう一押しだとニコラが追撃を加える前に、悲しげな顔をしたアリスが一歩前へ出た。
「イーリス、私はあなたのことを家族だと思っています」
「姫様……」
「だから本当のことを話して。約束します。どんな理由だったとしても、私はあなたを許すと」
「ひ、姫様――っ」
イーリスは一瞬悩む素振りを見せたが、意を決したのか、重々しく口を開いた。
「最初に一言だけ言わせてください。私の行動はすべて姫様のためにしていることです」
「私のために?」
「私も詳細は教えられていませんが、信頼できる人から直々にお願いされた仕事です。その仕事内容は、姫様を襲う襲撃犯たちをサポートすること。そして最終的にある人の元へと連れていくこと」
「ある人?」
「襲撃犯たちのボスです」
「私を誘拐しようとした理由もその人なら知っているのですね」
「はい。ただ無茶なことはしないでください。あの人は強すぎます。きっとこの学園のどんな教師よりも強いです」
「それは俺よりもか?」
「私の見立てではな」
「へぇ~」
ニコラは自分より強い者がいると聞いて嬉しくなる。山から降りた彼は自分と対等に戦える相手がおらずに寂しさを感じていたのだ。勇者パーティの一員として魔王領で戦争をしていた時は、敗北の危険が常に隣り合わせだっただけに、彼はあの頃の緊張感を取り戻したいと願っていた。
「そいつはこの島にいるんだよな?」
「戦うのか?」
「ああ」
「勝てるはずがない。それに戦うにしても、もう少し時間を置いた方が良い。度重なる戦いで、闘気をかなり消耗しているはずだ」
「そうでもないさ」
ドワーフの男も長髪の男も世間の基準で考えれば十分に強いが、ニコラと比較すると足下にも及ばない相手だ。そのため彼は一切の疲労を感じていなかった。
「さてこれからの作戦だが……」
イーリスの言葉を信じるなら、襲撃犯のボスはニコラ以上の実力者だ。彼は万全を期すための卑劣な策を用意する。
「相変わらず貴様は卑怯だな」
「なんとでも言え。勝利は確実にだ」
「そうですね。この闘い方こそ先生ですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます